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3次元ソリッド解析のための完全自動の六面体メッシュ生成手法の研究
―表面四角形メッシュ修正法と改良ウィスカーウィービング法の開発―
 
正員 川村恭己*  学生員 Md. Shahidul Islam**
正員 角 洋一*
 
* 横浜国立大学大学院工学研究院
** 横浜国立大学大学院工学府
原稿受理 平成17年9月6日
 
Fully Automatic 3-dimensional Hexahedral Mesh Generation
- Improved Whisker Weaving Method with Surface Mesh Modification Procedure -
 
by Yasumi Kawamura, Member
Md. Shahidul Islam, Student Member
Yoichi Sumi, Member
 
Summary
 Due to the accuracy and the efficiency of hexahedral elements, automatic hexahedral mesh generation has a growing demand for finite element analysis. For this problem, several algorithms have been proposed by many researchers. However, reliable automatic hexahedral mesh generation has not been established yet. In this paper, a new strategy of fully automatic hexahedral mesh generation is proposed. In this strategy, the prerequisite for generating hexahedral is quadrilateral surface mesh. From the given surface mesh, combinatorial dual cycles (whisker sheet loops for whisker weaving algorithm) are generated to produce hexahedral mesh. Since generating good quality hexahedral mesh does not depend only on the quality of quadrilaterals of the surface mesh but also on the quality of the dual cycles generated from it, the method to remove self-intersections from dual cycles is proposed. The surface mesh modification procedure of the proposed method has three basic steps. These steps are (a) face collapsing, (b) new face generation and (c) template application. Next, automatic hexahedral mesh generator by the improved whisker-weaving algorithm has been developed in this paper. By introducing nodal placement technique, it becomes possible to generate hexahedral mesh with fewer bad-quality elements. Several examples will be presented to show the validity of the proposed mesh generation strategy.
 
1. 緒言
 有限要素法を用いた解析では、解析を行う前に対象領域のメッシュを作成する必要がある。近年の解析の大規模化に伴ってメッシュ生成の負荷の増大が問題となり、多くの自動メッシュ生成手法の研究が行われてきた。三次元ソリッド問題では、四面体要素による自動メッシュ生成手法が既に確立されてきている1〜3)。一般に六面体要素は、四面体に比べ近似関数の精度が良く、規則的な要素配置が可能なことから、多くの解析者に好まれている。しかしながら、現在のところ確立された自動六面体メッシュ手法は存在しないため、六面体メッシュを用いた解析モデル生成に大きな労力を必要としている。
 六面体メッシュ生成手法の研究としては、解析対象領域をマッピング法等が適用可能な単純なサブ領域に分割する方法4)や、2次元の四角形メッシュを引き延ばす方法(スイーピング)5〜7)、medial surfaceを用いて六面体メッシュ配置可能な単純形状へ分割する方法8)等があるが、これらは適用できる問題形状に制限があるなど完全な自動化には到っていない。また、Schneidersは、物体内部から境界へと格子状に六面体を配置していくGrid-based法9)を提案しているが、解析上重要である境界付近の要素形状が悪くなるという欠点がある。
 これらの手法の問題点を解決するために、最近、六面体メッシュ生成の前に、物体形状の表面に四角形メッシュを作成し、それをもとに物体内部に六面体要素を配置していく六面体要素生成におけるアドバンシングフロント法2)的な考え方が提案されている10〜13)。CannanらのPlastering法10)では、境界から形の良い六面体要素を順次配置していくことにより、六面体メッシュを完成させている。しかしながら、この方法では最終的に物体内部に複雑な形の空洞が生じることが多く、六面体のみでメッシュを完成させることが困難である。一方、ウィスカーウィービング法11・13)では、3次元実空間上で直接六面体要素を生成する代わりに、複数のウィスカーシートと呼ばれる2次元領域上でウィスカー(Whisker=ひげ)を編んでいく(Weaving)ことで、位相的な六面体要素のつながり情報を作成し、最終的に実空間上での六面体メッシュを生成している。この方法は、六面体同士の位相的関係に基づいた手法であるため、内部に空洞ができることはないが、表面四角形メッシュに生じる自己交差が原因でナイフ要素と呼ばれる有限要素として不適な形状の要素が生成されてしまうという欠点がある(2節参照)。また、3次元実空間の情報を用いないため、扁平な形の悪い要素が生成されてしまうという問題がある14)。以上のように、完全自動の3次元六面体メッシュ生成法の開発は大変困難であり、その手順の確立が望まれている。
 著者らは、質の良い六面体メッシュの自動生成のためには、表面四角形メッシュを元に要素配置を行うという考え方が最も有効であると考えている。よって、本研究では、対象とする物体表面を、まず四角形メッシュで分割を行い、それを元に内部で六面体メッシュを生成する完全自動のメッシュ生成手法を提案する。具体的には、
(1)完全自動化が可能な六面体メッシュ生成戦略の提案、
(2)表面四角形メッシュより自己交差を除去する手法の提案、(3)改良型ウィスカーウィービング法の開発、を行った。
 
2. ウィスカーウィービング法と自己交差の問題について
2.1 ウィスカーウィービング法
 本研究で提案する3次元六面体自動メッシュ生成法においては、まず表面四角形メッシュを入力データとして与え、それを元に対象領域の内部を六面体で満たしていく。六面体生成法としては、Tautegsらが提案したウィスカーウィービング法の考え方11)を改良した手法を開発した。ここでは、ウィスカーウィービング法のコンセプトを簡単に示す。
 ウィスカーウィービング法では、表面を四角形で分割された立体の内部を、ウィスカーシートと呼ばれる要素間の2次元的な位相情報の接続関係を用いて六面体を生成していく。例えば、Fig. 1のように、立方体表面を12個の四角形((1)〜(12))で分割された入力データが与えられたとする。まず四角形面を結ぶループ(ウィスカーループ、または、双体輪と呼ぶ)を考える。これは表面のある四角形のある辺をスタートし、四角形の対辺をたどって進んで行き、スタートした辺に到着することによって定義される(Fig. 1中の点線)。例えばFig. 1(a)の立方体上面の(4)の四角形面から出発したループは(5)(12)の面を経由した後、Fig. 1(b)の(11)(8)(7)の面を通り、Fig. 1(a)の面(4)へと戻ってきて一つのループができる。このようにFig. 1の場合、1から4まで番号付けされた4つの初期ループができる(Fig. 2(a))。このループを外周とする多角形が初期のウィスカーシートと定義される。初期ウィスカーシートにおける外周上の頂点は、実空間上では表面四角形を表す((1)〜(12))。また、頂点から出ているひげ(Whisker)は、物体表面上の四角形面を表している。本アルゴリズムでは、まずこのような初期シートを生成し、全てのシートの内部を多角形で分割する(Weaving)ことによってシートを完成させ、要素の結合関係を生成していく(Fig. 2(b))。Fig. 3に、シートが完成した後の実空間における要素分割のイメージを示す。Fig. 2(b)に示すように、完成されたシート内の各頂点(STC-Vertex)は、1つの六面体要素のシート上への射影を表している。例えば、Fig. 2(b)左のハッチ部分内の3つのSTC-Vertex([1],[2],[3])は、Fig. 3右図の点線部の3要素に対応する。すなわち、各シートの各STC-Vertexが4つの辺(STC-Edge=実空間上における要素面)と結合するようにウィービングすることにより、六面体要素を構成する面どうしの位相的な接続情報を作成できることになる。
 
Fig. 1 Example of Surface Quadrilateral Mesh
(a)  Front, Top, Right View  (b)  Back, Bottom, Left View
 
Fig. 2 Concept of Whisker-weaving Method
(a) Initial Sheet
 
(b) Completed Sheet (After Whisker-weaving)
 
Fig. 3 Generated Hexahedral Mesh
 
2.2 ウィスカーループにおける自己交差とナイフ要素
 一般に、貫通穴のない単連結の領域の表面が偶数個の四角形で分割されているならば、領域内部を六面体のみで満たせることが知られている11,15)。しかしながら、前節で示したウィスカーループ内に自己交差が存在する場合には、ナイフ要素と呼ばれる有限要素解析に用いることのできない要素が生成されてしまう場合がある11,14)。Fig. 4に、自己交差(Self-Intersection(SI))面の例を示す。星印の場所からウィスカーループをたどっていくと、面SIにてループが2度通過(すなわち自己交差)している。
 
Fig. 4 Self-intersection of the Dual Loop
(a)  A Block with Surface Mesh  (b)  SI of the Dual Loop
 
 ナイフ要素とは六面体の1つの面が潰れてしまい、見かけ上五面体に見える要素のことである(Fig. 5(b))。図中の面abcdをBase面と呼び、この例では、Base面の節点bとdの両方とも節点fと接続している。すなわち、六面体の1つの面(Fig. 5(a)の面efgh)が潰れて線efgとなったものがナイフ要素である。ナイフ要素を見ると、表面に描かれているループ(点線)が自己交差(self-intersect)していることがわかる。Fig. 5(c)にナイフが生成されたシートの例を示す。自己交差した同じ表面四角形面(面(49),(50),(51))から発した2本のWhiskerが互いに結ばれてできたSTC-Edgeの両端は、同じ番号のSTC-Vertex(すなわち同じ要素([10],[23],[9]))から発している(図中太線)。つまり、この要素のある面に接続する隣の要素は、その要素自身になってしまう。このように、表面四角形分割を基に内部を六面体で満たす際に、自己交差が存在すると、一部の極めてまれな例外(異なる自己交差面から発生するウィスカーが結ばれた場合16))を除いてナイフ要素が生成されることになる。すなわち、自己交差を有する任意の入力データ(表面の四角形分割)に対して、表面四角形を崩さないまま内部を六面体で満たすのは困難である。
 
Fig. 5 Knife Element As a Result of Self-intersection
(a)  General Hex Element  (b)  Knife Element
 
(c) Whisker Sheet with Knife Element


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