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3. 船体運動の解析と評価
3.1 船体運動の計測・解析
 計測した船体運動データの一例をFig. 3に示す。左図は,平成16年6月29日(火)の復路で15:10から60秒間の前後揺れ(Surge)・左右揺れ(Sway)・上下揺れ(Heave)の加速度[ms-2]と横揺れ(Roll)・縦揺れ(Pitch)・船首揺れ(Yaw)の角加速度[rad s-2]である。図より,本船では,上下揺れ加速度だけでなく,大きな左右揺れ加速度がはたらいていることがわかる。ただし,船体に固定されたひずみゲージ式加速度計によって船体運動を計測している3)ため,横揺れ等の傾斜による重力成分も含まれていることに注意を要する。また,右図は,出港から40分間のパワースペクトル密度関数(PSD)を示している。この図より,上下揺れ加速度の周波数は0.5[Hz]付近にピークをもっており,乗り物酔いの発症に大きく関与する0.2[Hz]付近にピークをもつ排水量型船舶の特徴とは大きく異なることがわかる。一方,左右揺れ加速度の周波数は,0.1[Hz]付近にピークを持ち,少なからず乗り心地に影響を与えると考えられる。
 次に,座席位置による船体運動の違いを調べるために,Fig. 1に示した計測点Pにおける実測値と,船体を剛体と仮定してPの前方3m(Fig. 1中の点A)から18m(点F)まで3m間隔で算出した左右揺れと上下揺れのパワースペクトル密度関数をそれぞれFigs. 4,5に示す。また,出港後40分間の加速度のr.m.s(root-mean-square)値をTable 2に示す。実際には,前部客室と後部客室の間には段差があるが,ここでは簡単のため,計測点Pにおける床面を船首方向に延長した位置での加速度を比較することにする。
 
Fig. 3  Example of acceleration time histories and acceleration power spectral densities for the six axes of motion of a craft: frequency resolution 0.098 Hz; duration 2400 seconds.
(拡大画面:144KB)
 
Fig. 4  Power spectral densities of sway motion: frequency resolution 0.01 Hz; duration 2400 seconds.
 
Fig. 5  Power spectral densities of heave motion: frequency resolution 0.01 Hz; duration 2400 seconds.
 
Table 2  Root-mean-square value of sway and heave acceleration in ms-2.
Point Distance from P [m] Sway Heave
P 0.0 0.256 0.334
A 3.0 0.242 0.274
B 6.0 0.236 0.254
C 9.0 0.237 0.281
D 12.0 0.247 0.346
E 15.0 0.264 0.431
F 18.0 0.286 0.527
 
 これらの図表より,左右揺れと上下揺れに関連の深いと考えられる船首揺れと縦揺れの回転中心はともにPの前方6m付近にあると推定できる。左右揺れおよび上下揺れの加速度r.m.s.値がともに最大となるPの前方18m(点F)は客席の最前列に相当するが,Fig. 1に示す被験者の座席ゾーンは約8mであることから,乗り心地評価実験に係る被験者に加えられた動揺としては計測点Pでの値を用いることにする。


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