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3. パラメーターRb,lbの変化が避航運動に及ぼす影響
 前章までに示した避航アルゴリズムに従って,停止船を避航する場合の船舶の運動のシミュレーション計算を行い,停止船の閉塞領域の半径Rb,自船と停止船の閉塞領域間の距離lbの値の変化が自船の避航運動に及ぼす影響について検討を行った。
 避航運動のシミュレーション計算には,九州大学において通常使用している数学モデル9)を使用した。計算対象とした模型船はタンカー船型(Esso Osaka)であり,その主要目をTable 1に示す。避航対象とする停止船についても,同船型・同一要目のタンカー船型を想定した。
 
Table 1 Principal dimensions of model ship
Length  L (m) 2.500
Breadth  B (m) 0.408
Draft  d (m) 0.170
Block Coef.  Cb 0.831
Scale Ratio 1/130
 
 シミュレーション計算条件として,停止船の閉塞領域の半径Rbについては,海上交通安全法における航路幅の基準値(700m)程度の範囲内で避航を行うことを想定したRb=2L(計算対象船の2船長は実船相当で650m)と,停止船との距離に十分な余裕を持って避航する場合を想定したRb=4Lの2状態を設定した。自船と停止船の閉塞領域間の距離lbについては,避航開始までに初期航路にできるだけ長く留まることを目的としたlb =0の他,避航開始のタイミングを早めることを目的としたlb=2L,4Lの3状態を設定した。
 シミュレーション計算のシナリオとしては,実船スケールで約9ktに相当する0.4m/secの設定船速で航行する船舶が,自船の航路上前方に位置する停止船を避航するものとした。このとき,避航操船のため使用する最大操舵角δmaxは,通常の運航状態を想定して15°に制限した。また,自船と停止船間の距離の初期値は,前述したRbとlb の条件の全ての組み合わせに対して,避航開始前に十分な距離の直進航行が可能となるように,20Lと設定した。
 まずFig. 3〜Fig. 5に,前述の条件の下で行ったシミュレーション計算結果を示す。自船の初期位置は(0,0),停止船の位置は(20,0)であり,図中に点線で示した円は停止船の閉塞領域を表している。また,実線は本論文において改良を行った避航アルゴリズム(新避航アルゴリズム)に基づいて停止船を避航した場合の航跡,破線は前報7)に示した避航アルゴリズム(旧避航アルゴリズム)に基づいて避航した場合の航跡である。
 
Fig. 3  Influence of the content of the blocking area of anchored ship
(lb=0)
 
 Fig. 3に示したlb=0の場合は,両船の閉塞領域に接触が生じてから避航動作を開始するため,変針開始時の2船の距離はかなり近接しており,前報の結果と同様に急激な変針運動を行っているが,停止船と十分な距離を保って避航を行うことが可能となっている。一方,停止船を航過した後の航跡について見ると,新避航アルゴリズムの方が速やかに初期航路へと復帰しており,この傾向は停止船の閉塞領域が大きいRb=4Lの場合に顕著に現れている。
 
Fig. 4  Influence of the content of the blocking area of anchored ship
(lb = 2L)
 
Fig. 5  Influence of the content of the blocking area of anchored ship
(lb = 4L)
 
 停止船の閉塞領域の半径Rbが同一条件の場合の結果についてFig. 3〜Fig. 5を比較すると,lbの値が大きいほど変針を開始するタイミングが早くなり,停止船との衝突を回避するための変針運動が緩やかになっている。ただし,旧避航アルゴリズムに基づく航跡と比較すると,航路変更の目標点が避航開始時における自船位置に近くなったため,避航開始時における回頭角の変化がやや早くなっている。また,lbの値が大きくなるにつれて,初期航路と平行に航行する範囲が長くなるため,その結果として,停止船の近傍を航行する際の自船と停止船間の距離は,旧避航アルゴリズムの航跡よりも新避航アルゴリズムの航跡の方が大きくなっており,十分な距離を保ちながら,より安全に停止船を航過することが可能となっている。


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