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非定常密度場計測手法の開発
―密度場再構成手法についての検討―
 
学正員 真田有吾*  正員 戸田保幸**
学正員 濱地佐知子***
 
* 大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻博士後期課程
** 大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻船舶海洋工学部門
*** 大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻船舶海洋工学コース博士前期課程
原稿受理 平成17年10月14日
 
The development of the new technique which measures the unsteady density field
- The examination on density field reconstruction method -
 
by Yugo Sanada, Student Member
Yasuyuki Toda, Member
Sachiko Hamachi, Student Member
 
Summary
 This paper propose the new method, called "Random Pattern Refractometry Technique" which is possible to measure the unsteady density fields in stratified flows. In this method the gradient vector fields of the refractive index can be derived from measured displacements of random pattern between two pictures captured before and after density distribution changed. And density fields can be reproduced by integration of gradient vector field. It is mathematically equal to reconstruction of the surface height from the gradient field problem. We can solve this problem by composing the Poisson equation using measured gradient vectors in experiments. To solve this equation, the source term had been computed from the divergence of measured gradient vectors and discretized by finite difference method or Fourier transform in previous studies. But these solutions have a common problem that the errors of reconstructed results further increase by constituting the source term from the differential of gradient vector with the measurement error. In this paper, we propose a new idea using derived solution of the Poisson equation that source term is assumed as unknown function from potential theory. The derived solution of Poisson equation shows that the surface height can be obtained if strength of each source in the field is determined. Since the number of gradient values is twice as that of source intensities, we can determine their strength by making overdetermined linear systems from the condition that gradient vectors from the derived solution corresponds to measured ones. And, we can expect an effect to reduce the impact of measuring errors when solving these overdetermined linear systems with least squares method. We validate this method by applying to simulated data and observation data from a lock-exchange flow.
 
1. 緒言
 非定常な密度分布を光学的に取得する手法としては, シャドウグラフ, シュリーレン, マッハツェンダ干渉法, ホログラムといったものが挙げられ, 1)古くからさまざまな手法が提案されている.これらは一般に特殊な光学系と高度な設定を必要とし, 水理実験に用いるには煩雑である.そこで, 著者らは民生用ビデオカメラと液晶ディスプレイを用いて安価に構築可能で汎用的な非定常密度場計測システムとして, 「ランダムパターン屈折率測定法」の開発を行っている.2)この手法では, 参照画像として液晶ディスプレイに表示したランダムパターン画像を使用し, 計測対象となる流れ場を経由して密度混合が生じる前後で撮影し, PIV(粒子画像流速測定法)で用いられる直接相互相関法3)を用いて算出した変位から屈折率勾配を計測する方法である.屈折率の勾配から屈折率分布を再構成する問題は, 勾配からの曲面再構成問題と数学的に等価であり, 計測された勾配データを用いてPoisson方程式を構成し, 差分法やフーリエ変換などを用いて解く方法が考えられてきた.4)5) しかし, 変位追跡の際発生する過誤ベクトルにより, 再構成結果の劣化が生じるという問題点があった.そこで, 前報2)ではポテンシャル理論に基づきPoisson方程式のソース項をあえて未知関数ととらえて導出した解と最小二乗法を用いて, より確からしい曲面としての屈折率分布を再構成する手法を提案した.これに引き続き本論文では, 特にこの再構成手法に重点を置き, 境界部も含めた定式化を行い, シミュレーションおよび実験データを用いた再構成を行うことで, 本手法の有効性を確認する.
 
2. 密度場再構成手法
2.1 解析原理
 前報2)で示したように, ランダムパターン屈折率測定法では, 変位追跡結果u, vおよび水路幅Lから屈折率の対数関数の勾配が以下の関係式から得られる.(ただし, ここでは水路幅方向の屈折率変化の少ない二次元的な密度場を仮定する.)
 
 
 基準となる屈折率値(たとえば清水)をn0, 微少変化分をΔnとして, Δn(x, y)/n0□1と仮定した場合,
 
 
が成り立つ.これより, 上記(1)式を書き換えれば,
 
 
となる.(3)式より計測したランダムパターンの変位量u, vより得られる基準屈折率n0からの差Δnの勾配が全領域において得られる.このΔnの勾配を全領域において積分することができれば, 屈折率分布およびそれに対応する密度分布が再構成できることになる.
 
2.2 Poisson方程式の構成
 ここでφ=Δn(x, y)とおけば, これは曲面φの勾配gradφが得られている時, 勾配からφ自身を再構成する問題(「勾配からの曲面再構成問題」)と数学的には等価である.
ここに,
 
 
とおけば, 一般にm(x, y)≠0であることにより, φを再構成する一つのやり方として, 計測されたgradφから以下のPoissin方程式を構成し, φをこのPoisson方程式の解として算出する方法を考えることができる.
 
 
 今, 計測量としてu=∂φ/∂xおよびv=∂φ/∂yは計測した変位量から求まっているため, ソース項であるm(x, y)はu, vの微分値から計算することが可能である.これより(5)式のPoisson方程式をφについて解くことで, φを求めることができる.上記ソース項m(x, y)を計測値から求め, 構成したPoisson方程式は, 差分法4)やフーリエ変換5)などを用いて解くことが可能である.しかし, 計測値は相関法による変位追跡時に過誤ベクトルを含んでしまうため, その微分値を足し合わせるとソース項の誤差が増大する可能性があり, 好ましくない.またu, vがコーシー・リーマンの関係を正しく満たし, 一価の関数を構成できる勾配ベクトルであるならば, どのような経路をたどって線積分を行おうとφは決定可能であり, uあるいはvどちらか一方の値をある場所で使用することにより容易に求めることは可能である.しかしながら, 前述のように今回u, vは計測値であるためコーシー・リーマンの関係を満足しない変位ベクトルも存在し得る.そこで, 前報ではmを未知の関数としてφを吹き出し分布により表現し, u, vの計測値を直接用いて吹き出しの強さを決定しφを再構成する手法を提案した.本論文では, 前報に加えて再構成の対象となる領域の境界部も考慮した定式化および離散化を行う.
 
2.3 ソース項を未知関数としたφの導出と離散化方程式の構成
 
Fig. 1  Calculation domain surrounded by exterior boundary Be and interior boundary Bi
 
 ポテンシャル理論に基づいた特異点分布による表現を用いて, 上記(5)式のPoisson方程式のソース項を未知関数としてφを導出することを考える.Fig. 1のような積分経路を考え, Greenの定理を用いると以下のようになる.
 
 
 ここで,
 
 
である.
 (6)式第1項は, 領域S内の点(ξ, η)に置かれた強さm(ξ, η)の点吹き出しによる点(x, y)への誘起ポテンシャルの重ねあわせ, 第2項は, 境界B上の点(ξ, η)に置かれた強さq(ζ, η)の点吹き出しによる点(x, y)への誘起ポテンシャルの重ねあわせである.第3項のConst.は定数であり, 境界条件により決定できる.これを前報と同様に, φの導出解を吹き出し分布で与えることによって, 後述するu, vによる回転成分の生じないコーシー・リーマンの関係式を全ての点において満たす曲面を再構成できる.(6)式右辺第一項を矩形内で一様な密度を持つ矩形吹き出し, 前報から新たに追加した右辺第二項を線分上で一様な密度の線状吹き出しによりそれぞれ離散化すると, 以下のようになる.
 
 
 φの導出解とその勾配u, vとの関係は以下のようになる.
 
 
 この(9), (10)式の左辺に計測したu, vをそれぞれ与えることで, m, qを決定することにする.これら二つの式は, 計測した勾配値と再構成したφの勾配値が一致するための条件式ということになる.(9), (10)式において未知数である吹き出し強さm, qに対して, 計測値として既知である量はuとvをあわせてm, qの数の約二倍あることから, 過剰定義の最小二乗問題として解くことにより, mおよびqを決定する.これにより, 勾配ベクトルの過誤成分が排除され, より確からしい曲面を決定できることが期待できる.なお, 計算時においてはFig. 2に示すようにスタガード配置とし, 吹き出しの中心を計測点からxおよびy方向に矩形の一辺の長さを1としてそれぞれ-0.25ずつずらした.これは, 各吹き出し自身の自己に対する影響を考慮する為である.
 
Fig. 2 Staggered grid for calculation


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