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4. 考察
 船体構造部材の隅肉溶接部には、溶接継手試験片での負荷様式とは異なる負荷が掛かり、複雑な応力状態になることが想定される。Fig. 8に示すように、船首側や船尾側のホールドフレームでは、ウェブが船側外板に対して傾斜していることから、水圧によりウェブが横倒れする方向の負荷成分が発生することが想定され、また、この横方向の負荷成分によりウェブの隅肉溶接部に曲げモーメントや横方向のせん断荷重が負荷されことになる。ここで、周りの拘束条件や腐食衰耗の進行の状態により、ウェブが外板に対して剛体的変形するような状態や隅肉溶接部近傍の外板の曲げ変形が拘束されるような状態では、隅肉溶接部に横方向のせん断荷重が極端に負荷されることになるが、隅肉溶接部のせん断強度は、最悪の場合、船体中央部の直角継手の約1/2になることが予想されることから、最悪の場合、溶接ビードの破断が考えられる。この隅肉溶接部のせん断強度を増加させるためには、角度の大きい方の溶接ビードののど厚を増加させることや理想的には隅肉溶接部の合計のど厚をウェブ板厚以上とすることが有効であると考えられる。また、トリッピングブラケットを取り付け横倒れを防止することも重要である。尚、Fig. 9に示すように、溶接線方向のせん断強度を考えた場合、ギャップが有る場合も溝状腐食が有る場合と同様、最小のど厚で決まることが分かる。
 
Fig. 8  Ideal Figures of Hold Frames at Center part and Forward or Afterward parts of ship
 
Fig. 9  Model of Equivalence between Gap and Corrosion of Fillet Welded Joint
 
5. 結言
 船体隅肉溶接部の静的強度に関する研究の一環として、隅肉溶接部の静的強度(せん断強度)に及ぼす傾斜角度の影響、部分溶込み溶接の効果、ギャップの影響について検討した。外板(板厚19mm)、ウェブ(板厚13mm)にKA32鋼板を用い手溶接(溶接材料B17)で溶接し、溶接金属の純せん断試験片と継手試験片を製作し、室温でせん断試験を行った。また、FEM解析も行った。その結果、以下のことが明らかになった。
1)直角継手に対して角度-30°から+30°の範囲で傾斜した隅肉溶接継手の溶接線直角方向せん断強度は、ウェブが傾斜した影響を受け、極端な場合、両側溶接された隅肉溶接継手の純せん断強度の約1/2になった。
2)傾斜継手の角度の大きい方の溶接ビードに部分溶込み溶接を行った場合も含め、傾斜継手で溶接線直角方向に負荷された場合、溶接部の合計のど厚がウェブ板厚よりも小さい場合は負荷と反対側の溶接ビードで、また、大きい場合はウェブ鋼板でそれぞれ破断した。
3)傾斜した隅肉溶接部の溶接線直角方向負荷に対して、傾斜角15°程度(端部開口量は3.4mm)までのせん断強度は、ギャップの無い場合と同程度になった。
4)直角継手の隅肉溶接部にギャツプがある場合、最小のど厚での溶接線方向せん断強度はギャップ量に拘わらずギャップの無い場合と同程度であったが、隅肉溶接部の見かけ上ののど厚での強度では、ギャップ量の増加とともに低下した。
 
参考文献
1)松下、中井、山本: 船体用隅肉溶接部の静的強度に及ぼす腐食衰耗の影響, 日本造船学会論文集, 第195号, 2004, pp.291-297
2)松下、中井、山本: 船体用隅肉溶接部の静的強度に及ぼす腐食衰耗の影響, 平成15年度ClassNK研究発表会講演集, pp49-58
3)松下、中井、山本、荒井: 船体構造部材の静的強度に及ぼす腐食の影響(第1報)−実部材での腐食ピット影響調査−, 日本造船学会論文集, 第192号, 2002, pp357-365
4)中井、松下、山本、荒井: バルクキャリア倉内肋骨の腐食実態と強度, 日本海事協会誌, 第262号, 平成15(I), 2003, p.27-34
5)中井、松下、山本、荒井: 船体構造部材の静的強度に及ぼす腐食の影響(第2報)−人工ピット材を用いた強度調査−日本造船学会講演論文集, 2003, pp27-28他
6)例えば、佐藤邦彦、瀬尾健二、曽根成典: 引張を受ける十字すみ肉溶接継手の変形挙動と強度、溶接学会誌、第595号, 1979, pp.29-34他
7)JSQS-1999「日本鋼船工作法精度標準 1999版 船殻関係」日本造船学会工作法研究委員会


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