日本財団 図書館


大水深ライザー管のゲインスケジューリング制御によるリエントリー実験について
正員  大坪和久*1  正員 千賀英敬*2
学生員 眞鍋崇寛*1  正員 小寺山亘*3
正員  梶原宏之*4
 
*1 九州大学大学院工学府
*2 九州大学大学院総合理工学府
*3 九州大学応用力学研究所
*4 九州大学大学院工学研究院
原稿受理 平成17年10月6日
 
Experimental Study on Reentry Operation of a Flexible Marine Riser by Gain-Scheduled Control
 
by Kazuhisa Ohtsubo, Member
Hidetaka Senga, Member
Takahiro Manabe, Student
Wataru Koterayama, Member
Hiroyuku Kajiwara, Member
 
Summary
 The reentry operators of the flexible marine riser are required to connect its bottom end to the blowout preventer at the seabed with both its top connected angle and its deformation controlled. Because of the hydrodynamical drag forces and the flexibility of the riser, it is very difficult for them to operate it correctly. In the previous paper, for the problem, we have applied LPV (Linear Parameter Varying) control techniques and shown its effectiveness through numerical simulations. In the paper, we carry out the reentry. experiment in the towing tank at the Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University. We control the upper end of the riser model which is made of poly ethylene and Teflon (PTRE) using parallel mechanism type forced oscillator in order to move the bottom end of the riser to the target point. In the experiment, the riser model motion can be captured by 14 CCD cameras. These motion data are analyzed using image analyzer software "HALCON". Finally, the experimental results can certify the good effectiveness of the LPV techniques for the reentry operation, compared with the LTI (Linear Time Invariant) control.
 
1. 緒言
 地球規模の環境変動、地震発生メカニズムの解明を進めるために、大水深ライザー管を用いた地球深部掘削プロジェクトが進められており、その中心的な役割を持つ地球深部探査船「ちきゅう」がいよいよ就航した。その船に搭載されているライザー管の複雑な非線形運動を制御することは非常に困難であるものの、外乱要因を多く持つ海上での作業は緊急退避などの必要に迫られるため、管を海底掘削プラットフォームから切り離し、回避後は早急に再接続するリエントリー時において、掘削者の作業量低減のための高精度ライザー管先端位置制御は早急に求められている必要不可欠な技術である。
 ライザー管研究は盛んに行われており、近年においては、数値流体力学などの発展もあり、渦励振などの流体力学的視点から管の動特性を考えようとする研究に重点が置かれるようになった1)。しかしながら、実際に運用上必要なライザー管の制御技術に関する研究は、鈴木らの研究2)が行われて以来、ほとんど発表されていない。鈴木らの研究は、数値計算と実験の両観点から数多く稼動上の実問題を検討しているが、制御系設計を行う際に速度変動に伴う流体抗力の影響を無視した設計法となっている点を考慮すると、より良い制御技術が確立されているとは言い難い。一方、制御理論に重点を置いた研究として、M.P.Fardの受動性に基づく非線形制御に関する研究3)などがある。非線形無限次元系の安定性を保証するLyapunov関数の構築法などについて大きな成果が得られているが、まだ、水中の非線形運動を取り扱える実用的なレベルにまでには到達していない。
 前報4)において、大水深ライザー管に働く流体抗力が速度変動により大きく変化することから、ゲインスケジューリング制御の1つである線形パラメータ変動(Linear parameter varying, LPV)制御を提案し、その有効性を数値シミュレーションにより示した。そこで本論文では、九州大学応用力学研究所において行ったリエントリー実験の結果を報告し、LPV制御の有効性を確認することが目的である。
 本論文の構成は以下の通りである。はじめに、前報4)において報告した大水深ライザー管の運動方程式、LPVモデルの導出、及び、LPV制御系設計について再確認する。次に、本論文で使用したライザー管実験装置、リエントリー実験の内容について述べる。そして、その実験データ解析のために行った画像処理について説明する。最後に、比較対象として行った線形時不変(Linear Time Invariant, LTI)制御の問題点、及び、LPV制御の有効性を実験結果から確認した後、結言とする。
 
2. 大水深ライザー管の運動方程式
 はじめに、Fig. 1に本論文で取り扱うライザー管の座標系を定義する。μ、η、θはそれぞれ、ライザー管の伸び、たわみ、浮体部に対するライザー管剛体モードの回転角度、rは浮体部の水平座標を表す。実際のライザー作業は、上下運動の影響が激しく反映される。しかし、その影響を考慮すると運動方程式の導出、及び、制御問題が複雑になるために、本論文では、浮体部の運動などによる上下運動を無視した運動方程式を導出することとした。その結果、本論文で取り扱うライザー管の運動方程式は、次のように記述される。はライザー管の単位長さあたりの質量、mAはその付加質量、lはライザー管の全長、ρ0は流体密度、Cdは抗力係数、Dοは弾性管の外径、gは重力加遠度、Eはヤング率、Iは断面2次モーメント、Atはライザー管の断面積、Teはライザー管に働く張力、そして、uは浮体部に働く水平方向の推進力を表している。(ドット)は時間微分、(プライム)はzによる空間微分を意味する。なお本論文では、浮体部に取り付けられたスラスターの推進力のみでライザー管を制御するものとする。
水平方向:
 
回転方向:
 
たわみ方向:
 
伸び方向:
 
境界条件:
 
Fig. 1 Coordinate systems
 
3. 大水深ライザー管のLPVモデルの導出
 ライザー管の運動は、無限振動モードまでの足し合わせとして記述されるために、制御系設計を行う際には高次の振動モードまでを考慮した設計を行うことにより、良い制御性能を実現することが可能になる。しかしながら、最適コントローラ決定の際の計算時間や、高次モードのたわみ量を計測するためのセンシングコストを考慮すると、高次モードまでを考慮して制御することは最善の方法とは言い難い。一方で、リエントリー作業においては、ライザー管の高次振動モードが発生するようなことは考えにくく、仮に発生したとしても、流体抗力により速やかに消滅すると考えられる2)。また、ロバスト制御の視点から高次モードをモデルの不確かさとして捕えることにより、低次の振動モードのみを考慮して制御系設計を行っても、十分な制御性能を保証するコントローラを設計することが可能である。そこで、本論文ではライザー管の1次振動モードのみの数学モデルに基づき、制御系設計を行うものとする。取り扱う運動方程式は(6)式となる。ここで、x1=[r θ W1T、x2=[ ω 1Tであり、ωは剛体モードの回転角速度を意味する。このとき、θ≪1(sinθθ, cosθ1)、ω≪1、W1≪1の微小変位の仮定をすると、(7)式のような状態方程式が導出される。||の変化とともにA行列が線形パラメータ変動することが分かる。本論文では、これをLPVモデルと呼ぶ。
 
(拡大画面:44KB)
 
4. 大水深ライザー管のLPV制御系設計
 本論文では、Fig. 2に示すような制御システム構造の下で制御系設計を行うこととする。この一般化プラントは次の(8)式のように表される。ここで、Wdは微分重み関数であり、zは評価信号、ωは環境からの外乱入力を意味する。
 
 
 (8)式に対して、極配置制約付きLPV出力フィードバックコントローラを設計する。その際に安定化はもちろんのこと、外乱抑制を有するようにωからzへのHノルムがγ以下であることを制御仕様として課し、そのγが出来るだけ小さくなるようなコントローラを設計する。そのような制御仕様はLMI(線形行列不等式)として実現されるので、||=0のときと||=1.5のときの端点での数学モデルに対してLMIを作成し、すべてを同時にγを最小化する最適化問題として解くことにより、2つの端点コントローラを求め、それらのコントローラをスケジューリングさせることにより、LPVコントローラを設計する。
 
Fig. 2 Control system structure


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION