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3. 数値計算結果および考察
3.1 供試船型および要素分割
 本研究では,船型が
 
 
で表されるmodified Wigley model(model I, II),またより実船に近い船型としてSeries-60(Cb=0.6; model III)およびSeries-60(Cb=0.8; model IV)を対象として数値計算を行なっている.これらの供試船模型の主要目をTable 1に,二隻のmodified Wigley modelの船型パラメーターをTable 2に示している.
 
Table 1 Principal dimensions of models
model I model II model III model IV
Lpp (m) 2.0000 2.0000 2.0000 2.0000
B (m) 0.2000 0.3000 0.2667 0.3077
d (m) 0.1250 0.1250 0.1067 0.1229
∇ (m3) 0.0231 0.0420 0.0339 0.0603
xG (m) 0.0000 0.0000 -0.0323 0.0514
zG (m) -0.0468 -0.0240 -0.0169 -0.0590
Kyy/Lpp 0.2500 0.2325 0.18921 0.2197
 
Table 2  Hull-form parameters of modified Wigley models
α β L/B B/d
Modified Wigley I 0.2 0.0 10.0 1.6
Modified Wigley II 0.2 1.0 6.67 2.4
 
 船体表面の要素分割はmodified Wigley modelについては静水面下(z≤0)の片舷につき256要素(船長方向 32分割 ガース方向 8分割)としSeries-60についてはより微細に船型を表現するために576要素(船長方向 48分割 ガース方向 12分割)としている.時間進行に伴い水面下の形状は船体の運動に応じて時々刻々変化するわけであるがその際各時間ステップごとに必要となる船体表面の要素再分割は格子点位置のみをガース上で移動させ分割数は一定となるようにしている.Figs. 4,5にmodified Wigley modelおよびSeries-60(Cb=0.6 & 0.8)の時刻t=0における要素分割図を示す.
 Fig. 6に計算に使用した計算領域全体の要素分割図を示す.自由表面の要素分割については時間刻みと要素の大きさに留意する必要がある.計算時間刻み間に船が進む距離と自由表面上のx方向の格子間隔が一致していない場合,得られた解に数値振動が発生し,この数値振動により自由航走計算を行った場合に計算が不安定になって船型によっては解が発散するケースが確認された.そこで今回の自由航走計算では自由表面要素のx方向の長さΔxが船体がΔt間に進む距離と等しくなるつまりΔx=U0Δt(U0:定常前進速度)の関係を満足するように設定している.計算領域の大きさは試計算を通じて決定し,長さ約4.5L片幅0.6L仮想境界面の深さ0.5Lとしている.要素数はy>0の領域に対して自由表面2496(208×12)要素仮愁境界面256((52+6×2)×4)要素である.仮想境界面底部は波動現象が指数関数的に減衰することから,その側壁部を十分に深い箇所まで取っておけば底部自体に要素を配する必要はない.
 
Fig. 4  Computation grids for the modified Wigley model I & II
 
Fig. 5  Computation grids for Series-60
(Cb = 0.6 & 0.8)
 
Fig. 6  Computation grids on the whole computation domain for solving motion-free problem
 
3.2 波浪中船体運動の計算結果
 前述の各船型に対しFn=0.20,χ=180degs. の条件にて規則波中の自由航走シミュレーション計算を行った.計算では船速および入射波を以下のように与えている.
 
 
 ここでf(t)は速度および入射波振幅の過渡変化を表す関数であり,t0=3sec. として次式17)を用いている.
 
 
 ただし,T≡t/t0である.
 
(1)Modified Wigley model I
 Fig. 7に一例としてλ/L =1.2の条件で求めたsurge,heave,pitchの船体運動時刻歴変化を示す.図は船が静水中を航走する際に誘起されるsinkage,trimを含んだ全運動結果を示している.
 ここで,この波浪中曳航シミュレーションにおけるsurge運動の扱いは以下のようにしている.船が波浪中を前進する時,船体運動の発達に伴って抵抗増加に相当する定常流体体力が作用するため,流体力から直接運動を求めると船の平均速力が低下し,船体がドリフトすることになる.本計算では,このドリフトを抑制するため,あらかじめsurge固定の曳航状態での運動計算を行って求めたx方向の流体力から各時間ステップにおける抵抗増加量を算出して保存しておき,surge運動を含めた計算においては保存しておいた抵抗増加量をx方向の流体力から差し引いた値を用いて運動の計算を行っている.差し引きに用いた抵抗増加量にはsurge運動に伴う抵抗増加量が含まれていないため,結果として得られるsurge運動にはそれに相当する僅かなドリフトが見られるが,その量はごく微量であり,一連の解析自体に大きな影響を与えることはない.
 
Fig. 7  Time histories of surge, heave and pitch motions of modified Wigley model I, at Fn = 0.2, λ/L = 1.2, χ = 180 degs.
 
 Fig. 7に示したような船体運動時刻暦をFourier級数に展開して求めた船体運動振幅および位相の結果をFig. 8に示す.位相については入射波の波頂が船体の中央部に来た瞬間をt=0として解析している.図中,実線が本ハイブリッド法による計算結果,白丸が実験結果18)を示している.本ハイブリッド法による計算結果は全般的に実験結果と非常に良く一致しており,船体運動が非常に高い精度で推定されていることが確認される.
 
Fig. 8  Surge, heave and pitch motions for modified Wigley model I at Fn = 0.2, χ = 180degs.
(拡大画面:29KB)
 
Fig. 9  Surge, heave and pitch motions of modified Wigley model II at Fn = 0.2, χ = 180degs.
(拡大画面:39KB)
 
Fig. 10  Surge heave and pitch motions of Series 60 (Cb = 0.6) at Fn = 0.2, χ = 180degs.
(拡大画面:33KB)
 
Fig. 11  Surge heave and pitch motions of Series 60 (Cb = 0.8) at Fn = 0.2, χ = 180degs.
(拡大画面:32KB)
 
(2)Modified Wigley model II
 Fig. 9にmodified Wigley model IIに対する船体運動の計算結果を,柏木ら19)の行なったenhanced unified theory,ストリップ法による計算および実験結果と比較して示している.
 本ハイブリッド法による結果はいずれの運動においても実験結果とよく一致しており,推定精度が良好であることが確認できる.一方,柏木らによるenhanced unified theory,ストリップ法の結果には運動の同調点付近で実験結果と差異が確認される.特にheaveではenhanced unified theoryによる結果は運動振幅を過大に評価しており,ストリップ法と比較してもその優位性は確認できない.柏木ら19)は船体運動計算を行う際に用いるradiation流体力,特にピッチの減衰力係数や連成項の推定精度が運動計算結果に大きく影響を及ぼすことを示していることから逆に,本計算による運動の結果が実験と良好な一致を示すのは流体力の推定精度が良好である故だと推察される.この推察が妥当であることは,著者らが流体力に関する先の論文15)において示した流体力レベルの高精度な推定結果と並べ見ることにより確認されるところである.ともあれ,既存の実用計算法と比較して本計算の推定精度が流体力のみでなく船体運動の推定に関しても卓越したものであることが明確となったと言える.
(3)Series-60(Cb=0.6)
 Series-60(Cb=0.6)の船体運動計算結果をFig. 10に示す.Series-60(Cb=0.6)船型は,船首部はシャープであるが,船尾部は水面近傍では急激に形状が変化する船型であり,modified Wigley modelと異なりwall sideでもない.より実船に近い供試模型であると言える.波核関数を用いた所謂Green関数法等でこのような船型を計算すると,船尾部で吹き出し強さが異常に大きくなるなどして数値解が荒れることがあるが22),船体近傍でRankine panel法を用いる本ハイブリッド法では比較的粗い時間刻みを用いて計算を行っているにもかかわらず,数値解が発散することなく運動計算が行えている.一般船型への適用という観点から本計算手法は非常に実用的であると言えよう.
(4)Series-60(Cb=0.8)
 Fig. 11にSeries-60(Cb=0.8)の船体運動計算結果を示す.Series-60(Cb=0.6)との船型の相違は,船首部のbluntさに顕著に現れてくる.このような船型に周波数領域のRankine panel法を適用すると,bluntな船首部に沿う自由表面格子が主流に対して大きな角度を有するようになり,これが数値的に課す放射条件に悪影響を与えてマトリックスが不安定化し,数値解が得られない場合がある23).本ハイブリッド法では,一つには時間領域解法であること,また放射条件を解析的に満足するのと等価な理論定式化になっていることによって,こうした肥大船型についても数値解の不安定化を招くことなく問題なく適用が可能であることが示されたことになる.


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