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4. 波浪中の横揺れ応答試験結果
 前述の自由横揺れ試験の状態に加えて規則波を発生し、波浪中の動揺試験を実施した。風向と風速は同一方向で、風速は6m/s、波高は4〜6cm(Hw/dm=0.24〜0.35)とした。実験結果の一例として、風向が45°、波向が135°状態(風・波とも斜め向かい)で横揺れの同調点付近の波長において、帆を固定したk=0の状態から帆の角度を制御するk=-1.0に変えた場合の横揺れのタイムヒストリをFig. 8に示す。帆の角度を制御することによって、横揺れ角が直ちに半分以下に減少する様子がわかる。
 
Fig. 8  Time histories of roll and sail angle where k is changed from 0 to -1. (θ=45°, χ=135°).
 
Fig. 9  Frequency response of roll angle and roll reduction at tuning period. (α=10°, θ=45°, χ=l35°)
 
 Fig. 9の上図には上記の風・波の方向で、種々の波長に対する横揺れ応答関数を示す。計測された横揺れ振幅φaは波の最大傾斜角で無次元化して表す。横軸は波長船長比(λ/Lpp)である。ただし、波長λは波周期から推算した。同図にはストリップ法により求めた理論値も示す。ただし、この理論的推定では、前述の自由横揺れ試験より求めた減滅曲線をN係数(2次式)の形で与えた。また、実験ではswayが拘束されているのに対し、計算では自由としていることから両者の応答に違いが現れている。実験と理論計算結果から、この状態においては、帆の角度の制御定数kをマイナス側に増加することにより、特に同調付近の横揺れを大幅に低減できることが確認できる。
 Fig. 9の下図には、帆の角度の制御定数kの値に対する同調点の横揺れ振幅の減少量を示す。縦軸は帆の角度を制御しない場合の振幅を100%として表示する。実験結果と理論計算では多少の違いがあるが、k=-2においては横揺れ振幅の減少量は著しく、70%にも達している。
 
Fig. 10  Frequency response of roll angle and roll reduction at tuning period. (α=10°, θ=135°, χ=45°)
 
Fig. 11  Frequency response of roll angle and roll reduction at tuning period. (α=80°, θ=135°, χ=45°)
 
 一方、斜め後方からの相対風速に対しては、帆の推力に揚力を使う場合と抗力を使う双方が存在する。Fig. 10にはまず、揚力が主体となる局面で風向が135°波向が45°の状態の種々の波長に対する横揺れ応答関数と同調点の横揺れ振幅の減少量を示す。この場合、帆の角度を制御しない場合の横揺れ振幅は前述の斜め向かい波よりやや小さいが、制御定数kをプラスに増加させることによって横揺れを大きく減少させることができ、k=2における減少は60%に達する。
 この風・波の向きで抗力が主体となる場合の結果をFig. 11に示す。この場合は制御定数kをマイナスに増加させることによって横揺れを減少させることができ、k=-2においては上記とほぼ同程度の減少量が得られる。
 以上のように、補助推力を与える帆の角度を効果的に制御することによって、風・波が存在する実海域で横揺れを大きく減少できることが明らかとなった。ただし、本模型実験の風速をフルード則で実船に換算すると24m/sの強風に相当し、やや非現実的である。これに対しては既に2.1に示したように、帆角制御による減揺効果は帆面積、相対風速の自乗、帆の高さや揚力係数に比例していることから、例えば12m/s程度といった風速で本実験と同等な減揺効果を得るには4倍程度の面積が必要で、アスペクト比の大きい帆を装備すれば更に効果的に減揺できることになる。
 
5. 結言
 帆の角度を制御して横揺れを減少させる時の力学的メカニズムとその制御方法について検討した。主な結論を以下に要約する。
1)帆装船において帆の角度を横揺れ角速度に比例して制御すると、船の横揺れを容易に低減させることができる。ただし、制御定数kの極性は風向や帆の迎角の状態で変える必要がある。揚力が主体の場合は、相対風向が正面から約115°まではkの極性が負、115°から後方の風では正。逆に抗力が主体の場合は、相対風向が正面から75°までは極性が正、75°から後方の風では負の場合にアクティブな減滅係数が増加し、横揺れを減揺することができる。
2)このような制御を行った場合、帆面積、帆の揚力係数勾配、帆の相対風速の自乗、船の重心と帆の中心までの距離zS、および帆の角度の制御定数えに比例して横揺れ減衰が増加することが理論と実験で確認できた。
3)この減揺効果を規則波中の模型実験で確認した結果、各風向で減揺効果が現れ、特に風向45°、波向135°で揚力が主体の局面(帆の迎角が10°)においては減揺が著しく、風速6m/sで制御定数k=-2で、同調付近の横揺れを70%程度減少させることができる。
4)本模型実験の風速をフルード則で実船に換算すると24m/sの強風に相当するので、例えば12m/s程度の風速で上記3)と同等な減揺効果を得るには2)の結論から、4倍の面積を持つ帆が必要になる。
 
 なお、本報における横揺れ実験は、船の停止状態を基本にしており、横揺れ減衰が小さく揺れやすい状態がベースになっている。航行中は一般に船体自体の横揺れ減衰が増加するから、帆による減衰効果はこの分、相対的に減少する傾向となることに注意を要する。また、帆の角度を横揺れに応じて変えることは、推進性能面で最適な帆装状態を外すこととなり、補助的ではあるが帆の推進性能を損なうことは免れない。しかし、帆の平均角度は依然最適角であるので、大幅な推進性能の減少にはつながらないと考えられる。
 今後の課題として、帆の角度を連続的に駆動可能な実システムの開発の他、実船に対応した制御も必要になる。今回の理論検討や実験では、帆の角度がroll rateに対し遅れがなく追従するとして取り扱ったが、実際の帆の駆動装置を想定すると、遅れや追従速度の制限等が発生する。今後こうした場合の制御方法についても検討が必要と考えられる。
 
謝辞
 本研究の模型実験の実施に際しては、北海道大学水産科学研究科生産工学講座(現水産科学院海洋産業科学講座)の多くの学生諸氏のご協力を頂いた。ここに感謝申し上げる次第である。
 
参考文献
1) Symposium on Wind Propulsion of Commercial Ships. RINA Symposium Proceedings. 1980.
2) International symposium on wind ship technology (Windtech '85). RINA Symposium Proceedings. 1985
3)日本舶用機器開発協会:帆装タンカー新愛徳丸について, 1985
4)平山次清, 斎藤靖浩, 宮川清, 高山武彦:新形式アンチローリングシステムの開発, 関西造船協会誌, 第230号, 1998, pp.205-211


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