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日本船舶海洋工学会論文集 第2号

 事業名 造船学術の振興
 団体名 日本船舶海洋工学会 注目度注目度5


3. 太平洋航路シミュレーションモデル
3.1 用いるデータとデータの処理
 本論ではPIERSの1999年8月の米国輸出入貨物データを貨物データとして用いる。このデータはアメリカの貿易港を通過する貨物1件ごとの船荷証券(B/L)データを扱っており、貨物の量、貨物の種類、出発地、到着地、輸送に利用した船の名前、アメリカの輸入貨物であればアメリカヘの到着年月日、輸出貨物であればアメリカからの出発年月日などが含まれている。
 本論で行ったシミュレーションにおいては貨物の発生日時(便宜的に、貨物が使用した船舶が出港する日とした)が輸送航路の選択に影響する重要な項目であるため、アメリカの輸入貨物については輸送に利用された船名をもとに、公表されている運航スケジュールから輸送日数をさかのぼることで貨物の発生時期を推定するという処理を行った。輸出貨物については出発日時が明記されているのでこの処理は必要ない。また、国際輸送ハンドブックに掲載されている運航スケジュールと各航路に属する船舶の名称や船型のデータをシミュレーション内の船舶運航・貨物の積みおろしに用いるために、CSVファイルとして準備した。
 本論のシミュレーションは1ヶ月間における航路上の船舶に積載する貨物量を調べることが目的である。しかしながら、今回使用した8月のデータとは8月中にアメリカに到着、もしくはアメリカを出発した、という意味であり、アメリカの輸入貨物については実際に発生した時期が7月後半〜8月前半、輸出貨物については8月1日〜31日であるため、そのまま利用すると1ヶ月間のシミュレーションでは輸出か輸入のどちらかがまったく存在しない期間が生じてしまう。この問題に対処するために、7月・9月の貨物発生量は8月と同様であるという仮定を置き、貨物の発生曜日が一致するように8月の貨物を7月、9月の貨物として登録し、3ヶ月間のシミュレーションを動かした中で8月のみをモニタリングするという方法をとった。また、PIERSの米国輸出入貨物データと国際輸送ハンドブックの航路データが一致しない場合は『行き先不明』としてシミュレーションからは除外することとした。除外した貨物量は香港―LA/LB間ではデータ全体の23%である。
 本論では用いたデータが8月のものだけであるため、貨物量の季節変動までを考慮した競争力の検討は難しい。1年間のデータを用いれば上記のような処理を行う必要もなく、貨物量の季節変動も考慮できることから、より精度の高い競争力評価につながると考えられる。しかしながら、PIERSのデータは高価であるため、本論では輸送件数が12ヶ月の平均値に近い8月のデータ1ヶ月分のみを用いたということを記しておく。
3.2 シミュレーション
3.2.1 シミュレーションの概要
 本論で作成したシミュレーションは大きく分けて以下の3段階の処理を行うものである。Fig. 3にシミュレーションのフローチャートを示す。
 
1. データの前処理
2. 時間を1時間ずつ進めながらのアニメーションのプロット・貨物の配分
3. シミュレーション結果の処理
 
Fig. 3 Flow chart of simulation
 
3.2.2 貨物の航路選択(貨物の航路への配分方法)
 各港湾において荷主がどの航路の船舶を選択するかは、航路の便益に依存する。航路の便益は主に運賃と所要日数であると考えられる。運賃は運航速度やスケジュールの組み方、使用する船舶によって異なる可能性があるにもかかわらず全体の平均金額についての情報しか得ることができないので、全ての区間において一定であると仮定し、目的港までの所要日数で航路の便益を計ることとする。この選択行動をロジットモデルで表現する。ロジットモデルについては城所10)に特徴が詳しく述べられているが、人の選択行動を表すモデルとして多く用いられているものである。交通・物流の分野においては交通需要予測と整合的な便益評価が可能であり、新しい交通サービスが整備される場合でも実務的に便益評価が可能であることが長所であると言われている。
 ロジットモデルでは、n個の航路の中から航路kを選択する貨物の総量は式(1)のように表現される。
 
 
Q: 対象区間における貨物総量
qk: 航路kを選択する貨物量
fk: 航路kを選択することで得られる効用の関数
 
効用関数は目的港までの所要日数を変数として
 
fk=αTk+Const  (2)
 
となる。この式を用いると航路kの分担率qk/Qについて式(3)のように書くことができる。
 
 
 式(3)の係数αは推定する必要があるので、香港―LA/LB間を例に推定方法を説明する。Fig. 4はPIERSの米国輸出入貨物データと国際輸送ハンドブックの航路の情報から、香港―LA/LB間の所要日数と分担率の関係を表したものである。これを見ると香港を出港する曜日ごとに異なる傾向が見られることから、曜日ごとに回帰式のパラメータの推定を行い、それらの平均値(香港―LA/LBではα=-0.385)を採用する。計算結果をTable.3に示す。なお、実際の航路には日曜日に香港を出港する航路も複数存在するが、日曜日だけに関しては他の曜日と異なり、所要日数が長い航路のほうがよく利用される傾向にある。これより、日曜日出港の航路に関しては所要日数以外のものが荷主の効用に与える影響が大きいと考えられるので、今回のように所要日数のみで表される効用関数の推定には適切ではないと考えて除外した。同様の方法で香港―LA/LB以外の区間についても係数の推定を行った。例えば、釜山―LA/LBではα=-0.420、高雄―LA/LBではα=-0.264といった値が推計されている。ただし、上記の方法では便数の少ない区間についてパラメータを求めることが難しいため、計算することができた区間の係数全体の平均値を与えることとした。
 
Fig. 4  Relation between necessary days and share
(from Hong Kong to LA/LB)
 
Table.3  Estimated parameters
(from Hong Kong to LA/LB)
Departure day of the week α Correlation coefficient
Friday -0.534 0.861
Saturday -0.427 0.847
Monday -0.194 0.742
Average -0.385 -
 
 シミュレーションにおいては、各船舶への貨物の配分を1日1回、ロジットモデルによる計算で決定する。処理の流れは以下の(1)〜(4)のようになっており、シミュレーション期間中繰り返す。
 
(1)港に到着した船舶について、その港を目的港とする貨物量だけおろす。
(2)各区間について前処理で推計した1日に発生する貨物量を集計し、ロジットモデルの式を適用して貨物を航路に配分する。配分する航路は船舶が港にいない翌日以降の航路も含む。
(3)その日に出港する船舶に配分された貨物を積みつける。出港する船舶がない航路については、翌日以降に出港する船舶が現れた際に貨物を積みつける。
(4)積載上限を超えてしまった航路の貨物は、ロジットモデルの式を用いることで他の航路に再配分する。
 
3.2.3 シミュレーションの出力
 シミュレーションの結果として、設定した運航スケジュールの各船舶にどれだけの貨物が配分されたのかを記録する。これを船舶ごとのPIERSの米国輸出入貨物データによる2港間の輸送量と比較する。これらのデータを利用することで、新しい航路を計画する際に『いつ、どの港を訪れるべきか』、『既存の航路にどのような影響を与えるか』というような問題の検討を行うことができる。
3.3 アニメーション
 本論で作成したシミュレーションモデルは、船舶の動きをアニメーションで表現する機能も備えている。画面へのプロットのために、スケジュールの情報から1時間ごとに各船舶の位置を計算している。アニメーションは航路や積載量を表示することで物流の様子の理解を助け、また、計算結果の妥当性の検討を補助するものである。シミュレーションプログラムのスクリーンショットをFig. 5に示す。
 
Fig. 5 Screenshot of simulation
 
4. シミュレーションの結果と考察
4.1 モデルの検証
 まず、第3章で示したロジットモデルによる貨物の航路選択シミュレーションが実際の貨物流動をどの程度再現することができるかを確認するために、PIERSの米国輸出入貨物データ(実際の貨物流動結果)と国際輸送ハンドブックに掲載されている航路のみで行ったシミュレーション結果の比較を行う。
 Fig. 6はシミュレーションを行った各船舶について、香港―LA/LB間を対象として横軸にPIERSの米国輸出入貨物データによる貨物の積載量、縦軸にシミュレーションにおける積載量をとったものである。そして、Table.4は3149個のデータについてy(シミュレーション結果)、x(PIERSの米国輸出入貨物データ)として回帰式
 
y=β1x+β2  (4)
 
を推定した結果である。相関係数が高く、傾きが1に近いほど現状再現性が良いということが言える。
 
Fig. 6  Distribution of simulation result to PIERS data
 
Table.4  Estimated parameters of regression equation
Parameter Correlation coefficient β1 β2
Value 0.828 0.805 26.11
 
 結果を見ると相関係数が高いことから、モデルの現状再現性は良いと考えられる。回帰係数が1よりも小さくなっている原因としては、区間によってはモデルのパラメータを推計できてはいない、1999年8月という短い期間のデータを使用している、といった使用データに起因するものと、貨物量の配分に影響が大きいと考えられる運賃のような項目がモデルに組み入れられていない、というモデルの構造に起因するものが考えられる。これらについては今後の改善の余地があるといえる。


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