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Appendix
鉛直風速分布の航行性能への影響
 従来の風外乱下における船の操縦性能、運航評価では、鉛直方向に一様な定常風を条件として与えている。ただし、実海域では大気境界層の影響下、鉛直方向に速度勾配を持つ風が吹いている。
 鉛直方向に一様な風を想定した場合と3.3節で示した鉛直方向に風速が異なる風を想定した場合の相対風速及び相対風向角を比較した結果をFig. A-1に示す。なお、使用した座標系、記号等は全て本文で示した内容に従う。
 
Fig. A-1  Relative wind velocities and directions depended on boundary layer forms of steady wind in UT =30m/s and ψ=140deg. for (a) large passenger ship and (b) PCC cruising with 22knot and 20knot respectively
 
 真風速UTは30m/s、真風向角ψは140度の場合で、大型客船は22knot、PCCは20knotで航行する場合を想定する。図中、「Uni.」は一様風下での値を、「B.L」は境界層影響を考慮した場合の値を示す。大型客船の水面上平均高さHLは37.0m、PCCは23.1mであり、10m高さを基準とした風速を海象条件として与えた場合、それより高い船体はより速い想定風速に遭遇する。結果として本文中(24)式から求まる「B.L.」の換算代表風速は「Uni.」に比べて大型客船で48%増し、PCCでは18%増しとなる。同様に「B.L.」で相対風向属を求めるとそれぞれ29%、11%増しとなる。
 同様に「Uni.」と「B.L.」の代表風速差、風向角差を風速ごとに真風向角を変化させ大型客船の場合をFig. A-2に、PCCの場合をFig. A-3に示す。
 
Fig. A-2  Differentials of relative wind velocity and direction depended on boundary layer forms of steady wind for large passenger ship in U =22knot
 
Fig. A-3  Differentials of relative and wind velocity and direction depended on boundary layer foms of steady wind for PCC in U=20knot
 PCCでは風向角による風速差は小さいが、大型客船の場合は風向角により異なる値を持つ。風向角差については概ねψ=140°付近で値が大きくなる。今回の場合ではUT=10m/sが相当するが、真風速が船速に近い場合、風向角により風向角差が大きくなる。Fig. A-1からFig. A-3の結果、従来の計算で用いられている一様風速と境界層影響を考慮した代表風速との間には大きな差があることがわかる。
 次に定常航行状態への影響を調べる。風速30m/s、風向角60度の場合をFig. A-4を例示し、「uni.」と「B.L.」を比較する。Fig. A-2やFig. A-3で示されたように「B.L.」の場合は、「Uni.」に比べて風速が増加していることから定常状態の偏角、横傾斜角、舵角とも増加している。大型客船の場合は結果に大きな差が見られる。気象状況に合わせて、計算条件をより現実に即し設定することにより、正確な航行状態が把握できると考えられる。
 
Fig. A-4  Differences of ship steady condition between two kinds of wind velocity profiles for (a) large passenger ship (LPS) and (b) PCC in UT =30m/s, ψ =60deg.


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