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日本船舶海洋工学会論文集 第2号

 事業名 造船学術の振興
 団体名 日本船舶海洋工学会 注目度注目度5


3 暑熱対策とその効果
 造船所において取り得るいくつかの対策について、人体蓄熱量を計算することによりその効果を検討した。計算では、前述の計測データから種々の環境要因を推定し、午後1時から5時まで4時間作業を行うものと仮定した。
 
3.1 環境要因の推定
 全天日射量の推定においては、近藤・三浦らによる次の地表面日射量の実験式8)を用いた。
S=S0(C+0.7×10-f・m)(1-i)(1+j) [W/m2]  (10)
 
 ただし、S0、C、F、m、i、jはそれぞれ次式のようになる。
 
 
 ここに、I0は太陽定数[W/m2]、θは天頂距離(90°−太陽高度)[Degree]、βは大気混濁係数[n.d.(無次元)]、Aは地表面のアルベド[%]である。wは可降水量[m]で露点温度Td[℃]を用いて実験式から、以下のように推定される。
 
log10w=0.035Td-0.031d Td<18℃
log10w=0.0222 Td+0.031d Td≥18℃  (12)
 
 気温および平均放射温度については、正規分布で表されるものとして、計測データに当てはまるように定数平均値と分散を調整して推定した。相対湿度および気流速については、計測データの平均値を用い、一定であると仮定した。
 作業者の代謝量については、各作業の代謝量にその作業継続時間を重みとして平均化した平均代謝量を用いた。ここでの平均代謝量は軽度作業で1.80[Met]、中程度作業で2.08[Met]である。
 Fig. 2に推定した気温、平均放射温度、全天日射量を示す。また、実際には有り得ないが、何の対策も取らずに、軽度作業および中程度作業を連続して4時間行った場合の人体蓄熱量の計算結果をFig. 3に示す。なお、実線は休憩中にあたる安静立位での蓄熱量である。この条件においては、軽度作業、中程度作業のどちらの場合においても人体蓄熱量の許容値0.4[MJ/m2]を作業開始から1時間ほどで超えている。安静立位の場合でも、作業開始から1時間半ほどで許容値を超え、最終的にはどの場合も限界値0.57[MJ/m2]を超えてしまっており、何らかの対策が必要なことが分かる。そこで、造船所において実際に採用されている遮光ネットや冷却ファンなどの熱対策について人体蓄熱量の計算を行い、それぞれの対策の効果について検討を行った。なお、最近では圧縮空気による断熱膨張を利用した冷却服なども利用されているが、仕様に不明な点などがあり、ここでは対象としていない。
 
Fig. 2  Set up weather conditions in operation hour for calculation
 
Fig. 3 Storage of body heat for taking no measures
 
3.2 各種対策の効果
(1)遮光ネット
 造船所では熱対策の一つとして、太陽からのに受熱を減少させるために遮光ネットが用いられている。遮光ネットは多種あるが、ポリエチレンの細いテープ状のものを網目に編んだ構造が多く、その遮光性能は遮光率で表される。なお、遮光率はJISでは照度または輝度により規定されており、遮光ネットはその遮光率の通りに全天日射量をカットするとは限らない。そこで、蓄熱量計算を行う前に、遮光ネットによる全天日射量のカット率を調べる計測を行った。
 計測は、6種類の遮光ネットを用意し、一定時間ごとに遮光ネットの種類を変え、その時の全天日射量を全天日射計により計測することで全天日射量のカット率を算出した計測の手順としては、1)遮光ネットが無い場合の全天日射量(以後、これを全天日射量と云う)を5分間計測し、2)その後15分間遮光ネット下の全天日射量(以後、遮光ネット下日射量と云う)を計測する、3)全天日射量を5分間計測する。この計測作業を繰り返して各遮光ネットの全天日射量カット率を計測した。カット率の算出においては各計測ステージの平均値を用い、Table 3に計測結果を示す。
 
Table 3 Skylight cut-out ratio for every shade-net
Kind of shade-net Skylight R.Heat
[W/m2]
S.R.Heat under shade-net
[W/m2]
Skylight cut-out ratio
Color Shield
Al-stained 55% 633.1 348.4 45.0%
Silver(1) 45% 653.4 276.4 57.7%
Silver(2) 65% 655.2 152.7 76.7%
Black(1) 45% 541.9 252.6 53.4%
Black(2) 60% 600.0 141.4 76.4%
Black(3) 75% 631.3 60.6 90.4%
 
 どの遮光ネットも、そのメーカ表記の遮光率よりも10%ほど多く全天日射量をカットしており、特に黒75%の遮光ネットでは全天日射量を90%もカットしている。人体への蓄熱を抑制するために遮光ネットを用いる際には、日射量カット率が大きければ遮光率も高くなるために、照渡減少により作業に支障をきたすことのない遮光率を有し、かつ十分に全天日射量をカットできる遮光ネットを用いる必要がある。ここでは、適正な遮光率として45%を設定し、Table 3の結果からその日射量カット率は55%とした。
 Fig. 4に、作業中に日射量カット率55%の遮光ネットを用いた場合の蓄熱量の計算結果を示す。なお、参考として日射が無い(全天日射量0[W/m2])場合の結果も示してある。遮光ネットを用いると、軽度作業および中程度作業のどちらの場合にも0.05[MJ/m2]程度蓄熱量が減少しているが、許容値や限界値を下回るほどの減少は見られず、遮光ネットのみでの対策では不十分な場合があり得る。
(2)冷却ファンによる送風
 造船所では主要な熱対策として冷却ファンからの送風が行われている。また、前報1)の実験の結果からも、送風により人体の放熱が促されて蓄熱量の抑制に効果があることが検証された。そこで、作業中に冷却ファンを用いた場合について、ファンの気流速を2.0[m/s]および3.0[m/s]として蓄熱量の計算を行って、その結果をFig. 5に示す。
 この図より、ファンが無い場合(気流速1.64[m/s]として計算)に比べてどちらの気流速でも蓄熱が抑えられているのが分かる。ファンの気流速2.0[m/s]の場合とファン無しの蓄熱量の差は遮光ネットによるものとほぼ同程度であるが、気流速が3.0[m/s]の場合にはかなり蓄熱量が抑制されている。ただし、あまりに気流速を大きくさせると溶接アークやシールドガスに乱れを生じるなどの作業の妨げとなることも予想され、資料9)10)では溶接点で0.5〜1.0[m/s]程度が妥当であり、ここでは熱対策として用いるファンの気流速は周辺部で2.0[m/s]とした。
(3)休憩
 前報の実験の結果から、代謝量は人体蓄熱量に大きな影響を与えることが分かったので、効果的な熱対策の一つとして休憩が考えられる。そこで、生産管理上休憩には限度があるが、許容できる休憩時間の例として、30分の作業毎に10分間休憩する場合について蓄熱量計算を行った。なお、休憩する場所としては、上甲板上もしくは上部構造物内に空調の効いた休憩用の部屋を用意し、その中で安静座位にて休憩することを仮想した。休憩室は室温25℃、相対湿度40%、平均放射温度25℃とし、気流は無いものとして蓄熱量を計算し、その計算結果をFig. 6に示す。
 休憩中は代謝量が小さいために蓄熱が抑えられ、休憩室での休憩の場合は若干ではあるが放熱もされている。休憩の有無による蓄熱量の差は大きく、特に休憩室の中で休憩することがより効果的であることが分かる。ただし、休憩室ではなくデッキ上で休憩するだけでも、気流速3.0「m/s]の冷却ファンを使用したのと同程度の効果が得られており、休憩は最も効果的な対策と考えられる。しかし、休憩を取ることは工程管理の面からも難点があるが、予め作業中の休憩を考慮した工程計画を策定することが重要である。
(4)複数の熱対策の併用
 前述の遮光ネット、冷却ファンによる送風および休憩を組み合わせて用いた場合について、作業者の蓄熱量をFig. 7に示す。これからも分かるように、最も効果のある対策は休憩であり、遮光ネットおよび冷却ファンはほぼ同程度の効果である。遮光ネットや冷却ファンおよびそれらの併用は、短時間よりも長時間の連続作業において取るのが効果的である。また、全ての対策を取った場合の作業者の4時間蓄熱量は、無対策の場合の蓄熱量の2/3以下に抑えられ、人体蓄熱量を十分に抑制できることが分かった。
 
Fig. 4  Storage of body heat in case of work with shading net
 
Fig. 5  Storage of body heat in case of work using cooling fans
 
Fig. 6  Storage of body heat in case of work with rest at intervals
 
Fig. 7  Storage of body heat in case of work using several measures


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