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2.1 大水深ライザー管のLPVモデルの導出
 エントリー/リエントリー作業においては、鈴木らが指摘しているように2)、ライザー管の高次振動モードが制御により発生するようなことは考えにくく、仮に発生したとしても、流体抗力により速やかに消滅するものと考えられる。よって、低次の振動モードのみを考慮して制御系設計を行っても、十分な制御性能を保証するコントローラを設計することが可能である。そこで、本論文ではライザー管の1次振動モードのみの数学モデルに基づき、制御系設計を行うものとする。本論文で取り扱う運動方程式を行列表現すると(7)式となる。ここで、
であり、ωは剛体モードの回転角速度を意味する。この時、θ≪1(sinθθ, cosθ1)、ω≪1、W1≪1の微小変位の仮定をすると、(8)式のような状態方程式が導出される。||の変化とともにA行列が線形パラメータ変動することが分かる。
 
(拡大画面:28KB)
 
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 このLPVモデルに対しての流体抗力の影響を見るため、||=0と||=1.5の場合について、ボード線図、極配置を調査した。ただし、||=1.5は幾つかのシミュレーションの結果から採用している。Fig. 3、4にその結果を示す。ボード線図(実線:||=0、破線:||=1.5)からは、||=0の時に|r/u|のゲインが低振動数領域で大きく、5Hz近傍で共振と反共振のピークが存在することが分かる。一方で、極配置(×印:||=0、○印:||=1.5)からは、||=1.5の時には、極が虚軸側と安定側(左実軸上)に分かれているのに対して、||=0の時には、すべての極が虚軸上に存在することが分かる。したがって、制御系設計の指針としては、||=0の時の共振ピークを低減化し、物理パラメータの不確かさなどの影響により、極が不安定側に容易に移行することのないように、虚軸上に張り付いた極を出来るだけ安定側に極配置することが必要である。
 
Fig. 3  Bode plots of open-loop flexible marine riser system (solid line: || = 0, dash line: || = 1.5)
 
Fig. 4  Pole placement of open-loop flexible marine riser system (×: || = 0, ○: || = 1.5)
 
3. 大水深ライザー管のLPV制御系設計
Fig. 5 Control system structure
 
 本論文では、Fig. 5に示すような制御システム構造の下で制御系設計を行うこととする。この一般化プラントは次の(9)式のように表される。
 
 
である。ここで、Wdは微分重み関数であり、zは評価信号、wは環境からの外乱入力、Wdは微分重みを意味する。(9)式に対して次のような制御仕様を満足する、極配置制約付きLPV出力フィードバックコントローラを設計する。
 
・閉ループ系は内部安定である。
・wからzまでのHノルムがγ以下である。
 
 すべての制御仕様はLMI(線形行列不等式)として実現されるので、||=0の時と||=1.5の時の端点での数学モデルに対してLMIを作成し、すべてを同時にγを最小化する最適化問題として解くことにより、2つの端点コントローラを求め、それらのコントローラをスケジューリングさせることにより、LPVコントローラを設計する4)
 前節と同様にして、||=0と||=1.5の場合について、閉ループ系のボード線図、極配置を調べる。Fig. 6、7にそれを示す。ボード線図(実線:||=0、破線:||=1.5)からは、開ループ系で見られた5Hz近傍の共振ピークが低減化されており、極配置(×印:||=0、○印:||=1.5)からは、虚軸上にあった極が安定側にシフトしている様子が分かる。しかしながら、原点近傍の極はほとんど動かすことが出来ずに、虚軸近傍に極配置されてしまっている。これは構造物の制振問題で直面する回避できない現象である。
 
Fig. 6  Bode plots of closed-loop flexible marine riser system (solid line: || = 0, dash line: || = 1.5)
 
Fig. 7  Pole placement of closed-loop flexible marine riser system (×:|| = 0, ○: || = 1.5)


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