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4. 船型開発
4.1 計算条件
 「ぐらばあ」原船型の評価、新船型の開発、さらに曳き波の評価のために本法による計算をおこなった。
 格子点数・格子間隔をTable 2に示す。また、Fig. 1に計算領域を示す。
 
Table 2 Conditions of computational domains.
Graba Type A Type B
Number of cells 647273 647273 606645
Grid spacing Lpp dx 0.013 0.012 0.011
dy 0.0065 0.0065 0.0065
dz 0.0037 0.0037 0.0037
 
Fig. 1 Domain of computation.
 
 計算領域は船体中央面に左右対称条件を適用し、右舷側のみの計算を行った。また、計算は計画速力について行った。計画速力におけるフルード数Fnは「ぐらばあ」においてFn=0.354、新船型(Lpp=38m)においてFn=0.425である。
 
4.2 船型開発結果
 まず、新しい船型の開発を本法によるシミュレーションで行った。フルード数0.4を超える高速船型であるので、プリズマティックカーブ(Cpカーブ)の変更、大型バルブの付加、セミSWATH船型を含むフレームライン形状の変更、水線入角の最小化などを中心に船型を変化させ、結果を比較吟味しながらトライアル・アンド・エラー的に進めた。約15隻のシミュレーションを実施した。
 Fig. 2に検討を行った船型の一例を示す。
 
Fig. 2 Body plans of the simulated ships.
 
 このうち、抵抗と波高の両面から最も優れた2船型および原船型の「ぐらばあ」をFig. 3に示す。A船型は外側を薄くし外部領域への波の伝播を抑えることを考えた非対称船型で、B船型は水線におけるdemi-hullの幅が最大幅の77%となるセミSWATH船型である。
 Table 3にA, B船型の主要目を示す。A, B船型のLOAは「ぐらばあ」原船型よりも19%延長している。
 
Fig. 3  Lines of three ships,"Graba", Type-A and Type-B. (from top to bottom)
 
Table 3 Principal particulars of Type-A and Type-B.
Type-A Type-B
LOA m 40.00 40.00
Lpp m 38.00 38.00
LWl m 37.70 37.91
Moulded breadth
B m
13.20 13.20
Breadth of a demi-hull
b m
4.00 4.00
Moulded depth
D m
4.5 4.5
Full load draught
d m
3.25 3.25
Displacement
ton
520 520
Leb %Lpp 51.03 51.03
Vs kt 16.0 16.0
Fn 0.425 0.425
 
 Fig. 4に「ぐらばあ」、A船型およびB船型のCpカーブをそれぞれ示す。
 
Fig. 4  Prismatic curves of three ships (A: "Graba" B: Type-A C: Type-B)
 
4.3 曳き波数値解析
 「ぐらばあ」の船型に対する数値解析から得られた波高コンターをFig. 5に、Fig. 6に自由表面の鳥瞰図を示す。但し、FPがx=0、双胴船の左右対称面がy=0、喫水位置がz=0である。また、y=0(center line), y=0.38Lppにおけるlongitudinal cut波形をFig. 7に示す。
 
Fig. 5  Wave contour (original ship "Graba"). (contour interval 0.03d, dotted line is negative and solid line is positive)
 
Fig. 6 Free surface ("Graba").
 
Fig. 7  Longitudinal-cut wave profile of "Graba". (top: y=0, bottom:y=0.38Lpp)
 
 この結果から、demi-hull外側ではFPから60%Lppの位置に波頂が存在し、波頂高は喫水の7.3%に達している事がわかる。Demi-hull間ではミッドシップ付近で喫水の30%にも達する波のくぼみが発生している。また、両サイドのdemi-hullから生じた波の接合点がFPから20%Lppの位置であることがわかる。
 A船型のdemi-hullに対する解析から得られた波高コンターをFig. 8に、Fig. 9に自由表面の鳥瞰図を示す。また、同じ断面におけるlongitudinal cut波形をFig. 10に示す。
 
Fig. 8  Wave contour (Type-A). (contour interval 0.03d, dotted line is negative and solid line is positive)
 
Fig. 9 Free surface (Type-A).
 
Fig. 10  Longitudinal-cut wave profile of Type-A. (top: y=0, bottom: y=0.32Lpp)
 
 この結果から、demi-hull外側では波頂高が喫水の3%、くぼみの深さが5%であることがわかる。曳き波の最大波頂はFPから20%Lpp後方に存在していて、その振幅は喫水の13%であった。Demi-hull間ではFPから70%Lppの位置に最大波頂が存在し、その大きさは波頂高で喫水の37%、波底深さで喫水の30%に達した。
 B船型に対する解析から得られた波高コンターをFig. 11に、Fig. 12に自由表面の鳥瞰図を示す。同じ断面における波高分布をFig. 13に示す。
 
Fig. 11  Wave contour (Type-B). (contour interval 0.03d, dotted line is negative and solid line is positive)
 
Fig. 12 Free surface (Type-B).
 
Fig. 13  Longitudinal-cut wave profile of Type-B. (top: y=0, bottom: y=0.32Lpp)
 
 この結果から、demi-hull外側での波頂高・波底深さはともに喫水の3%であることがわかる。また、曳き波の波頂はFPから20%Lpp後方に存在し、その高さは喫水の13%であった。Demi-hull内側については、最大波頂はFP付近に存在し、波頂高は喫水の31%、波底深さは喫水の18%となった。
4.4 考察
 計算の結果から「ぐらばあ」に比べて、新船型においては非対称・対称ともに船体外側における曳き波は喫水の4%ほど減少しており、満足できる。しかしながらdemi-hull間に生じる波に関しては「ぐらばあ」に比べ著しく波高が大きくなってしまっている。対称(B船型)および非対称(A船型)のdemi-hull間で、大きな造波の差はないが、B船型のほうが若干優れていることがわかった。
 CFDシミュレーションでは計算領域の制限と数値減衰によって、十分遠方の場における波高を評価することはできない。しかし、一般的に船体によって造られた波のエネルギーは一部が近傍場で散逸され、残りは分散性によって遠方場へ伝播しケルビン波形を形成する。現在の技術でもこの散逸現象を精度よく定量的に評価することは難しいため、本研究のような曳き波をテーマとする問題では数値計算における近傍場の波の波高そのものを相対的に低くすることが安全な設計を与えると考える。従ってこの数値計算結果だけでは、新船型の曳き波が原船型を下回ることが保証されないことに注意する必要がある。


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