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2.3 風車模型の設計
 予備実験の結果を基に、以下に示すような方法によって実験に用いるべき風車模型の面積率を決定した。
(1)運動量の理論(実機)
 実際の風車に加わる抗力Tturbineは、風車の前後の風速をFig. 3のように定義すると、風が風車を吹きぬける際の質量保存と運動量の釣り合いから(1)のように書ける。なお、ウェイク風速とは風車後方における風車の影響を受けた風速のことである。また、流量一定であることからSU=AV=S'uを用いた。
TturbineaSU2aS'u2
aAV(U-u)
ρa: 空気密度
A: ロータ面積
V: ロータ面上での風速
U: 風車前方の風速
u: 風車から離れた位置でのウェイク風速
 また、Tturbineは風車前後の圧力差とベルヌーイ式から以下のようにも書くことができる。
 
 
Pu: 風車前方の圧力
Pd: 風車後方の圧力
(1)、(2)式より、V, U, uは以下の関係を満たす。
 
 
 (2)、(3)より、発電量Pは(4)のように表せる。
P=2ρaS(U-V)V2  (4)
 ここで、風車による風速の減衰率をαとすると、下のようにおける。
V=αU  (5)
 (4)に代入すると、(6)のようになる。
P=2ρa(1-α)α2U3  (6)
 また、風車後方の風速uは(3)より
u=2V-U=(2α-1)U
となる。これが0よりも大きいことから、
 
 
である。
 ここで、風車のパワー係数が0.4程度であることを用いると、(6)より
 
 
 (7)の範囲で(8)を解くと、α=0.865となるので、
V=αU=0.865U
u=(2α-1)U=0.730U  (9)
となる。
 
Fig. 3 運動量理論における風車ロータまわりの流れ
 
(2)運動量の理論(模型)
 模型周りの流れを、運動量の理論より検討する。模型の前後の風速をFig. 3のように与える。このとき、円板前後の流量が一定であることから、Q=US=uS'となるので、
 
 
 ここで抗力Tは、運動量の法則より
 
 
ρw:水の密度
となる。uがS'上で一様であると仮定すると、
T=ρwU2S-ρwu2S'
 ここで(10)を代入し、
 
 
 また、抗力係数CDを用いると、
 
 
となるので、(11)、(12)より
 
 
 したがって、(10)、(13)より
 
 
(3)風車模型の設計
風車模型の所要抗力係数の決定
 模型風車後方の流れと実機風車後方の流れが相似になるためには、(9)と(13)が一致することが必要条件となる。このとき、
 
 
となる。この時、風車上流から流れ込む風速Uと風車下流から流れ出す風速uとの比が実機と模型実験とで一致するので、SとS'との比も実機と模型実験も同じ値となる。従って、Fig. 3のように描いた時の風車前後の空気流の幾何学的な広がり方が実機と模型実験とでほぼ等しくなると考えられる。ただし、風車後流は実際には旋回流となっているなど、風車まわりの流れと穴あき平板まわりの流れの間には流体力学的観点から種々の違いが存在するため、風車を穴あき平板で置き換えて実験を行うといったコンセプトの妥当性に関しては、今後、風車模型を使った実験結果と穴あき平板模型を使った実験結果の比較や、風車模型周りの流れ場と穴あき平板模型周りの流れ場に関する詳細な計算結果の比較などにより更に検討すべき課題であると考えられる。
 穴のあいていない円板の抗力係数は、たとえばHoerner1)によれば、レイノルズ数が104程度より大きな範囲では1.17で一定である。一方、本実験で穴のあいていない円板を水中で曳航した場合の抗力から求められる抗力係数はFig. 2に示したようにそれよりも大きな値となった。
 このように本実験の結果得られた円板の抗力係数が既存の実験結果と異なる原因として1)自由表面影響 2)レイノルズ数影響などが考えられる。この内、自由表面影響については、曳航する円板(穴のあいていないもの)の自由表面からの深度を変えて実験したところFig. 4に示すような結果が得られた。この図から、曳航される風車の深度を変化させても抗力係数はほとんど変化せず、自由表面の影響は見られないことがわかる。(ちなみにFig. 2に示した結果は風車中心の深度が75mmの場合である。)
 一方、レイノルズ数の影響については、穴のあいていない円板(中心の深度75mm)を用いて、曳航速度を100mm/secから500mm/secまで変化させて抗力係数を求めた結果をFig. 5に示す。また、Fig. 6には、横軸にレイノルズ数をとってHoerner1)に示されている図(page 3-15, Figure 26)に本実験結果を重ねてプロットした図を示す。(水の動粘性係数を1.3×10-6m2/sと仮定した)Hoernerの図は既存の実験結果をまとめて示したものであるが、各実験間のばらつきは少なく、Fig. 6に示すようにほぼ1本の曲線上にすべての実験結果がのる一方で、本実験結果はこれら既存の結果より明らかに大きいな値となっている。曳航速度を上げるにつれて(即ちレイノルズ数を上げるにつれて)本実験結果はHoernerの図に近づくが、そもそも本実験におけるレイノルズ数範囲ではHoernerの図ではレイノルズ影響が見られないのに対して、本実験ではレイノルズの増加と共に抗力係数が小さくなるといった傾向が異なる。
 本実験に用いた模型はFig. 2に示したように、円板をストラットで支える構造となっているため、計測された抗力には円板に加わる抗力以外にストラットに加わる抗力が含まれているが、ストラットだけを取り出して曳航して計測を行ったところ、計測された抗力はFig. 5, Fig. 6に示した実験結果の1割程度で、Hoernerの図との差を説明するに至らなかった。
 以上、結局のところ円板に加わる抗力に関して、本実験結果と既存の実験結果(Hoernerの図)に有意な差が見られることの原因を特定することはできなかったが、実験事実として本実験における円板まわりの流れと、Hoernerの図に引用された既存の実験における円板まわりの流れの様子は少し異なり、本実験に用いた円板まわりの流れ場の乱れが既存の実験における円板まわりの流れ場の乱れに比べて若干小さいことが示唆される。とはいえ、Hoernerの図においてレイノルズ数103以下で見られる抗力係数の大きな変化に比べて、本実験結果のレイノルズ数依存性は小さく、本実験における円板まわりの流場とHoernerの図に引用されている既存実験における円板周りの流場とで、流れ場の違いは小さいとして、以後実験を進めることとした。
 
Fig. 4 風車の深度と抗力係数の関係
 
Fig. 5 曳航速度と抗力係数の関係
 
Fig. 6 Hoernerの図と本実験結果の比較
 
風車模型の面積率の決定
 Fig. 2に示したように面積率と抗力係数の関係を直線近似した結果より、面積率1の円板の抗力係数は約1.90となる。一方、上述したように、実機風車の抗力係数は約1.17と考えられる。
 (15)式より、実験に用いるべき穴あき円板の抗力係数は0.540となるべきであるが、穴あきの模型風車の場合も、面積率1の場合の模型風車と実機風車の抗力係数の比と同じ割合で抗力係数が大きくなると仮定すると、実験に用いるべき穴あき模型風車の抗力係数CD'は
 
 
となる。
 抗力係数o.877に対応する面積率は、Fig. 2より
 
 
となるから、実験に用いるべき円板の面積率は0.461と決定される。(上に示した面積率の求め方から、結局面積率は0.540/1.17で求められるから、実験のレイノルズ数に拘わらず実験に用いる円板の所要面積率は同じ値になることがわかる。)
 以上の結果をふまえて、本実験ではFig. 7のように風車模型を設計・製作した。製作された風車模型の面積率は0.466となった。
 
Fig. 7 風車模型の穴の配置


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