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2.4 風車間の遮蔽影響実験
(1)実験方法
 本実験は、Fig. 1に示した風車模型を、Fig. 8に示すように上下逆にして曳航電車に固定し、水中を一定速度で曳航することによって各風車に加わる力を計測した。既存の風車は、風向きが変化しても風に正対する方向にヨー制御されることから、Fig. 9に示すように、各風車模型の円板面は常に曳航電車の進行方向と正対させた。風車模型に加わる力の計測には、Fig. 1に示したように風車を支えるストラット(実際の風車ではポールに当たるものと見なすことができる)に、歪みゲージ型の防水仕様検力計を組み込んで計測を行った。実験パラメータは、風車の搭載数を2〜7基、風車中心間隔を10〜100cm、風向を0〜90deg、曳航速度を50〜450mm/secとして系統的に変化させて実験を行った。なお、風車模型の直径は10cmである。(風向θの定義はFig. 9中に示す通りである。)
 
Fig. 8 実験概要側面図
 
Fig. 9 実験概要平面図
 
(2)実験結果
 実験によって得られた各風車模型の抗力係数CDは、当該風車模型を単独で曳航した際の抗力係数CD0に対する比として比較した。したがって、その比が1に近い値であれば風車間の影響による抗力係数の変化は小さい、即ち遮蔽影響は小さいと判断される。
 
単独風車模型の抗力係数
 Fig. 10は、Fig. 7に示した穴あき風車模型を単独で曳航した際の抗力係数と曳航速度の関係を表したグラフである。
 これらの実験結果から、穴あき風車の場合、曳航速度の変化による風車模型の抗力係数の変化は小さいことが分かった。また、曳航速度が小さい範囲では計測値にばらつきがあるが、これは計測される抗力が小さく、電車の振動等による計測値の変動幅と同程度になったため、計測値から抗力を特定する際の誤差が相対的に大きくなったためと思われる。
 
Fig. 10 抗力係数―曳航速度(単独)
 
風車間の遮蔽影響
 次に、風車間の遮蔽影響を調べるため、風車2基を卓越風向に対して直角方向に配置した場合と卓越方向に平行な方向に配置した場合の抗力係数の変化を計測した。
 Fig. 11は風向0degのとき(風向の定義についてはFig. 9を参照されたい)、すなわち卓越風向に対して直角方向に風車が並んでいる際に、各風車の抗力係数が風車中心間隔に対してどのように変化するかを表したグラフである。(この場合は風車間の遮蔽影響というよりも、むしろ風車間の流体力学的相互干渉影響というべきであろう。)ここで縦軸は曳航速度150〜400mm/secの抗力係数の平均値を表している。また、Lは隣り合う風車の中心間隔を、Dは風車径を表す。この結果から、隣り合う風車のプレードがほとんど接するまで(L/D=1まで)近接させても、風車間影響はほとんどないことがわかる。
 従来、卓越風向に直角方向の風車中心間距離は風車径の3倍以上離せば風車間影響を回避できるとされているが、風向が変化しなければ風車間がほとんど接するまで近接して配置することが可能であると言える。
 
Fig. 11 抗力係数―風車間隔(風向0deg)
 
 Fig. 12は風向90deg、すなわち卓越風向に対して平行な方向に風車2基が並んでいる際の、風下側風車の抗力係数が風車間隔に対してどのように変化するかを表したグラフである。風車径の10倍程度離して設置した際でも、抗力係数は風車単独の場合の6割程度にまでしか回復しない。抗力係数を求める際の風速としては風上風車に入射する風速を用いているので、この結果から風下風車に入射する風の速度は風上風車に入射する風速の78%(=√0.6)程度までしか回復せず、発電量は風車単独の場合の半分程度(0.783=0.47)となってしまうことが分かる。従来、卓越風向と平行な方向には風車径の10倍程度離せば風上風車による風下風車への遮蔽影響は回避できるとされていたが、本実験の結果からは、卓越風向と平行な方向には風車間影響が予想以上に大きいことがわかった。
 
Fig. 12 抗力係数―風車間隔(風向90deg)
 
 Fig. 13は2基の風車を用いた際の風下側風車の抗力係数の風向による変化をみたグラフである。また、Fig. 14は風車を等間隔で7基配置した場合の3基目以降の風車模型の抗力係数の平均を表したグラフである。(風車を多数配置した場合の抗力係数は、風上から3基目以降はほぼ一定であった。)(凡例中に(CAL)で示されている結果は、後述する実験式による推定値である。)両図に示された結果より、風車中心間隔を風車径の3倍離した場合には、風向70度程度までは風上風車による遮蔽影響がほとんど見られず、風車中心間隔を風車径の1倍まで近接させた場合でも、風向30度程度までは遮蔽影響がみられないことがわかる。
 
Fig. 13 抗力係数―風向(2基目)
 
Fig. 14 抗力係数―風向(3基目以降)
 
 これらの実験結果から風車間の遮蔽影響は、風向が大きくなって幾何学的に風上風車の風向への投影が風下風車に重なり始めるにしたがって現れ始め、逆に幾何学的に風上風車の風向への投影が風下風車に重ならない場合にはほとんど影響がないことが分かった。
 また、本論文中には示していないが、他の実験結果から、風下側の風車による風上側の風車への影響は小さく無視できるということが分かった。更に、風上から3基目以降の風車では、抗力係数がほぼ一定となることが分かった。
 
風車間遮蔽影響の定量化
 以上の結果から、風下風車が風上風車により幾何学的に遮蔽される面積の割合(遮蔽率と定義した)を用いて、風車間の遮蔽影響の定量化を行った。風車間影響のモデル化を行う際には、曳航速度150〜400mm/secの抗力係数の平均値を用いることにした。また、風上側から1基目の風車の抗力係数は風車単独の揚合の抗力係数と同じであるとし、さらに風上から3基目以降の風車の抗力係数は一定であるとした。(16)はこのようにして求めた風上から2基目の風車の抗力係数の計算式である。同様に、(17)は風上から3基目以降の風車の抗力係数の計算式を示す。式中のDは風車直径を表し、φ, dなどの定義はFig. 15に示す通りである。
 
 
Fig. 15 遮蔽率の定義
 
 (16),(17)式を用いて計算した結果をFig. 13, Fig. 14中に示すが、広い風向範囲にわたって実験結果を良く説明し得るモデル式といえる。


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