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浮体式洋上風力発電ファームにおける風車間の遮蔽影響に関する研究
正員 緒方 龍*
正員 影本 浩**
正員 木下 嗣基***
阿久津 好明**  加藤 孝義**
 
* 新日本石油(研究当時東京大学大学院)
** 東京大学大学院
*** 国立環境研究所(研究当時東京大学大学院)
原稿受理 平成17年5月20日
 
A study on the shielding effects among wind-power generators in a floating wind farm
 
by Ryu Ogata, Member
Hiroshi Kagemoto, Member
Tsuguki Kinoshita, Member
Yoshiaki Akutsu Takayoshi Kato
 
Summary
 As the wind power is now considered as one of the most promising renewable energy resources, the total amount of electricity produced worldwide by wind-power generators is increasing quite rapidly. In Japan, since land spaces suitable for wind-power generations are quite limited, the feasibility of wind-power generations in offshore areas is now being studied extensively. Among various possible types of offshore wind-power generations, a floating wind farm, which consists of large floating structures and an array of wind-power generators mounted on each of the floating structures is considered to be an adequate type for Japan because the water depth tends to become large steeply even in the close proximity of shores. It is known that, in such a floating offshore wind farm, the construction cost of the floating structures, on which an array of wind-power generators are to be mounted, accounts for a major part of the total construction cost. It is therefore quite vital for the reduction of the power-generation cost that the number of wind-power generators mounted on a unit area of a floating structure could be increased. On the other hand, however, a larger number of wind-power generators per unit area of a floating structure usually results in the lower amount of average power produced by each generator, because the wind speed incident to power-generating blades tends to be reduced due to the shielding effects among the congregated wind-power generators.
 In the present study, the shielding effects among the generators in an offshore floating wind farm are investigated through extensive experiments and the trade-off effects on the generation cost due to the increase of the number of generators mounted on a unit area of a floating body and the increase of the shielding effects among generators are quantified. It has been found out through the experiments that the interaction effects between adjacent wind-power generators when they are placed side-by-side against wind direction are much smaller than generally conceived, and thus wind-power generators could be mounted in an offshore wind farm with significantly higher density than that of conventional wind farms.
 Finally, an offshore floating wind farm free from the shielding effects among the mounted generators is proposed.
 
1. 緒言
 化石燃料の燃焼に伴って排出される二酸化炭素による地球温暖化などの環境問題が顕在化している中、二酸化炭素の排出を伴わないエネルギー源として再生可能エネルギーが注目されている。特にその中でも風力エネルギーは他の新エネルギーに比べ実用化が進んでおり、新たなエネルギー源として期待されている。しかし国土面積の小さい日本では風力発電に適した広い平野が少なく、大規模な開発が難しい。一方、我が国は四方を海に囲まれ、世界第6位の排他的経済水域を有する海洋領土大国であり、洋上での風力発電が有望ではないかと考えられている。しかしながら、北欧で普及しつつあるような着底式の洋上風力発電は、日本近海では遠浅の海岸が少ないことや、漁業権などを考慮すると大規模な開発は難しいといえる。そこで、日本に適した風力発電として浮体式風力発電が考案され、現在までに様々なシステムが提案されている。一般に、風車を近接して配置すると、風車間の遮蔽影響により発電量が減少するため、陸上の風力発電ファームあるいは着底式洋上風力ファームでは、隣接する風車の中心間隔は、主要な風向と直角方向には風車直径の3倍以上、主要な風向と平行な方向には風車直径の10倍以上とすることが通例であるが、浮体式洋上風力発電ファームでは、建設コストの高い浮体を有効に使うために、浮体に搭載する風車の数をなるべく多くすることが望ましい。
 このような観点から、本研究は、浮体上で近接する風車間の遮蔽影響と遮蔽影響による発電量低下を実験によって定量的に明らかにすると共に、遮蔽影響の少ない浮体式洋上風力発電システムを提案することを目的として実施した。
 
2. 風車間の遮蔽影響実験
2.1 実験の概要
(1)供試模型
 本研究で対象としたのは、水平軸型のプロペラ型風車群を浮体上に搭載する形式の浮体式洋上風力発電ファームである。プロペラ型の模型を供試する場合、模型実験において、流れの持つエネルギーを風車が吸収する率(パワー係数)を実際の風車と同程度に調整する必要があるが、模型の寸法上そのような複雑な装置を製作するのは困難であるため、Fig. 1に示すような穴を空けた円板を用い、面積率(円板の全面積に対する模型円板の面積の比)を変化させることで、風車への入射風速と風車後流における風速の比が実際の風車と模型実験とで同じになるように供試模型を設計した。供試した円板は直径100mm、厚さ2mmで、各穴の直径は同一で7.7mmとした。
 また、風車が回転することで風車後方の流れには旋回流が生じるが、これによる流れのエネルギー損失は小さく無視することが出来ると考えた。
(2)実験方法
 本来ならば、風洞を利用して実験を行うべきであるが、模型に働く抗力は流体の密度に比例するため、本実験で用いた模型寸法では、空気中で測定される抗力は非常に小さく、精度のよい計測が困難となることが予想された。また、本研究で対象とする模型まわりの流場はレイノルズ数によってほぼ決まると考えられるため、適切なレイノルズ数範囲で実験を行えば、流体としての媒体が空気でなく水であっても構わないであろうと考えた。(Hoerner1)のテキストに掲載されている抗力に関する実験結果も、流体が空気であるか水であるかに関わりなく、レイノルズ数が同じであればほぼ同じ結果となっていることからも、本実験方式は妥当であると考えられる。)このような理由により、船舶試験用の水槽を用いて、供試模型を曳航電車により水中で曳航することによって、抗力を計測した。
 実際の風車後方の流れと円板後方の流れの対応については、風車の回転面で考えれば双方とも円形の板として捕らえることが出来る。円板のようにエッジがシャープな場合、剥離点が一意に決まるので、Hoerner1)によればレイノルズ数が104程度よりも大きい範囲では抗力係数はほぼ1.17で一定となり、レイノルズ数影響は小さい。本実験では、レイノルズ数は4×103〜3×104程度であり、模型と実機とでレイノルズ数が異なることによる風車周りの流場に対する影響は少ないと考えたが、後述するように必ずしもそうとはいえないことがわかった。
 実験は、東京大学工学部運動性能水槽(長さ45m×幅5m×実験時水深3m)で行った。水槽にはレール上を水槽の長さ方向に走行することが出来る曳航電車が装備されており、コンピュータ制御により20mm/sec〜1000mm/secの速度範囲で、誤差±1mm/secで走行させることが可能である。
 
Fig. 1 風車模型
 
2.2 予備実験
 2.1で述べたように、穴あき円板を用いた供試模型が実際の風章と同程度のパワー係数を持つように設計する必要がある。そのため、まず予備実験として、供試模型の面積率(円板の全面積に対する模型円板の面積の比)を変化させて抗力を計測し、風車単体の揚合の面積率と抗力係数の関係を求めた。実験方法は、風車模型を円板面が曳航電車進行方向と正対するように曳航電車に固定し、水中を一定速度で曳航させた時の風車模型に働く抗力を検力計によって測定した。予備実験の結果をFig. 2に示す。ここで、速度Uで曳航した時の模型風車に働く力が抗力係数CDを用いてで表されると仮定して抗力係数を求めた。(ρwは水の密度で、Sは面積率にかかわらず直径100mmの円板の面積値を用いた。また、凡例は各曳航速度を示す。)図中のR2は、抗力係数と面積率の関係を図中に示した直線で近似した時の抗力係数の値と実験結果との相関係数Rの2乗値であり、相関係数Rの値がと1に極めて近いことから、面積率と抗力係数はほぼ比例することがわかった。
 
Fig. 2 面積率と抗力係数


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