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3. 六面体自動メッシュ生成戦略の提案
 以上のような考察から、本研究では完全自動の六面体メッシュ生成手法として、Fig. 6に示すようなプロセスを提案する。
 
Fig. 6 Flow Chart of Hexahedral Mesh Generation
 
 解析対象の3次元の立体形状がB-repモデル(境界形状で表現される3Dモデル)17)で与えられると仮定する。まず、既存の四角形メッシュジェネレータ18〜20)を用いることにより質の良い四角形メッシュ生成を行うことができる。次に、生成された四角形メッシュに対して2.1節に示した方法でウィスカーループを作成する。各ループ上に自己交差面が存在する場合には、本研究で提案する自己交差を除去するための表面四角形メッシュ修正法により、最終的に自己交差のない表面四角形メッシュとウィスカーループを作成する。さらに、それらを元に本研究で開発した改良ウィスカーウィービング法を用いて、六面体メッシュを生成する。ところで、ウィスカーウィービング法では、四角形表面メッシュに自己交差がない場合でも、場合によっては形状が悪い要素が生成されることがある。そこで本手法ではメッシュ生成の最後にスムージング等のポストプロセスを用いて要素形状の改善を行う。本論文では、次節にて表面四角形メッシュ修正法を、また5節にて改良ウィスカーウィービング法について述べる。
 
4. 表面四角形メッシュ修正法の開発
 本節では、任意の表面四角形メッシュを入力データとして、自己交差する四角形面を除去する手法を提案する。具体的には、(1)四角形面消去、(2)四角形面生成による自己交差面の移動、(3)テンプレートの適用、の3ステップを組み合わせた四角形メッシュ修正法を開発した。
 
Fig. 7 Face Collapsing Techniques
 
Fig. 8 Effect of Positive Collapsing
 
4.1 表面四角形メッシュ修正法
4.1.1 四角形面消去法(Face Collapsing)
 自己交差を消去する簡便な手法に、Folwellらが最初に提案した四角形面の消去手法がある21,22)。Fig. 7(a)のように、自己交差が存在する場合、自己交差する四角形(Fig. 7(a)のグレーの四角形)をつぶすことにより、Fig. 7(b)または(c)のように、自己交差をなくすことができる。Fig. 7(b)は、節点0と節点2を縮約することにより、Fig. 7(a)の自己交差ループを2つの独立なループに変えている。また、Fig. 7(c)では、節点1と3を縮約することにより1つの自己交差のないループヘと変化させている。このように、同じ四角形面を消去しても2種類の結果が生じるが、ここでは、それぞれ陽消去法(positive collapsing)、陰消去法(negative collapsing)と呼ぶ。一般に、陽消去法は陰消去法と異なり、同一ループ内に複数の自己交差があった場合に、他の自己交差も同時に消去できる可能性があるという利点がある(Fig. 8)。よって、本研究ではできるだけ陽消去法を優先的に用いることとする。
 以上のような四角形面消去法は簡便な手法ではあるが、与えられた初期四角形メッシュによっては、Fig. 9のような不適な要素が生成される可能性がある。そのため、本研究では要素の質のチェックを行い、四角形面消去を避ける手法を導入した。Folwellらは、四角形面消去を避けるために、節点に接続する辺の数(Nv)をチェックする手法を導入した21)。例えば、Fig. 10(a)の場合に、四角形面消去が行われるとFig. 10(b)のように、2つの要素にしか接しない不適な節点(節点0,2)が生じる。そこで、四角形面消去により周囲の節点が次式の条件を満たさなくなる場合には、四角形面消去を適用しない。
2<Nv  (1)
 この条件は、2要素が2辺を共有するような、位相的に不具合な四角形生成を効果的に防ぐことができる一方で、Fig. 9右のように、ある辺に接続する節点数が多くなる場合等に対応することができないという欠点がある。よって、本研究では、(1)式の条件に加えて、以下のゆがみ度を用いた手法を導入した。すなわち、四角形面消去法により四角形を消去した後、その周囲の要素に対して、次式で定義される要素のゆがみ度を評価する。
 
 
 ここで、δθiは四角形の頂点iの内角での90度からの偏差を表す。Loらは、シェル解析における許容できる四角形要素の質としてδθiを±52.5°、またゆがみ度Fq≤105°を用いている23)。本研究では、この基準を満たさない場合には、四角形面消去を避けることとした。
 
Fig. 9 Unacceptable Element Shape
 
Fig. 10 Edge Valence Checking
 
4.1.2 四角形面生成による自己交差面の移動
 一般に、有限要素解析を行う場合、応力集中部等の解析上重要な場所においては、規則的な要素配置が望ましい(Fig. 11)。4.1.1節で示した四角形面消去法や、4.1.3節のテンプレートを用いると、メッシュの修正を適用した付近における要素分割パターンは不規則になってしまう。本研究では、このような問題を避けるために、ユーザーが制約四角形面(constraint faces)を指定することにより、指定した場所でメッシュの修正を避けることができるようにした。
 
Fig. 11 Constrained Quadrilateral Faces
 
Fig. 12  Modification of Quadrilateral Surface Mesh at Constrained Quadrilateral Faces by New Face Generation Technique
 
 Fig. 12(a)に典型的な自己交差の状況を示す。本研究では、制約四角形面における自己交差をなくすために、2つのサブループを切断することを考えた。すなわち、Fig. 12(b)に示すように、ループの通過する四角形面のうち3つの要素とのみ接している節点(Fig. 12(b)黒丸)を有する要素をサーチし、その付近の要素をFig. 12(c)のように修正することで、サブループを切断する。このような切断を2つのサブループに適用することで、制約四角形面における自己交差を避けることが可能となる。
 ところで、Fig. 11に示すような、物体形状の頂点や辺(Geometric edges, corners)に隣接する四角形面においては、4.1.1節で示した四角形面消去を行うと、ゆがんだ四角形が生成されてしまうことがある。よって、本手法では、このような四角形面も制約四角形面として取り扱い、自己交差面の移動を行う。
 
4.1.3 テンプレートの適用
 与えられた表面四角形メッシュに自己交差面が存在した場合、その面にテンプレートを適用することにより自己交差を除去する手法が提案されている16,24)。これらの手法は、確実に自己交差を排除することができる一方、四角形形状が悪くなってしまうという欠点がある。本研究では、最終的な表面四角形メッシュの質をできるだけ良いものとするために、主として上記4.1.1, 4.1.2節の方法を用い、除去できなかった四角形面に対してテンプレートを適用することとした。また、テンプレート適用後に、できるだけ初期の四角形表面メッシュの質(アスペクト比)を維持するために、Hannemanの四角形表面メッシュ生成プロセス24)で用いたテンプレートを応用し、Fig. 13のようなメッシュの修正を行う。すなわち自己交差面については、12分割するテンプレートを配置するとともに、自己交差のない他のすべての四角形面に対しては4分割する手法とする。これにより、表面四角形メッシュ全体において、要素サイズが半分(面積比で1/4)になるとともに、修正前の1つの自己交差ループは、3つの自己交差のないループヘと変換される。また、この操作により、表面四角形の数が最終的に偶数個になることが保証される。
 
Fig. 13  Removal of Self-intersection by Applying Templates


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