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CFD/水槽試験による双胴船型の開発
正員  宮田秀明*           山崎 尋**
 Antonin Coliche***  学生員 川合 崇*
正員  秋元博路*
 
* 東京大学大学院工学系研究科 環境海洋工学専攻
** (株)商船三井技術部(研究当時東京大学大学院工学系研究科 環境海洋工学専攻)
*** Ecole Centrale Nantes
原稿受理 平成17年10月13日
 
Development of the hull-form of catamaran by using CFD and experiment
 
by Hideaki Miyata,Member
Jin Yamasaki
Antonin Coliche
Takashi Kawai, Student Member
Hiromichi Akimoto, Member
 
Summary
 Wake wash is one of the serious problems for high speed ships, because it may cause damage on the coastal aquaculture using rafts or nets. Since some important parts of high speed ships are catamaran, a CFD code for the catamaran ship is developed It can properly evaluate wave resistance of both symmetric and asymmetric demi-hulls with consideration on wake wash. The code is applied to the development of a catamaran type commuter ship operated for domestic services. Wave resistance and wake wash characteristics are demonstrated to be improved by the numerical simulation. The towing tank experiment for the evaluation of wave resistance and wake wash is carried out for the verification. It is clarified that the improved hull form shows lower resistance with smaller wake wash at higher Froude number when the displacement is reduced by 30%.
 
1. 緒言
 近年、船舶の高速化に伴い、曳き波により発生する様々な問題が国内外で生じている。特に、国内航路で生じている問題の一つとして、沿岸で筏などを使用して行われている養殖漁業への影響が挙げられる。この問題が、運行サービスの休止や変更の原因となった例も少なくない。
 高速船の曳き波が研究テーマとして取り上げられた例としては、デンマークのArhus-Kalunborg routeのIncat 78m class(Hansen et al.1))、またWashington State Ferriesが運行するBremerton - Seattle間の高速双胴船の問題(Stumbo et al.2))などが挙げられる。これらの問題については、航路沿岸の住民などによる苦情が発端となって、実際に就航している船を使った実海域での計測などにより高速フェリーによる曳き波の特徴を研究した例(Hansen et al.1)やBolt3))がある。それらは既存の船体の造波を調べ、曳き波の影響による様々な沿岸での被害を低減するために、海域ごとの速力の制限などを検討することを主な目的としている。従って、速力を犠牲にせず曳き波を低減できる船型を的確に開発できることの重要性は極めて高いと言える。また、旅客用高速船には双胴船型がよく採用されている。
 そこで本研究では、対称・非対称demi-hullを持つ双胴船の曳き波評価に重点を置いたCFDコードを開発する。これを、国内港湾内で研究当時運航されていた双胴型交通艇に適用し、在来船の解析および、高速化した新規計画船の開発を行い、水槽試験を併用することにより、曳き波の低減の検証を行う。
 
2. 計算手法
2.1 CFDコードの開発
 船型開発に先立ち、非対称双胴船型の曳き波を評価することのできるCFDコードの開発を行った。船体後方に広がる曳き波を分析し、その低減を図るためには、十分に大きな計算領域と計算時間が必要である。これらを満たすものとして、本研究ではMiyataら4)、奥村5)松尾6)が開発したTUMMACコードを基本に、双胴船型用の新しいバージョンを開発した。また、demi-hullの船型は非対称型の場合にも対応可能とした。
 基礎方程式は、Navier-Stokes方程式及び連続の式である。これらを有限差分法により離散化し、MAC法のアルゴリズムに従い時間発展的に解く。時間に関して1次精度Euler前進差分法、空間に関しては移流項を3次精度の中心差分法とdonor-cell法のコンビネーションにより解き、圧力勾配と拡散項については2次精度中心差分法を用いた。
 格子系は物体非適合の矩形格子を用い、格子間隔は船長、船幅方向に等間隔で、鉛直方向にのみ不等間隔格子を採用し、自由表面近傍での解像能力を高めている。船体形状は、CADデータから直接取り込む。物体表面は、CADデータより求めた物体表面とコントロールボリュームの切断平面である。ただし、物体表面の法線は水平という制限があるため、船体はガース方向にのみ階段状に近似される4)
 また、非線形な自由表面条件を満足させるために、密度関数法5)を採用した。密度関数法は、各コントロールボリュームの中心にスカラー量の密度関数ρを定義し、あるコントロールボリュームの密度関数の値が
 
ρ=ρ1  (1)
 
または
 
ρ=ρ2  (2)
 
の場合は、いずれかの流体で満たされていることとし、
 
ρ1<ρ<ρ2  (3)
 
の場合、そのコントロールボリューム内に2種の流体が混在するものと考える。空気と水の2相流を扱う場合、気相密度ρairと液相密度をρaquをそれぞれ
 
ρair=0.0
ρaqu=1.0  (4)
 
と定義している。この場合の密度関数は自由表面を追跡するマーカーとして使われており、物性値とは異なる。密度関数ρの初期値は静水面の上下を考慮してセットされ、計算中は式(5)に示す輸送方程式に従い輸送される。
 
 
 物体内での密度関数ρの値は1.0より大きい値を与え、常に初期値を保つものとする。
 各time-stepにおける自由表面の位置は2種の流体密度の中間値、即ち水と空気の場合では、
 
 
となる等値面として定義する。
2.2 双胴船型の取り扱い方法
 これまでのTUMMACコードでは船体左右対称面上に鏡像条件を与えることで、片舷のみの計算を行っている。しかし、本研究で取り扱うのは双胴船型であり、従来の方法をそのまま使うことはできない。双胴船に対応する方法として、
1)従来の片舷分の計算領域にdemi-hullの左右舷を両方とも取り込む
2)片舷分のdemi-hullをさらに中心線上で分割し、接合面で値の受け渡しを行う
という二つの方法が考えられた。2の方法を用いると、これまで開発された手法をそのまま利用できるという長所があったが、demi-hull中心線上で値の受け渡し方法を新たに考案する必要があり、ここで問題を生じる可能性があった。そこで本研究では1の方法を採用した。Demi-hullに関して両舷計算を行うにあたり物体内流速の補間方法と物体境界での圧力計算法について改良が必要であった。特に物体内流速の補間方法については、船体形状が船体左右舷方向に大変形する船首、船尾部分については従来では全く取り扱っていなかったため、特に追加・検討を要した。
 
3. 新規計画交通船に対する設計条件
 検討対象として双胴船「ぐらばあ」を選んだ。本船は2004年まで長崎湾内を航行していた交通船である。「ぐらばあ」の主要目をTable 1に示す。
 
Table 1  Principal particulars of the original ship, "Graba".
LOA m 35.50 Displacement ton 538
Lpp m 32.00 Cb 0.59
LWl m 33.98 Cp 0.67
Moulded breadth B m 13.20 Cm 0.89
Breadth of a demi-hull b m 4.00 Leb %Lpp 49.8
Moulded depth D m 4.50 Vs kt 12.2
Full load draught d m 3.25 Fn 0.354
 
 この上で、新たに計画する新「ぐらばあ」の性能には以下のような条件が課せられた。
1. 曳き波の改善。
2. 速力を現状の12ktから16ktへと増速。
3. LOAは40m以下。
4. 船幅は一定とする。
 このうち、第1項の曳き波の改善は長崎湾内航行時に他船等への影響が大であるために優先事項とされ、第2項の速力増加は船主からの要望によるものである。第3項のLOAに関しては桟橋の制約によるものである。


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