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日本船舶海洋工学会論文集 第2号

 事業名 造船学術の振興
 団体名 日本船舶海洋工学会 注目度注目度5


緩衝型船首構造の耐衝突性能
―第2報 油流出防止効果―
 
正員 遠藤久芳*  正員 山田安平*
正員 橋爪 豊*
 
* (独)海上技術安全研究所
原稿受理 平成17年10月20日
 
The performance of buffer bow structures against collision -2nd report: the effect in preventing oil outflow-
 
by Hisayoshi Endo, Member
Yasuhira Yamada, Member
Yutaka Hashizume, Member
 
Summary
 We still have experienced cargo oil spill from a stuck D/H(double hull) tanker like the accident case of "Baltic Carrier (at Denmark in 2001)" "Buffer Bow" has come to be considered as an innovative strategy following after D/H system to prevent marine environmental pollution. The mission expected to buffer bow is "minimizing the damage on the struck ship" and thus "decreasing the risk of oil outflow from struck D/H tankers" when it encounters collision accidents. This performance is supposed to be realized by such structural characteristics as "to be crushable" and "to have high energy capacity in the internal mechanics". As the measures to represent the performance level of buffer bow the critical striking velocity (VB,cr) and the critical collision angle (θcr) are proposed. Those critical events are defined as the threshold where the inner hull of struck tanker is ruptured or not.
 As it has been confirmed in the preliminary investigation that the bulb structure is most threatening to struck ships, buffer bow design considered is focused on bulb structure. The buffer bow design items which are supposed to be effective are (1) blunt shaped configuration, (2) transverse stiffening system and (3) adopting minimum shell thickness. The advantage expected to those design items are the fact that no special equipments nor special materials are needed. Their contributions have been evaluated through a series of FEM simulation analyses adopting a VLCC as the model struck ship, and VLCC's and container ships as the threatening striking ships. The effectiveness of buffer bow is confirmed by comparing the performance of the critical striking velocity and the critical collision angle between buffer bows and standard bows.
 At the final stage the effect of buffer bow is evaluated by focusing on the performance that how much the risk of oil outflow is decreased “The mean oil outflow” is derived based on probabilistic procedure considering dangerous collision scenarios. The case study has shown that the probabilistic oil outflow is decreased by about 80% if buffer bow design is adopted to VLCC.
 
1. 緒言
 船首を柔構造とするコンセプトは、1960年代に高速客船を対象として提起された1)が、近年になって造船業基盤整備事業協会により実施された研究プロジェクト「船舶からの排気ガス浄化および船舶からの油流出防止」(1991〜1998)の最終段階において、バルバスバウを有する大型の貨物船を対象とした緩衝型船首構造が検討対象とされるようになった2)。1996, 1997年には緩衝型船首が試設計され、FEMによる強度解析も実施された。その後、緩衝型船首構造を国際規則として提案することを目指して、日本造船研究協会においてRR76「タンカーの油流出量低減対策に関する研究」(1998〜2000年)の一環として「緩衝型船首構造の検討」が採り上げられた3,4)。2001年からは、国土交通省から委託を受けた海上技術研究所がこの研究を継承して、国際基準化のためのバックデータを整備する研究を実施した5,6,7,8)。第1報5)では、船首バルブ構造の圧潰強度に焦点を当てて、緩衝型設計を含む種々の補強様式を採用した3体のバルブ部構造模型を用いた圧潰実験結果とその解析結果について報告した。本論文は前報(第1報5))に引き続き、実船舶に緩衝型船首構造を採用した場合の効果について、特に油流出防止の観点から取り纏めた結果を報告するものである。
 これまでの研究から、衝突されたタンカーからの油流出事故を防止するためには、ダブルハル(D/H)化に続く次の対策として、「緩衝型船首構造」が有望視されている。ここで、柔船首といわず緩衝型船首(Buffer bow)と称しているのは、衝突する時に単に自船船首が先に壊れれば良いとするのみではなく、衝突する2船による破壊吸収エネルギーをできるだけ高いレベルで確保しながら被衝突船の損傷程度をある限界以下に抑制するという性能を目指していることによる。
 本論文では、緩衝型船首構造の設計ガイドラインを提示すると共に、船舶の衝突事故シナリオを想定して、衝突破壊のFEMシミュレーション解析を実施することにより緩衝型船首構造の効果を検証した。先ず、代表衝突シナリオに対するFEMシミュレーション解析結果をバックデータとして、衝突条件を表す3変数(衝突船の速度VB、被衝突船の速度VA、衝突角度θ)に関して、内殻破断を発生させる閾値となる限関数(解曲面)の特性を明らかにした。この知見を基にして、一般的な2船衝突の揚合についての限界関数を、少数ケースのFEM解析から導出する手法を示した。
 D/Hタンカーの内殻を破断して、油流出事故に至る危険を表す指標として、「衝突限界速度VB,cr」及び「衝突限界角度θcr」を導入した。さらに、種々の衝突事故シナリオを想定して、確率論に基づく「衝突事故時の油流出量期待値」を推定した。緩衝型船首及び標準型船首が衝突した場合について、限界速度、限界角度及び油流出量期待値の諸指標を比較検証しながら緩衝型船首の効果を定量的に明らかにした。
 衝突されたタンカーからの油流出低減は、1990年以後IMOでも度々採り上げられてきた大きな国際的課題である。しかし、衝突事故による損傷程度及び油流出量を一貫して解析的に推定した研究例は極めて少ない。米国のSSC(Ship Structure Committee)における共同研究において、衝突損傷を推定するSIMCOLと称する簡易解析プログラムを開発し、このSIMCOLを用いて特定タンカーに関して、確率論に基づく油流出量が推定された研究9)があるのみである。SIMCOLは、2船のあらゆる衝突条件に対して運動及び構造損傷を簡便に推定することができる有用な解析法である。ただし、衝突船の船首は剛体と仮定し、被衝突船船側が一方的に損傷することを想定している簡易解析法であるために、本研究のように船首の破壊強度が問題となる場合には適用できない。本研究のように、衝突船と被衝突船の双方がその強度に応じて損傷する事を前提として油流出量を解析的に推定した研究は過去に例を見ない。緩衝型船首の性能を評価するためには、船首の損傷程度を精度良く推定する解析が不可欠である。この目的を達成するためには、現在のところ、FEMシミュレーション以外に信頼できる解析手法は無いと考えられる。
 
2. 緩衝型船首構造の設計要件
 これまでの研究4,5,6,7,8)から得られた知見によれば、緩衝型船首構造を適用する上で最も効果的な構造部分は、船首バルブ部である。バルブは真っ先に相手船に衝突すること、及び、その設置位置の関係で、被衝突船の水線付近もしくはそれ以下に損傷を与えることから、被衝突船の貨油漏洩を生じさせやすい。本研究では、緩衝型設計の対象をバルブ部に限定した。
 緩衝型船首としての性能向上を図るための設計要件として、以下の(A)〜(E)が有力である。
(A)船首バルブ部における横肋骨補強方式の採用
 縦肋骨方式に比べると圧潰強度が低減する。軸方向の座屈変形が発達し易いために、圧潰時の塑性変形モードとなるFolding(折りたたみ変形)が促進され易い。
(B)バルブ外板板厚の最小化
 船級協会規則によれば、バルブ外板の板厚は静水圧や衝撃水圧等の外力を想定した局部強度により決定される(外板板厚は肋骨のスペースに比例)。本研究では、船級協会規則の範囲内で(肋骨のスペースを工作上の制限を考慮した最小値750mmに設定)最小化する。従って、緩衝型設計が適用されても、環境外力に対して従来と同等の耐力を維持している事になる。
(C)内構材の省略
 肋骨が塑性崩壊する前に桁等の内構材が破壊しない程度で、中心線桁材等を出来るだけ省略する。
(D)バルブ外形
 断面積及び縦横の寸法を大きくすることにより、衝突時に相手船に与える損傷の深さを軽減することができる。しかし、バルブ外形は流体力学的な性能から決定され、衝突強度が設計条件として考慮される余地は期待できないと考えられる。本研究では、扁平形状バルブと尖鋭形状バルブを比較検証して、扁平型船首構造の緩衝型船首構造としての有効性を定量的に明示するに止めた。
(E)バルブ根本の横曲げ断面強度低減
 斜め衝突時にバルブ部の曲げ変形を促進させることにより、衝突時の接触面積を増大させることができる。バルブ根本における断面係数を小さくする設計手段としては、外形を変更すれば一番効果が大きいと考えられる。しかしここでは、外形の設計変更には立ち入らないこととし、バルブ外板の板厚を小さくすることにより、断面係数の低減を図った。
 本論文では、通常は緩衝型船首の設計要件として(A),(B),(C)を採用した。(E)は要件(B)に含まれている。設計要件(D)に関しては、その効果に関して定量的に比較検証を行った。ただし、コンテナ船(Table lのB5L,B5T、バルブ外板の材料として高張力鋼KA32を使用)の場合には、標準型船首(B5L)において既に肋骨スペースが小(650mm)であったので、B5Tの肋骨スペース及び外板の材料と板厚はB5Lと同じとし、緩衝型設計要件の内(A),(C)のみを適用した。
 
3. 緩衝型船首構造の性能評価法
3.1 衝突シナリオ
 本研究で追究している緩衝型船首構造とは、「衝突されたD/Hタンカーの内殻を破損させて、タンクの貨油流出に至る事故を軽減する」性能を有する構造である。この性能を検証するために、代表被衝突船及び代表衝突船を設定して、汎用FEMプログラムLS-DYNAを用いた衝突破壊のシミュレーション解析を実施して、緩衝型船首構造を採用した場合の効果を標準型船首構造の場合と比較した。衝突時の2船のFEMモデル及び衝突位置関係をFig. 1に示す。
 
Fig. 1 Collision scenario and Analysis model.
 
 2船の質量(付加質量を含む)M、速度Vにはサフィックス“A”,“B”を付けて被衝突船と衝突船を区別している。
 衝突事故事例(海難審判庁採決録1985〜2003)を参照すると、衝突時の衝突船の船速は5〜15ktで一様分布に近く、被衝突船の前進速度度分布もほぼ同様である。また衝突角度(θ)も全角度でほぼ均等に分散している。以上の背景に基づいて、衝突事故シナリオとして、衝突角度はあらゆる角度を対象とし、被衝突船は前進速度を有していることを想定した。ただし、被衝突船の衝突部位に関しては、最も厳しい条件である、船体中央タンクの横隔壁(及び制水隔壁)間中央部で且つトランス部材間中央部を想定した。
3.2 評価指標
 衝突条件を以下の2種類に分類し、それぞれの破壊モードに対応する評価指標を設定した。
(1)静止している被衝突船に真横から衝突する場合
 船首バルブ部は圧縮力を受けて圧潰すると想定される。この衝突条件(VA=0kt、θ=90deg)は被衝突船にとって最も厳しい条件である。この衝突条件において、内殻破断を発生させる衝突限界速度(この速度以上になると破断が発生すると推定される限界の速度)をVB,crと定義する。
(2)前進している被衝突船に様々な角度で衝突する場合
 船首バルブが横曲げモーメントと圧縮力の組み合わせ荷重を受けて横曲がり変形しながら崩壊すると想定される。緩衝型船首構造の効果を、衝突角度を指標として定量的に評価するために、衝突船及び被衝突船の速度は一定値に固定した。ここでは、被衝突船は航行中に衝突されることを想定しており、避航操作を考慮して代表速度をVA=9ktに設定した。衝突船の速度については、タンカーの場合にはVB=15kt、コンテナ船の場合はVB=20ktを想定した。この衝突条件において内殻破断を発生させる衝突限界角度をθcr(=θcr1〜θcr2)と定義する。限界角度の範囲が大きいほど内殻破断(=油流出)を発生させるリスクが大きいことになる。
 なお、3. 3節で導出する限界関数を適用することにより、2船の速度がこの固定値から変化した場合についても内殻破断の有無を推定することが可能となる。


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更新日: 2019年8月10日

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