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5. 結言
 本研究においては,前報7)で構築した停止船を対象とした衝突回避アルゴリズムを改良し,シミュレーション計算により各種パラメータが避航運動に及ぼす影響について検討を行った。停止船の閉塞領域の半径Rb=2L,4L,自船と停止船の閉塞領域間の距離lb=0,2L,4Lの組み合わせについてシミュレーション計算を行った結果,Rb=2Lとlb=0の組み合わせ,すなわち停止船の閉塞領域を小さく設定し,かつ避航開始のタイミングを遅らせた場合について,避航時の初期航路からの逸脱がやや大きくなる傾向が見られたものの,いずれのRbとlbの組み合わせにおいても,停止船の閉塞領域内を航行することなく十分な距離を保ちながら,安全に停止船を航過することが可能であることを確認した。また,前報に示した旧避航アルゴリズムと比較して,停止船を航過した後に初期航路へ速やかに復帰することが可能となっており,この傾向は停止船の閉塞領域が大きい場合に顕著に現れることを示した。
 さらに,本研究において提案を行った新避航アルゴリズムに基づいて停止船の避航を行うシナリオを設定した模型実験を実施した結果,風や潮流等の外乱の影響を受けた場合についても,停止船と衝突を生じることなく避航を行うことが可能であることを確認した。ただし,本実験における供試模型船は上部構造を持たないため,模型船が外乱として受ける風圧力の影響は実船のそれとは大きく異なり,また設定シナリオも避航対象物を停止船舶と想定した避航が容易な状況設定であるため,今後は自船の周囲を航行する複数の船舶を対象として,行合い・横切り等の種々の見合い状況において避航を行う場合にも対応可能となるように,避航アルゴリズムの拡張を行っていくことが必要である。
 
謝辞
 本研究の一部は科学研究費補助金(基盤研究(A),課題番号15206096)に基づいて実施されたことを付記し,関係各位に感謝の意を表します。また,模型実験の実施に際して,大濠公園の池の使用を許可して頂いた福岡県福岡土木事務所ならびに池の使用に当たって便宜を図って頂いた(財)福岡県公園管理センターの関係者の皆様に感謝致します。
 
参考文献
1)Kose, K. and Hirono, K. and Sugano, K. and Sato, I.: A New Collision-Avoid-Supporting-System and Its Application to Coasta-Cargo-Ship 'Shoyo Maru', Proc, of CMAS'98 (1998), pp.169-174
2)Lee, H. J. and Rhee, K. p.: Development of Collision Avoidance System by Using Expert System and Search Algorithm, International Shipbuilding Progress, Vol.48-3 (2001), pp.197-210
3)Zhuo, Y. and Hearn, G. E.: Ship Intelligent Anti-collision Using Slef-learning Neurofuzzy, Proc. of MCMC 2003 (2003), pp.268-273
4)IMO Maritime Safety Committee: Report of the Maritime Safety Committee on Its Seventy-Second Session, MSC 72/23/Add.1 (2000)
5)貴島勝郎, 古川芳孝, 末永浩二: 閉塞領域を考慮した船舶の自動航行に関する研究, 西部造船会々報, 第104号(2002), pp.147-154
6)古川芳孝, 貴島勝郎, 茨木洋, 阿部憲和, 宮原誠宜: 閉塞領域を考慮した船舶の自動航行に関する研究(続報), 西部造船会々報, 第108号(2004), pp.139-146
7)古川芳孝, 貴島勝郎, 茨木洋, 石田伸一郎, 大久保雅彦: 閉塞領域を考慮した船舶の自動航行に関する研究(第3報), 西部造船会々報, 第109号(2005), pp.135-142
8)貴島勝郎, 古川芳孝, 長久耕治: ファジィ推論を利用した自動衝突回避システムについて, 西部造船会々報, 第101号(2000), pp.113-122
9)貴島勝郎, 名切恭昭: 船舶操縦性能推定の実用的計算法に関する研究, 西部造船会々報, 第105号(2003), pp.21-31


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