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4. 模型実験による検証
 前章までに示した避航アルゴリズムに従って停止船との衝突を自動的に回避するシステムの妥当性を検証するために,Fig. 6に示すように,模型船の航行に支障が生じない十分に広い屋外水域(福岡市中央区 大濠公園池)において,模型実験を行った。
 模型船の位置計測や模型船の運動の制御には,前報7)において開発を行った屋外実験システムを用いた。Fig. 7に実験システムの概略図を示す。本実験システムは,2基のRTK-GPS受信機,光フアイバージャイロおよび運動制御用パーソナルコンピュータにより構成される。また,自船として使用した模型船は,シミュレーション計算と同じくTable 1に示したタンカー船型(Esso Osaka)である。避航対象となる停止船についても同船型・同一要目のタンカーを想定したが,避航判断を行う計算プログラム中においてその位置座標のみを考慮するものとし,実際には模型船は使用していない。
 
Fig. 6 Model test at the pond of the Ohori park
 
Fig. 7 Overview of ship control system
 
 模型実験のシナリオとしては,前章に示したシミュレーション計算と同様に,設定船速0.4m/sec(実船スケールで約9kt相当)で直進する模型船の航路上の前方20Lの位置に停止船を想定し,この停止船を対象とする避航運動を設定した。避航開始のタイミングを与えるパラメータである自船と停止船の閉塞領域間の距離lbについては0,2L,4Lの3状態,停止船の閉塞領域の半径Rbについては2Lとした。また,模型実験時の気象条件としては,比較的穏やかな状態(風向:初期状態において船首右舷前方より,平均風速:約0.2m/sec,池の表面流速:ほぼ0m/sec)と風が強い状態(風向および流向:初期状態において船首右舷前方より,平均風速:約2.0m/sec,池の表面流速:約0.04m/sec)の2状態において,実験を行った。強風状態における風速は実船スケールで40kt強に相当するが,供試模型船は上部構造を備えておらず,また模型船上面から突出した計測機器としてはGPS用アンテナおよび操舵機のみであり,実船において前述の風速時に受けると予測される風圧力と比較すると,その影響は相対的に小さくなっている。
 穏やかな気象条件の下で,自船航路上の前方20Lの位置に停止船を対象として避航を行った模型実験の結果をFig. 8〜Fig. 10に示す。(a)図の実線は自船の航跡であり,図中の点線は停止船の閉塞領域を示している。(b)〜(e)の各図はそれぞれ船速U,回頭角速度の無次元値r’,回頭角ψ,舵角δの時系列を示している。Fig. 8(a)は,避航開始のタイミングを与えるパラメータである自船と停止船の閉塞領域間の距離lbを0と設定した場合の航跡であるが,前述したようにlbとは,両船の閉塞領域に接触が生じてから避航動作を開始することを意味するため,停止船の閉塞領域に達する直前に急な航路の変更が行われている。(c)〜(e)図に示した回頭角速度,回頭角,舵角の時系列からも,実験開始より約90秒の時点であらかじめ設定した最大操舵角(δmax=15°)まで操舵を行い,急激な回頭運動を行っていることが分かる。急激な回頭運動は通常の船舶の運動としては望ましいものではないが,衝突回避という観点からは,停止船の閉塞領域内部に侵入することなく避航を完了することが可能となっており,本研究において改良を行った避航アルゴリズムが有効に機能しているものと考えられる。Fig. 9とFig. 10は,それぞれlb =2L,4Lの場合に対する結果であるが,lbの値が大きくなるにつれて,避航のための回頭運動は緩やかになるとともに,停止船と十分な距離を保ったまま安全に航過することが可能となっている。
 Fig. 11〜Fig. 13には,lb,Rbの値をFig. 8〜Fig. 10と同一条件に設定し,外乱として前述した風等を受けながら停止船の避航を行った場合の結果を示している。なお,外乱中の実験においては,外乱による漂流を避けるために大きな操舵力を得ることを目的として,最大操舵角をδmax=35°と設定した。lb とRbの同一の組み合わせに対して,穏やかな気象状態で行ったFig. 8〜Fig. 10に示した結果と比較すると,船首右舷前方より受けた池表面の流れの影響により,対地船速Uは設定船速0.4m/secよりも低下し,また回頭運動の発達も遅くなっていることが分かる。また,初期航路に戻る過程において,やや行き過ぎを生じているケースも見られるが,Fig. 11〜Fig. 13のいずれの場合も自船と停止船との間には十分な距離を保っており,衝突を生じることなく安全に航過することが可能となっている。
 
Fig. 8  Trajectory and time histories of U, r’, ψ and δ (lb = 0, Rb = 2L, Calm weather)
 
Fig. 9  Trajectory and time histories of U, r', ψ and δ (lb = 2L, Rb = 2L, Calm weather)
 
Fig. 10  Trajectory and time histories of U, r', ψ and δ (lb = 4L, Rb = 2L, Calm weather)
 
Fig. 11  Trajectory and time histories of U, r’, ψ and δ (lb = 0, Rb = 2L, Windy weather)
 
Fig. 12 Trajectory and time histories of U, r', ψ and δ (lb = 2L, Rb = 2L, Windy weather)
 
Fig. 13  Trajectory and time histories of U, r', ψ and δ (lb = 4L, Rb = 2L Windy weather)


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