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謝辞
 本書の刊行に対し,日本財団より多額の補助金を下附されたことを記し,ここに深く感謝の意を表します。
 
日本船舶海洋工学会役員
会長   内藤 林
副会長 (東部支部長) 角 洋一
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副会長 (西部支部長) 福島昭二
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理事 (財務) 岩崎泰典
理事 (編集) 荒井宏範
理事 (学術) 児玉良明
理事 (学術) 安東 潤
理事 (研究) 平山次清
理事 (研究) 藤久保昌彦
理事 (企画) 北野公夫
理事 (企画) 大和裕幸
理事 (国際) 加藤直三
理事 (広報) 池田良穂
監事   竹川正夫
監事   吉田公一
監事   鍋島秀憲
 
論文審査委員会
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小澤宏臣  貴島勝郎  木下 健
経塚雄策  角 洋一  内藤 林
中山省児  波江貞弘  福地信義
宮崎建雄  宮田隆司  宮田秀明
矢尾哲也  大和裕幸  吉川孝男
 
速度変動に伴う流体抗力の影響を考慮した大水深ライザー管のゲインスケジューリング制御
正員 大坪和久*  正員 五百木陵行*
正員 梶原宏之**
 
*九州大学大学院工学府
**九州大学大学院工学研究院
原稿受理 平成17年6月13日
 
Gain-Scheduled Control of a Flexible Marine Riser under Hydrodynamical Damping Force Varying with the Upper End Velocity
 
by Kazuhisa Ohtsubo, Member
Takayuki Ioki, Member
Hiroyuki Kajiwara, Member
 
Summary
 In the entry/reentry operation of the flexible marine riser, the operators are required to connect its lower end to the blowout preventer at the seabed quickly with both its top connected angle and its deformation controlled. Because of the hydrodynamical force and the flexibility of the riser, it is very difficult for them to operate it correctly. In the paper, we consider the entry/reentry control problem of the flexible marine riser. Firstly, the governing equation of the flexible marine riser is formulated and transformed to the finite dimensional equation by the mode expansion method. Secondly, for the control problem, we apply LPV (Linear Parameter Varying) technique taking the varying parameter as its upper end velocity which determines the hydrodynamical damping force. Finally, the eflectiveness of the LPV technique is shown by numerical simulations, compared with the results by the LTI (Linear Time Invariant) H control
 
1. 緒言
 地球規模の環境変動、地震発生のメカニズム解明を進めるために、大水深ライザー管を用いた統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)がJAMSTECを中心として進められている。そこで用いられているライザー管の長さは数千メートルにも及び、なおかつ流体力の影響が働くため、その複雑な非線形運動を制御することは非常に困難である。しかしながら、台風などの環境からの外乱要因を多く持つ海上での作業は、緊急退避などの必要に迫られるために、ライザー管を海底掘削プラットフォームから切り離し、回避後は早急に再接続するというエントリー/リエントリー問題に対しての高精度制卸技術が求められている。
 最近のライザー管の大水深域における稼動に向けた研究として、小寺山らのライザー管の非線形運動の数値計算、VIVの発生のメカニズムに焦点をおいた研究1)や、鈴木らのエントリー/リエントリー問題に対するLQ最適制御に関する研究2)などが挙げられる。小寺山らの研究は、最終的にはライザー管の制御問題を解決することを目指してはいるものの、まだ制御に関する研究は発表されておらず、鈴木らの研究については、速度変動に伴う流体抗力の影響を無視した制御系設計を提案している点を考慮すると、より良い制御技術が確立されているとは言い難い。一方、制御理論に重点をおいた研究としては、M.P.Fardの受動性に基づく非線形制御に関する研究3)などがある。非線形系の安定性を保証するLyapunov関数の構築法などについて大きな成果が得られているが、まだ水中の非線形運動を取り扱える高いレベルにまでは到達していない。
 そこで本論文では、ライザー管に働く流体抗力が管上端部の速度変動により大きく変化することに着目し、ゲインスケジューリング制御の1つである線形パラメータ変動(LPV: Linear Parameter Varying)制御を適用する4)。そして、その制御性能評価のため数値シミュレーションを行い、線形時不変(LTI: Linear Time Invariant)H制御と比較して、LPV制御は上端傾斜角は小さく押さえ込まれたまま迅速な制御が可能であることを示すことが目的である。
 本論文の構成は以下の通りである。はじめに、ハミルトンの原理から導出したライザー管の運動方程式について説明する。次に、その運動方程式は無限大の自由度を有しており、非常に取り扱い難いために、モード展開近似を行い有限次元化を行う。その有限次元モデルから、管上端浮体部の速度変動をスケジューリング変数に持つライザー管のLPVモデルを導出する。そのモデルに対しての流体抗力の及ぼす影響を調べた後、LPVコントローラを設計する。最後に、性能検証のために数値シミュレーションを用いてその有効性を確認する。
 
2. 大水深ライザー管の運動方程式
 本論文では小寺山、鈴木らの方法に従い、ハミルトンの原理を用いてライザー管の運動方程式を導出する1)2)。はじめに、Fig. 1に本論文で取り扱うライザー管の座標系を定義する。μ, η, θはそれぞれ、ライザー管の伸び、たわみ、浮体部に対するライザー管剛体モードの回転角度、rは浮体部の水平座標を表す。ここでは、運動方程式の導出の簡単化のために、次のような仮定を導入する。
・断面形状は長さ方向に一様で、面内変形しない
・オイラーベルヌーイ梁として取り扱う
・ライザー管の回転方向の速度との相対速度を考慮した修正モリソン式から流体抗力を与える
・入力としては、ライザー管上端浮体部の水平方向の推進力のみ
 
Fig. 1 Coordinate systems
 
 実際のライザー作業は、上下運動の影響が激しく反映される。しかし、その影響を考慮すると運動方程式の導出、及び、制御問題が複雑になるために、本論文では、浮体部の運動などによる上下運動を無視した運動方程式を導出することとした。その結果、本論文で取り扱うライザー管の運動方程式は次のように記述される。
水平方向:
 
回転方向:
 
たわみ方向:
 
伸び方向:
 
境界条件:
 
 ここで、はライザー管の単位長さあたりの質量、mAはその付加質量、lはライザー管の全長、ρ0は流体密度、Cdは抗力係数、Dοは弾性管の外径、gは重力加速度、Eはヤング率、Iは断面2次モーメント、Atはライザー管の断面積、Teはライザー管に働く張力、そして、uは浮体部に働く水平方向の推進力を表している。(ドット)は時間微分、(プライム)はzによる空間微分を意味する。鈴木らは、ライザー管の水深方向に幾つかのスラスターを配置し、それらを同時に使って制御を行う方法を提案しているが2)、本論文では浮体部に取り付けられたスラスターの推進力のみでライザー管を制御するものとする。またその際、潮流や波浪などの影響は考えない。
 
 
 このライザー管の運動方程式を直接取り扱い、数値計算することは非常に困難であるために、本論文では運動方程式をモード分解近似して有限次元近似を行う。境界条件を満足するように、(5)、(6)式のような直交関数を用いて級数展開を行う。ここで、Nはモードの次数を意味する。本論文では、8次モードまでの数値シミュレーション環境を構築した。このシミュレーション環境の妥当性を確認するための動力学実験を本論文では行っていないが、小寺山らの実験結果と比較しても、十分な挙動推定が達成されている事を確認している。Fig. 2には、流体抗力の影響効果を観察するために、ある定常状態からの自由応答の数値シミュレーション結果((a):ライザー管上端部位置、(b):ライザー管全体傾斜角、(c):1次モードの振動幅、(d):ライザー管最下端部位置)を示す。すべての変数はライザー管の全長lで無次元化して表示している。抗力係数Cdをゼロとして流体抗力の効果を取り除いたもの(破線:without hydrodynamical damp.,Cd=0.0)は、ダンピングの効果を有さないために、流体抗力の効果があるもの(実線:with hydrodynamical damp., Cd=1.17)に比べて、振動が収まることなく全く異なった挙動をすることが分かる。一般的に、抗力係数Cdは、Kc数(Keulegan-Carpenter数)、渦励振の影響により大きく変化することが報告されている。よって、この抗力係数の変化が運動制御に悪影響を及ぼさないように、ロバストなコントローラを設計することが非常に重要である。
 
Fig. 2  Simulation results of flexible marine riser's free motion (solid line: with hydrodynamical damping (Cd = 1.17), dotted line: without hydrodynamical damping (Cd = 0.0))
(a) Top point r
 
(b) Riser's angle θ
 
(c) Amplitude W1
 
(d) Bottom point


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