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4.2 香港―LA/LB直行便新航路
4.2.1 新航路の設定
 新しい航路を検討する例題に作成したモデルを適用する。本論では貨物量の多い香港とLA/LBを高速かつ寄港数の少ない直行便で結び、西航でいくつかのアジアの港湾を経由する航路を新規に設定した場合の、新規航路の競争力を検討する。新規航路の候補は複数考えられるが、本論ではその中の1例について検討を行う。
 Table.5に直行便と既存航路の各1例についてスケジュール、隻数、速度、積載可能量をまとめたものを示す。表に例としてあげた既存航路は、使用した貨物データと同じ1999年において香港からLA/LBへの所要日数が最短のものである。直行便のスケジュールは月曜日に香港を出港するものを記載してあるが、実際にはそれぞれの曜日に香港を出港する設定(7通り)について検討する。直行便は高速な輸送に対する需要の高まりを考慮して、香港からLA/LBへの所要日数が既存の最短のものと同じ所要日数となるものとした。また、西航における貨物量を確保し、さらに定曜日のサービスとするために香港、LA/LB以外に貨物の取扱量が多い釜山、高雄のみを経由する4週間のループとなるようにした。そのため、使用する船舶の航海速度は現在就航している中で高速な部類に入る26ノットとし、積載量は既存の航路よりも寄港地が減ることを考慮して3000TEUとした。上記のような航路設定とすることで、既存航路と比べて寄港数が少ないことと、高速な船舶を用いて香港からLA/LBへ直行することの効果を検討することにつながる。
 ここで検討した航路以外にも、毎日香港を出港しLA/LBに入港するデイリーシャトル便(3.6週周期で可能)や、香港―LA/LB間の所要日数が既存の航路よりも短い高速便が新航路の候補として考えられる。しかし、前者は航路を維持するために26隻もの船舶が必要となること、後者は30ノット以上で運航しなければならないことが実現する上でのネックとなるため、本論では検討しないこととした。
 
Table.5  Example of new liner route and existing liner route
Route Schedule Number of ships Speed (knot) Size (TEU)
New HONG KONG (Sun/Mon) -
LA/LB (Fri/Sun) -
BUSAN (Tue/Wed) -
KAOHSIUNG (Fri/Sat) -
HONG KONG (Sun/Mon)
4 26 3000
Existing (SSX) PORT KELANG (Tue) -
SINGAPORE (Wed) -
YANTIAN (Sat/Sun) -
HONG KONG (Sun/Mon) -
LONG BEACH (Fri/Wed) -
KAOHSIUNG (Mon/Tue) -
HONG KONG (Wed/Thu) -
YANTIAN (Thu) -
SINGAPORE (Sun/Mon) -
PORT KELANG (Tue)
6 23.3 5000
* Description of schedule in new route is the case of departure from Hong Kong on Monday
 
4.2.2 新航路の輸送量と競争力
 4.2.1のように設定した直行便をシミュレーションモデルに導入して計算を行った。新規航路に導入される船舶4隻の平均輸送量をまとめたものがTable.6である。各航路は700TEUから3000TEU程度の輸送を行うという結果になった。
 
Table.6 Average load of every new route
Departure day of the week (Hong Kong) Average load (TEU)
East bound West bound
Sun 2446 1932
Mon 2508 2396
Tue 1726 2124
Wed 724 1858
Thu 2553 1993
Fri 2960 1293
Sat 2438 1624
 
 シミュレーション結果から新航路の競争力がどの程度であるかを検討し、既存の航路にどのような影響を与えるかを調べる。
 競争力を評価する上で最も分かりやすい指標であると考えられるのが、航路の利益である。利益を計算するために必要となる情報は収入と支出、すなわち運賃と運航経費の情報である。しかしながら、運賃に関しては東航・西航の平均値に関する情報しか得ることができず、使用する港や荷主、貨物の種類によって運賃が異なる状況を再現することは難しい。また、運航経費に関しては船型や速度によって燃料消費量が異なること、船価(傭船料)が市況によって大きく変動することから、具体的に算出することが難しい。そこで、本論では以下の式で与えられる値を太平洋航路における競争力を表す指標として提案する。
 
東航or西航の輸送量(TEU)/1ループの所要時間(week)(5)
 
 東航と西航に分けている理由は、東航と西航では貨物量と運賃が大きく異なり、同列に扱うことが難しいと考えられるためである。本論では西航の貨物総量が少ないことから、東航の輸送量が全既存航路の東航の平均輸送量よりも多い場合に競争力があるとした。この式で与えられる値は以下のような仮定が成り立つならば利益を大まかに評価することにも利用可能であることから、競争力を表す指標として有効であると考えられる。
 
仮定1: 既存の全航路の平均は採算がとれている
仮定2: すべての航路の東航・西航運賃は、それぞれ所要日数に関係なく等しい(入手可能なデータの性質より)
仮定3: 費用の合計は運航日数に比例する(運航経費のうち大きな割合を占める傭船料、燃料費、人件費が運航日数に比例するものであることから)
 
 計算結果をFig. 7、Fig. 8に示す。横線が既存航路の平均値、縦棒が新しい航路(香港を出港する曜日別)である。新しい航路では、火曜日と水曜日に香港を出港する航路の東航以外はすべて既存の航路の値を上回っていることがわかる。これより、新しい航路の競争力は既存の航路と比べて高いと考えられる。
 
Fig. 7 Competitiveness of new liner (east bound)
 
Fig. 8 Competitiveness of new liner (west bound)
 
4.2.3 他航路への影響
 シミュレーション結果から、新しい航路を導入することによって既存航路の輸送量にどのような影響を与えるかを検討する。Table.7は月曜日に新しい航路を導入する前後における既存航路の貨物輸送量を香港→LA/LBについてまとめたものである。
 
Table.7  Influence of new liner on cargo volume of existing liner (from Hong Kong to LA/LB)
Route With new liner (TEU) Without new liner (TEU) Departure day of the week (Hong Kong) Transportati on days (Hong Kong→LA/LB)
New route 1823 - Mon 12
SSX 1823 2173 Mon 12
TP-6/AE-5 1823 2073 Mon 12
PSW 1918 2168 Sat 14
Far East Express 1375 1614 Mon 13
South East Asia Exress Service 1312 1531 Mon 15
PDA 1372 1563 Fri 13
PS2 1005 1126 Sun 15
KL-PSW 886 1000 Sat 14
PDB 489 584 Sun 16
TPS 602 680 Sat 17
PS1 389 453 Mon 16
CKX 451 509 Fri 17
YangMing-PSW 409 459 Sat 16
TP5 451 493 Tue 14
MSC 216 251 Sun 18
Zimline 198 221 Fri 19
CMA 130 151 Sun 20
California & New York Service 134 150 Thu 17
Pacific Service 85 98 Sat 21
 
 この区間は貨物量が多く、新規航路が既存の航路と並ぶ最短輸送時間のサービスを提供する区間であるため、新規航路導入の影響が最も顕著に現れる区間である。また、香港→LA/LBの貨物は月曜日発のものが多い。表を見ると、新しい航路と同じ曜日に香港を出発する航路の輸送量が大きく減少することがわかる。既存航路の輸送量は平均で12.5%減少している。また、結果は割愛するが他の曜日に新しい航路を導入する場合にも同様の傾向が見られるということを記しておく。
 
5. 結言
 本論では太平洋航路の実態と変遷についての情報の整理を行い、貨物の航路選択をロジットモデルで表現したコンテナ貨物流動シミュレーションモデルを提案した。そして、シミュレーション結果と現実のデータの比較により、提案したシミュレーションモデルは現実をよく再現していることが確認された。また、シミュレーションにより香港―ロサンゼルス(LA)/ロングビーチ(LB)間に直行便を導入する場合について航路の競争力、他航路の集荷力の変化や競合関係に関する評価を行った。その結果、新しい航路は既存航路よりも高い競争力を持つことが示された。
 今後は、モデルヘの運賃に関係する項の導入や、パラメータを推計することができない区間についてシミュレーションを繰り返すことで適切な値を推計する、等のシミュレーションモデルの現状再現能力を高めるための改善が必要であると考えられる。さらに、より新しい貨物・航路のデータを用いてシミュレーションを行うことで、より現実的な検討を行うことが可能になると考えられる。
 
謝辞
 本研究に対して、日本郵船(株)の合田浩之博士には実務の視点から有益なご助言をいただきました。厚くお礼申し上げます。コンテナシステムテクノロジの渡邉逸郎博士には研究に対するご助言、コンテナ定期船についてのさまざまな情報をいただきました。深く感謝いたします。元・大阪産業大学教授の下條哲司博士、ものつくり大学田中正知教授には海運・物流についての多数のご助言をいただきました。ここにお礼申し上げます。
 
参考文献
1)国土交通省海事局編:平成17年版海事レポート, 日本海事広報協会, 2005
2)家田仁他:アジア圏コンテナ流動モデルの構築とその配分仮説に応じた特性分析, 土木計画学研究・論文集, No.15, 1998, pp.469-480.
3)黒田勝彦他:外航定期コンテナ流動予測モデルの構築とアジア基幹航路への適用, 土木学会論文集, No.653, 2000, pp.l17-131.
4)大和裕幸, 山内康友:複数の輸送機関の競合区間における貨物輸送の分担率・採算性・輸送設計に関する研究, 運輸政策研究, Vol.6, No.3, 2003, pp9-16
5)松倉洋史他:企業間協力が海上不定期輸送に与える効果のシミュレーション評価, 日本造船学会論文集, Vol.195, 2004, pp43-51.
6)間島隆博他:複雑系マルチエージェントシミュレーションによる河川を利用した災害時緊急輸送能力の評価, 日本造船学会論文集, Vol.192, 2002, pp465-474.
7)勝原光治郎:太平洋定期船航路の物流シミュレーション, 船と海のサイエンス, 2003秋季号, 2003, pp48-51
8)運輸省海上交通局編:平成12年版日本海運の現況, 日本海事広報協会, 2000
9)オーシャン・コマース:国際輸送ハンドブック, 1999, 2005
10)城所幸弘:交通プロジェクトの便益評価―体系と課題―, 運輸政策研究, Vol.6, No.2, 2003, pp14-27


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