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4 気象条件および地域差と熱対策レベル
 前述3の計算では、無対策で1時間半の連続作業を行えば人体蓄熱量は限界値を容易に超えることになった。これは真夏の快晴日の極めて厳しい条件下について予測した結果であり、実際にはこのような厳しい気象状態は少なく、他にも様々な天気(晴、曇、雨など)の日がある。また、地域によって気温や湿度、全天日射量などの環境条件は異なるので、地域、月、天気の差異を考慮した作業者の蓄熱量を予測して熱対策を考える必要がある。
 
4.1 各地域、月、天気における環境条件の設定
 日射量は雲の面積比である雲量(11段階)によって決り、ここでは快晴、晴、薄曇、本曇の4つに大別して、暑熱期の6〜9月において造船所が存在する横浜、神戸および福岡の気象条件を設定した。
 まず、造船所において計測したデータを福岡の8月快晴の日のデータに相当するものと見なし、実験における計測データ1)や理科年表11)などから、福岡の8月における晴、薄曇、本曇の環境条件を設定した。なお、理科年表には各地の月別気温、相対湿度、全天日射量などの平年値が記載してある。
 次に、この福岡の各月、各天気状態の環境条件を基準に、横浜、神戸の平年値と福岡の値との割合を算出し、横浜、神戸の環境条件を設定した。なお、気流速については一定とし、造船所において計測した値1.64[m/s]とした。設定した横浜、神戸、福岡の各月、各天気の気温、湿度、全天日射量などの環境条件はTable 4に示している。また例として、神戸8月の設定した環境条件をFig. 8に図示する。
 
 
Table 4  Thermal environmental factors for every region, month and weather
Region Month Weather max air temp min. air temp max. MRT max. skylight radiath heat Relat. humid
      [℃] [℃] [℃] [W/m2] [n.d.]
Yokohama June Very fine 30.5 18.4 53.7 771 52.6
Sunny 27.4 18.4 46.1 569 58.7
thin cloud 23.5 18.4 34.5 325 69.4
Cloudy 21.1 18.4 27.6 162 75.8
July Very fine 35.1 22.0 62.8 823 53.3
Sunny 31.5 22.0 53.9 607 59.5
thin cloud 27.0 22.0 40.3 347 70.3
Cloudy 24.3 22.0 32.3 173 76.7
August Very fine 37.4 23.7 67.3 852 52.0
Sunny 33.6 23.7 57.7 628 58.0
thin cloud 28.8 23.7 43.2 359 68.5
Cloudy 25.9 23.7 34.6 179 74.8
Sept Very fine 32.6 20.2 58.1 610 52.0
Sunny 29.3 20.2 49.8 450 58.0
Thin cloud 25.1 20.2 37.3 257 68.5
Cloudy 22.6 20.2 29.9 128 74.8
Kobe June Very fine 32.3 19.1 56.3 875 49.3
Sunny 29.0 19.1 48.3 645 55.0
Thin cloud 24.9 19.1 36.2 368 65.0
Cloudy 22.4 19.1 28.9 184 71.0
July Very fine 37.0 23.2 66.3 956 50.6
Sunny 33.2 23.2 56.8 704 56.5
Thin cloud 28.5 23.2 42.6 402 66.7
Cloudy 25.6 23.2 34.1 201 72.9
August Very fine 39.1 24.4 69.9 956 48.0
Sunny 35.1 24.4 59.9 704 53.5
Thin cloud 30.1 24.4 44.9 402 63.2
Cloudy 27.1 24.4 35.9 201 69.1
Sept very fine 34.3 20.6 60.3 726 47.3
Sunny 30.8 20.6 51.6 534 52.8
Thin cloud 26.4 20.6 38.7 305 62.3
Cloudy 23.8 20.6 30.9 153 68.1
Fukuoka June Very fine 32.7 19.4 57.1 881 50.6
Sunny 29.4 19.4 49.0 649 56.5
Thin cloudy 25.2 19.4 36.7 371 66.8
cloudy 22.6 19.4 29.4 185 72.9
July Very fine 37.9 24.0 68.3 950 50.0
Sunny 34.0 24.0 58.5 700 57.7
Thin cloudy 29.1 24.0 43.9 400 65.9
Cloudy 26.2 24.0 35.1 200 72.0
August Very fine 39.0 24.5 70.0 950 49.3
Sunny 35.0 24.5 60.0 700 55.0
Thin cloudy 30.0 24.5 45.0 400 65.0
Cloudy 27.0 24.5 36.0 200 71.0
Sept Very fine 34.3 20.6 60.4 777 49.3
Sunny 30.8 20.6 51.7 573 55.0
Thin cloudy 26.4 20.6 38.8 327 65.0
Cloudy 23.8 20.6 31.0 164 71.0
 
Fig. 8  Set up typical weather condition in August of Kobe for calculation
(拡大画面:30KB)
 
4.2 熱対策レベル
 設定した各地域、月、天気において、3.1と同様に、軽度作業および中程度作業を午後1時から午後5時まで漣続4時間行った場合について作業者の蓄熱量を算出した。熱対策としては、遮光ネットと冷却ファンを併用することとし、その他に10分休憩のみ、10分休憩と遮光ネット、冷却ファンを併用の各場合を想定した。作業中の気温、全天日射量等の変化は3.1と同様に推定し、対策を取る場合の休憩の時間は3.2(3)と同様に、作業を30分間行う度に10分間休憩室にて休憩することとし、作業者の蓄熱量計算を行った。
 その計算例として、神戸における中程度作業について、9月の天気の違いおよび月が異なる晴れ時における蓄熱量の差異をFig. 9およびFig. 10に示す。これらでは、6〜9月の中で最も環境条件が厳しいのは8月で、続いて7月、9月、6月の順となっており、作業者の蓄熱量も同様の傾向となっている。9月の天気に関しては、人体蓄熱量の許容値を超えるのはほぼ快晴の時のみであり、曇では気温や平均放射温度があまり上昇しないために許容値に達しない。しかし、月によっては薄曇でも許容値を超える場合が若干あり、曇でも気温が高ければ作業者の蓄熱量に注意する必要があることを示している。
 
Fig. 9  Variation of worker's heat storage for every weather (Kobe, September)
 
 
Fig. 10  Variation of worker's heat storage for every month (Kobe, September)
 
 
 また、地域の違いによる8月の晴れ時の蓄熱量(中程度作業)の差異をFig. 11に示す。この結果では、横浜は他の地域と比較して全体的に気温等が低く、その影響により同じ月、天気、作業であっても作業者の蓄熱量は他の地域に比べて少ない。また、神戸と福岡は全体的に各値が似ており、気温等の環境条件および蓄熱量の変化においてもほぼ同じ傾向を示している。これは、緯度が横浜(北緯35°26′12″)、神戸(北偉34°41′36″)、福岡(北緯33°34′38″)であり、その影響と考えられる。神戸は福岡に比べて北にあるが、瀬戸内海気候の影響により福岡と似た傾向を示すものと考えられる。
 また、熱対策の効果としては3.2と同様の傾向を示し、最も人体蓄熱量を抑制できるのは当然遮光ネット、冷却ファン、10分休憩の全ての対策を取った場合である。遮光ネットと冷却ファンの併用の場合には、曇量が多くなるほど全天日射量が少なり遮光ネットの効果が小さくなる。
 
Fig. 11  Variation of worker's heat storage for every region
 
 
 
 以上のことを踏まえて、対策レベルを以下の4段階とし、各地域、月、天気において計算した蓄熱量の結果から、対策レベルを判断した。
レベル−I: 熱対策を必要としない.
レベル−II: 1)休憩、または2)遮光ネットと冷却ファンの併用により許容値を超えずに作業可.
レベル−III: 1)休憩、2)遮光ネット、3)冷却ファンの併用により許容値を超えずに作業可.
レベル−IV: 全ての対策1)2)3)を取っても許容値を超えるので、対策を強化する必要あり.
 3地域の対策レベルをTable 5に示す。ただし、対策レベルはその日の熱的に一番厳しい時間帯のレベルであり、この時間帯を避けると対策レベルは低いランクに移る。
 前述のように、横浜は他の地域に比べてそれほど環境条件が厳しくないため、対策レベルが他の地域より低く、神戸と福岡は対策レベルがほぼ同じ傾向を示している。
 
Table 5  Level of taking measures for every region, month and weather
Month Weather Metabolic Level Yokohama Kobe Fukuoka
June Very fine Low I I I
Moderate I II II
Sunny Low I I I
Moderate I I I
Thin cloudy Low I I I
Moderate I I I
Cloudy Low I I I
Moderate I I I
July Very fine Low II IV IV
Moderate IV IV IV
Sunny Low I II II
Moderate II III IV
Thin cloudy Low I I I
Moderate I I I
Cloudy Low I I I
Moderate I I I
August Very fine Low IV IV IV
Moderate IV IV IV
Sunny Low II III III
Moderate III IV IV
Thin cloudy Low I I I
Moderate I II II
Cloudy Low I I I
Moderate I I I
Sept. Very fine Low I II II
Moderate II II III
Sunny Low I I I
Moderate I I I
Thin cloudy Low I I I
Moderate I I I
Cloudy Low I I I
Moderate I I I


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