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理想化構造要素法による船体の縦曲げ逐次崩壊解析
正員 藤久保 昌彦*  学生員 斐 志勇*
 
* 広島大学大学院工学研究科
原稿受理 平成17年5月6日
 
Progressive Collapse Analysis of Ship's Hull Girder in Longitudinal Bending Using Idealized Structural Unit Method
by Masahiko Fujikubo, Member
Zhiyong Pei, Student Member
 
Summary
 An application of the Idealized Structural Unit Method (ISUM) to analyze the progressive collapse behavior of ship's hull girder in longitudinal bending is developed. A new ISUM stiffened plate model that can cope with local panel buckling, overall stiffener buckling and localization of plastic deformation in local plate panel is employed. Stiffeners and panels are modeled individually by beam-column elements and ISUM plate elements with consideration of their interaction effect. A lateral shape function for plate panels based on their collapse mode is assumed. In the present paper, the effects of welding residual stresses are considered both in plate and in stiffeners. The progressive collapse analyses of a 1/3-scale welded steel frigate model and a single-hull VLCC are performed. High computational efficiency and sufficient accuracy of ISUM are demonstrated through a comparison with test results and large-scale nonlinear FEA.
 
1. 緒言
 船体構造の安全性の検討においては,板,防撓材などの各構造部材の座屈・最終強度と共に,船体全体としての崩壊挙動ならびに最終強度を明らかにする必要がある。船体を構成する部材が逐次的に座屈・塑性崩壊しながら全体崩壊に至る挙動を効率的に解析する方法として,理想化構造要素法(Idealized Structural Unit Method, ISUM)が提案されている1)。ISUMは,有限要素法(FEM)と同様のマトリックス法に基づく非線形構造解析法である。ただし,可能な限り大きな構造単位を要素として定義し,その材料および幾何学的非線形挙動を力学的に理想化して要素を定式化することにより,FEMに比べて格段に少ない要素数で,短時間に崩壊挙動を解析することができる。
 船体の代表的な構造要素である矩形板および矩形防撓パネルの座屈・塑性崩壊解析のため,上田らは,矩形平面要素に座屈後の有効幅の概念を取り入れたISUM板および防撓パネル要素を開発した2,3)。その後,正岡および上田は,矩形板のたわみを弾性座屈モードで近似し,さらにたわみの大きさを表すパラメータを節点変位と同様の独立な自由度として取り扱う新しい概念のISUM板要素を提案した4)。本要素の開発により,板要素の幾何学的非線形挙動の理想化は,要素のたわみ形状関数をいかに選択するかという問題に置き換えられることになり,理論の簡略化と体系化が図られた。
 続いて,著者らの一人は,船体の終局的な崩壊は,局部パネルの座屈崩壊を超えた防撓パネルとしての座屈崩壊によって決定することから,パネルと共に防撓材の座屈挙動をより正確に再現できるISUMモデルを開発した5-7)。具体的には,防撓材を薄肉梁理論に基づく梁・柱要素で,また防撓材間のパネルをISUM板要素でそれぞれモデル化し,両者をパネル・防撓材間の相互影響を考慮して結合することにより防撓パネルをモデル化した。また,要素数は増えるものの,パネル部分を少数の板要素に分割することにより,防撓材の座屈後のパネルの塑性変形の局所化を考慮できるようにした。さらに板要素のたわみを崩壊モードに基づく形状関数で表すことにより,板要素による最終強度解析の精度を改善した。この防撓パネルISUMモデルは,これまでに,ボックスガーダー試験体の曲げ崩壊解析8),船体二重底の崩壊解析9),ポンツーン型超大型浮体の波浪中崩壊挙動の解析10)などに適用されている。
 本研究では,防撓パネルISUMモデルを船体の縦曲げ逐次崩壊解析に適用する。また,従来の板要素および防撓材要素を,溶接残留応力の影響を考慮できるよう拡張する。ISUMによれば,3次元船体モデルの解析も原理的に可能であるが,ここでは基本的な場合として,単位フレームスペース長さの船体横断面モデルを取り出し,断面平面保持の仮定の下に,曲げ崩壊挙動を解析する。
 以下では,はじめに防撓パネルISUMモデルについて説明し,次に船体横断面の縦曲げ逐次崩壊解析法を説明する。続いて,1/3スケール・フリゲート艦構造模型,およびシングルハルVLCCについて縦曲げ逐次崩壊解析を実施する。実験結果およびFEMによる詳細解析との比較より,ISUMの適用性を調べる。
 
2. 理想化構造要素モデル
2.1 防撓パネルのモデル化
 Fig. 1に,隣接ガーダー間に3本の防撓材を有する連続防撓パネルのモデル化の例を示す。トランスを挟んで前後方向に1/2フレームスペースずつの領域をモデル化するダブルスパンモデル11)である。スパン中央に当たる両端面(x=-a/2,a/2)には面外変形に対称条件を課す。
 Fig. 1の斜線の領域が,1つのISUM板要素を表す。図のように,防撓材間のパネルを板要素で,また防撓材を梁・柱要素で分割する。梁・柱要素は,ウェブ下端に節点を有するため,板要素との結合は容易である。
 防撓パネルの全たわみは,Fig. 2に示すように,防撓材のたわみwnと防撓材間のパネルの局部たわみwの和で表される。この内,wnは,梁・柱要素の節点変位として与えられる。一方,局部たわみwは,板要素のたわみ形状関数により表される。この形状関数を適切に仮定することにより,Fig. 1あるいはFig. 2に示すように防撓材間を1要素で,また防撓材方向にも少数の要素で板の座屈変形を表現でき,FEMに比べて格段に自由度を減じることができる。板要素の定式化については2.2で改めて述べる。
 梁・柱要素は,各節点に3方向の並進変位並びに回転角と材軸周りの振り率の計7自由度を有する。断面の反りによる軸応力と,横たわみおよびねじれによる非線形軸ひずみ成分が考慮されている。また,パネル・防撓材間の相互影響として,防撓材のねじれ変形に対するパネル部の剛性の抵抗が,分布バネの形で梁・柱要素の剛性に付加される。要素の降伏の判定は両端節点の断面で行う。定式化の詳細は,文献6,7)を参照されたい。
 
Fig. 1 ISUM-plate/beam-column mesh for stiffened plate
 
Fig. 2 Overall stiffener and local panel deflection
 
 最終的な剛性方程式は,板要素,梁・柱要素とも次式の形となる。これらを通常のFEMと同様に足し合わせて構造全体の剛性方程式を得る。
 
 
 ここで[K]は接線剛性マトリックス,{Δd}は節点変位増分,{f}は荷重,{ΔF}は荷重増分,そして{R}は内力の等価節点力である。なお,updated Lagrange法を適用し,パネル・防撓材とも,たわみwnに応じて各荷重増分ステップで座標変換マトリックスを更新する。
 
2.2 ISUM板要素
 ISUM板要素の定式化の要点をFig. 3の矩形板を例に説明する。Fig. 3は,周辺単純支持矩形板をI〜IIIの3つのISUM要素に分割した場合を表している。各要素の変位場は,節点変位u,vおよびwnを双一次関数で内挿した変位場と,次式の形状関数で表される局部たわみwの和で与えられる。
 
 
Fig. 3 Plate panel with three ISUM elements
 
Fig. 4 Simulation of localized collapse
 
 ここで,fl(x,y)およびft(x,y)は,それぞれ縦圧縮および横圧縮による板の崩壊モードに基づくたわみ形状関数を表し,要素I〜IIIに共通の関数で与えられる5-7)。一方,AlおよびAtは,各要素領域におけるたわみ成分wlおよびwtの大きさを表すパラメータであり,要素ごとに独立な自由度として定義される。たわみの連続性は,要素I〜IIIのAlおよびAtに,それぞれ共通の自由度番号を付与することにより確保される。また後述のように,自由度番号をパネル内で一部独立にすることにより,パネルの塑性変形の局所化を表現することが可能である。
 本研究では縦曲げによって板に縦圧縮が作用する場合を考えるので,たわみ成分wlとパラメータAlのみを考える。この時,例えば要素Iの総自由度は次式となる。
 
 
ここで,
 
 たわみ形状関数fl(x,y)は,圧縮方向にn半波の座屈モードに,屋根型の崩壊モードを表すための高次項を足し合わせた次式の関数で近似する5-7)
 
 
 係数fは,高次のたわみ項の大きさを与える係数を表し,板の寸法と平均圧縮ひずみの関数として与えられる。
 既述のように,ft(x,y)は要素I〜IIIに共通の関数であるので,Fig. 4(a)のように,すべての要素でAlが同じ(Alの自由度番号が同じ)であれば,たわみはft(x,y)と同じ規則的な形状となる。これに対し,Fig. 4(b)のように,特定の要素(図では要素I)にのみ別の自由度を与えると,その部分に塑性変形が局所化する現象を表現できる。このような塑性変形の局所化は,板および防撓パネルの最終強度後の荷重〜変位関係に大きく影響することが知られており,考慮が必要である12)
 板要素のひずみ増分{Δε}は,面内節点変位u,vによる線形の面内ひずみ成分{ΔεLuv},式(2)の局部たわみwによる線形の曲げひずみ成分{ΔεLw},同じくたわみwによる非線形の面内ひずみ成分{ΔεNLw},および防撓材の全体座屈に伴って板部分に生じる非線形の面内ひずみ成分{ΔεNLwn}の和として次式のように与えられる。
 
 
 wnによる最後の項は,防撓材の全体座屈を解析する上で不可欠な項である。各要素には7×7個の剛性積分点を設け,各積分点でMisesの降伏条件に基づく合応力表示の降伏関数により降伏を判定する5-7)


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