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船舶の衝突自動回避システムに関する研究(第1報)
正員  古川芳孝*  正員  貴島勝郎*
正員  茨木 洋*  学生員 池田 渉**
学生員 松永祐樹**
 
* 九州大学大学院工学研究院海洋システム工学部門
** 九州大学大学院工学府海洋システム工学専攻
原稿受理 平成17年4月28日
 
On the Automatic Collision Avoidance System for Ships (1st Report)
by Yoshitaka Furukawa, Member
Katsuro Kijima, Member
Hiroshi Ibaragi, Member
Wataru Ikeda, Student Member
Yuki Matsunaga, Student Member
 
Summary
 Navigational safety is highly demanded in order to prevent marine accidents. However the reduction of personnel expenses is enforced recently to reduce total transportation cost and it means that the securement of crew who have an excellent skill becomes difficult. So the increase of sea disaster accident originated with the degradation of skill of sailors is concerned in the future and the introduction of an automatic navigation device is the one of the solution of such a problem.
 In this paper, the improved algorithm to avoid colliding with a stopping ship is proposed. The effect of parameters on evasion navigation is examined by numerical simulation. Furthermore, model experiments were carried out using Real-time Kinematic GPS (RTK-GPS) at pond to verify the effectiveness of the algorithm for automatic collision avoidance. It is shown that the collision avoidance system functions well both on numerical simulation and model experiments.
 
1. 緒言
 近年の海運業界の国際競争激化に伴い,国内の船員雇用数は年々減少傾向にあり,また,船舶の乗員数の少人数化が進むにつれて,乗組員の操船時の作業負担が大きくなってきている。さらに,全乗員数に対する経験の浅い乗員の割合も相対的に増加しているため,船舶航行の安全性の確保や乗員の作業負担の軽減を目的とした操船支援システムに関する研究ならびに自動運航システムに関する研究が多く行われている1)2)3)。一方,Kinematic GPSを利用した測位精度の向上や,IMOにおけるAIS(Automatic Identification System)4)の搭載義務化の決定により,船舶の完全自動航行システムの実用化が現実味を帯びてきている。
 著者らは完全自動航行システム開発の第一段階として,二隻の船舶間の衝突回避問題を対象にファジィ推論を用いて海上衝突予防法に基づく判断・行動を行う衝突回避アルゴリズムを構築し,これまでシミュレーション計算および模型実験により,その有効性について検討を行っている5)6)。前報7)においては,Realtime Kinematic GPS(RTK-GPS)を利用することにより,屋外の広い水域において模型船の運動計測ならびに運動制御を可能とする実験システムの開発を行い,停止船として想定した障害物を回避する問題についてシミュレーション計算と模型実験により衝突回避システムの有効性の検証を行った。その結果,停止船と十分な距離を保ちながら安全に航過することが可能であることを確認したが,停止船を航過した後の航跡がややオーバーシュートする傾向が見られた。また,模型実験を実施したプールのサイズの制限により,停止船を航過した後,初期航路へ戻る過程の計測を行うことができなかった。
 そこで本研究においては,停止船として想定した障害物を回避する問題を対象として,前報までに構築を行った避航アルゴリズムの改良を行った。さらに,広範囲における模型船の航行に支障が生じないような十分に広い水域において模型実験を実施し,本研究において開発した衝突回避アルゴリズムの有効性の検証を行った。
 
2. 停止船を対象とした衝突回避
 著者らは,これまでに閉塞領域を衝突の危険性を判定するパラメータとして利用し,他船との衝突を回避する方法について検討を行っている。前報7)においては,それまで避航開始のタイミングを決定するパラメータとして利用していた余裕閉塞領域に代えて,自船と停止船の閉塞領域間の距離lbを利用した。すなわち,Fig. 1に示すように,通常航行時においては,自船と停止船の閉塞領域間の距離lbを絶えず監視するものとし,lbの値があらかじめ設定した値より小さくなった時点で避航操船を開始するものとした。このとき,避航操船が必要であると判断を行った位置において,自船の重心位置Gと停止船の重心位置Gs間の距離をとし,を半径とする円弧と停止船の周囲に設定した円の交点Ptを航路変更の目標点として設定し,避航航路の決定を行った。その結果,前々報6)において示した余裕閉塞領域を避航操船開始の判断パラメータとして避航を行った場合と比較して,初期航路からの逸脱を小さくすることが可能となった。しかしながら,目標として設定した避航航路に対して若干オーバーシュートを生じ,やや大回りしながら停止船を航過する結果となっていた。そこで本研究においては,さらに効率よく停止船の避航を行うことを目的として,避航アルゴリズムの改良を行った。
 本論文においては,停止船近傍における急激な針路の変更により生じる目標航路に対するオーバーシュートを防ぐことを目的として,停止船から十分離れた位置に避航開始時の航路変更の目標点を設定することとした。このとき,避航開始のタイミングを決定するパラメータとしては,前報7)と同様に自船と停止船の閉塞領域間の距離lbを利用した。
 
Fig. 1  Setup of target point for evasive navigation in the previous paper7)
 
Fig. 2 Setup of target point for evasive navigation
 
 自船の閉塞領域の形状については,Fig. 2に示すように,前報と同様に船体中央部を境に前後方向に閉塞領域を二分割してそれぞれの領域を半楕円形でモデル化し,船首閉塞領域の船長方向径Rbf,船尾閉塞領域の船長方向径Rba,両閉塞領域の船幅方向径Sbを次式のように表した。
 
 
 ここで,Lは船長,Bは船幅,T90は90°回頭するまでに要する時間,Uは船速,DTは旋回圏である。停止船の固有閉塞領域の形状についても,前報と同様に円形と仮定し,閉塞領域の半径Rbを次式により与えた。
 
 
 ここで,aは閉塞領域の半径Rbと船長Lの比を与える定数である。
 航路変更の目標点Ptについては,Fig. 2に示すように,自船と停止船の閉塞領域間の距離lbがあらかじめ設定した値以下となったときの自船の重心位置Gと停止船の重心位置Gs間の距離をとし,一点鎖線で示したの2等分線と,自船の進行方向に平行で停止船の閉塞領域の半径RbにΔRの余裕を付加した距離Rb+ΔRを半径とする円と接する直線との交点に設定した。ここで,閉塞領域に対する余裕幅ΔRは,自船が斜航しながら停止船の近傍を航行した場合においても,船体の一部が半径Rbの閉塞領域内に入らないことを目的として導入した定数である。一方,初期航路への復帰については,自船の重心と停止船の重心位置が初期航路に対して真横に並んだ時点で初期航路へと速やかに復帰するものとした。
 なお,自船の周囲に設定する閉塞領域の形状および大きさ等の定義,ならびにパラメータの決定法については,前々報6)と同様であるため,説明は省略した。また,避航航路への変針および初期航路への復帰のための操船については,文献8)に示したファジィ推論を利用した操舵を行った。


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