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3.3 波浪中抵抗増加の計算結果
(1)Modified Wigley model I
 Modified Wigley model Iに対する本ハイブリッド法による波浪中抵抗増加の計算結果を実験結果と比較してFig. 12に示している.波浪中抵抗増加は,波浪中自由航走計算により得られたx方向の流体力をFourier級数に展開して0次の項を求め,それから静水中を船が前進する場合(定常問題)の抵抗値を差し引くことによって求められる.図中実線がその計算結果を,丸印が実験結果18)を示している.
 また,図中の四角のプロットは,計算により求めた波形データを大楠の方法20)により波形解析して得られた波形抵抗増加を示している.一般に図に示された条件下でのr=Uωe/gの範囲では,船体の造波する波系のうちk1波の抵抗増加への寄与はk2波のそれと比べて十分に小さいことが分かっている20).また,k1波に関するKochin関数H1の数値積分は高周波の振動関数の積分を伴い,使用する波形データが粗い場合には数値積分誤差が混入し易い.今回の数値計算で得られた波形は自由表面上を1船長間45分割程度であり,通常実験で得られる波形と比べて非常に粗いデータとなっている.これらの理由から,図中の波形抵抗増加の算定においては,抵抗増加に寄与する波系としてk2波に関するKochin関数H2のみを用いている.解析においてはy/(B/2)=1.32位置での縦切り波形を使用している.
 計算波形を用いて得られた波形抵抗増加と圧力積分により求めた抵抗増加とを比較すると,上記のようにk1波の寄与に相当するH1項を無視したことによると思われる僅かな相違を除いて,両者は非常に良好な精度で合致している.圧力積分による結果と波形解析による結果が一致するということは,船体近傍場と船体遠方場のそれぞれから得られた結果が等しいということであり,このことから本数値計算の合理性と計算精度が検証されたことになる.
 検力計により計測された波浪中抵抗増加は本計算法による結果よりも大きな値となっているが,その差はたとえばλ/L=1.25での実験値のバラツキの範囲内であり,本計算法の問題として危惧する材料にはならないであろう.
(2)Modified Wigley model II
 Fig. 13にmodified Wigley model IIの波浪中抵抗増加の結果を,柏木ら19)によるenhanced unified theoryおよびストリップ法による計算結果ならびに実験結果と比較して示している.
 本ハイブリッド法によりピーク値は良好に推定できているが,ピーク値を与えるλ/Lの値が長波長側にズレる傾向にある.圧力積分から得られた値と計算波形を用いた波形解析により得られた値との合致度はmodified Wigley model Iの場合と同程度に良好であることから,数値計算に整合性はあるものと思われ,にもかかわらずピーク値を与える点が長波長域にズレてしまう原因は現時点で不明である.一方,enhanced unified theoryやストリップ法はピーク値を与えるλ/Lは実験値と対応するものの,その大きさはFig. 9のheave運動振幅を過大に推定していたことに対応して過大に推定されている.
(3)Series-60(Cb=0.6)
 Series-60(Cb=0.6)の波浪中抵抗増加の結果をFig. 14に示す.Series-60(Cb=0.6)についても抵抗増加のピーク値は実験結果とよく一致しているが,ピーク値を与えるλ/Lの値が長波長側へ僅かにズレてかつ長波長域において実験値より過大な推定となっている.また,圧力積分により得られた抵抗増加と計算波形を用いた波形解析により得られたそれとの比較においては,両者の相違が先のmodified Wigley modelの場合と比べて大きくなっている.これは船型が特に船首尾部で複雑になったことで,その近傍の自由表面計算格子数が不十分になり,結果として波形の計算分解能と船体表面上圧力分布の分解能との間に相違が生じて来たことに起因しているものと考えられる.長波長域における計測値との相違は,数値計算における解析時間がまだ不十分であることに起因すると考えられ,計算領域のx軸方向の長さを増してより長時間のシミュレーションを行なうことで解決できると考えている.
 本船型については水槽試験実施時に,船体周りの非定常波形の計測も行っている.そこで計測波形を用いて波形解析を実施し,波形抵抗増加の算定を行ってみた.Fig. 16に計測波形を用いて得られた波形抵抗増加の結果を検力計により計測された結果と比較して示している.計測波形は船長方向に1mm間隔レベルという十分な密度でデータを得ているので,波形抵抗増加の算定に当たってはk1波に関するH1項を含めた場合も計算している.図からは,前述のように波形抵抗増加に占めるH1項の寄与が小さいことが確認される.Fig. 14中の計算波形を用いて得られた波形抵抗増加の結果とFig. 16中の計測波形を用いて得られた波形抵抗増加の結果とはおおむね良い一致を示しているようである.
(4)Series-60(Cb=0.8)
 Series-60(Cb=0.8)の波浪中抵抗増加の結果をFigs. 15,17に示す.本ハイブリッド法と計測値との相違は,Series-60(Cb=0.6)の場合と比べて短波長域で顕著となってくる.肥大船の短波長域抵抗増加についてよく言われるように,数値計算結果に比べて計測値が大きくなっている様子が窺える.著者の一人が行なった各種三次元計算法のベンチマークテスト24)では,この問題は船首部近傍の自由表面計算格子数を増やすことによりかなり改善されることが示されており,本ハイブリッド法においてもそうした対策により推定精度の向上は可能であると考えられる.
 Series-60(Cb=0.8)のような肥大船であっても,Series-60(Cb=0.6)の場合と同様にFigs. 15,17に見られるように,計算波形を用いた波形抵抗増加と計測波形を用いた波形抵抗増加とはおおむね良い一致を示している.Fig. 15中の圧力積分による抵抗増加と計算波形を用いた波形抵抗増加との相違は,計算格子数の不足などにより計算精度が未だ十分でないことを示していると思われる.Figs. 15,17の計算波形による波形抵抗増加と計測波形による波形抵抗増加とはおおむね一致していることから,波形という船体遠方場を用いることによる抵抗増加推定が,圧力積分という船体近傍場の解析によるそれと比べてロバストであることを示していると言えよう.
 
Fig. 12  Added wave resistance of modified Wigley model I at Fn = 0.2, χ = 180degs.
 
Fig. 13  Added wave resistance of modified Wigley model II at Fn = 0.2, χ = 180degs.
 
Fig. 14  Added wave resistance of Series-60 (Cb = 0.6) at Fn = 0.2, χ = 180degs.
 
Fig. 15  Added wave resistance of Series-60 (Cb = 0.8) at Fn = 0.2, χ = 180degs.
 
Fig. 16  Added wave resistance by the wave pattern analysis with measured wave data for Series-60 (Cb = 0.6) , at Fn = 0.2, χ = 180degs.
 
Fig. 17  Added wave resistance by the wave pattern analysis with measured wave data for Series-60 (Cb = 0.8) , at Fn = 0.2, χ = 180degs.
 
(5)非定常波形
 Figs. 14,15およびFigs. 16,17の波形解析に用いた自由航走時の非定常波形の例をFigs. 18,19に示しておく.図中,上側が本ハイブリッド法により計算された波形,下側が計測された波形である.前者は,時々刻々計算される空間固定座標系上の自由表面隆起量から船体固定座標系上の所望点の自由表面隆起量を補間計算し,得られた隆起量を出会い円周波数を基本円周波数としてFourier解析することにより得られる.船体後方に見られる波長の短い波は,船体の造波したk1波と言うよりはこうした補間計算の誤差により生じたものと考えている.自由表面格子数を増やし時間刻みを短くすることにより分解能は向上できると思われる.そうした船体後方の波長の短い波を除けば,本ハイブリッド法による結果と計測結果とは比較的良い一致を見せている.
 
Fig. 18  Computed and measured unsetady waves of Series-60 (Cb = 0.6) , at Fn = 0.2, λ/L = 1.0, χ = 180degs., y/(B/2) = 1.32
 
Fig. 19  Computed and measured unsetady waves of Series-60 (Cb = 0.8), at Fn = 0.2, λ/L = 1.0, χ = 180degs., y/(B/2) = 1.32


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