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3.4 波浪中波形解析
 最後に回流水槽における波浪中試験においても波形解析が可能であることを示す。波浪中の波形解析は大楠17)により開発され、波浪中抵抗増加や諸量の計測に用いられ、多くの報告がされている18,19)。波浪中抵抗増加に関連した波形解析手法については内藤ら20)の解説が詳しいので、それを参考にして詳細は省略する。
 
Fig. 17 Wave profile
(Fn=0.381, 1.5Hz, 1/80)
 
Fig. 18 Wave spectrum
(Fn=0.381, 1.5Hz, 1/80)
 
 縦切り方式の波形計測法は大楠17)によりPoint計測法とMultifold計測法が提案されている。Point計測法は模型船周りに固定した測定点での波高を測定するものであり波高情報の信頼度が高いものの、曳航水槽で実施するには曳航電車に波高計を設置し数十点の測定点に対応する実験を実施する必要があり、実験に非常に長時間を要するようである。しかし、回流水槽では波高計をトラバースすれば、波高の計測と移動を連続的に実施でき、短時間に簡便に実施可能である。本研究ではPoint計測法による波高の計測を行った。計測は模型中心線より0.47船長の位置を流れ方向に模型船船首位置から25mmごとに計109点にて行った。計測時間は1状態につき15分程度である。
 実験はフルード数0.381,0.596について、周波数、波高/波長比を各々1.5,2Hz-1/160、1.5,2Hz-1/80の4状態について実施した。波形計測結果の一例をFig. 17に示す。入射波を差し引いた値で、実線がCOSωt成分、一点鎖線がsinωt成分を示し後方の打ち切り点近傍では漸近波形が示されている。
 波形解折を行い、積分すると抵抗増加が求まる形の波スペクトラムの例をFig. 18に示す。80°(船側前方方向)の波の寄与が大きいことが分かる。
 波形解析による抵抗増加RAWをFig. 14に星印で示す。同一周波数で2点あるのは大なる方が波高/波長比1/80のもので、小なる方は1/160の場合であり、各々曳航試験の結果と良く対応していることがわかる。
 以上のように回流水槽における非定常波形解析は計測距離が短いという問題はあるが、Point計測法による波形計測が非常に簡便に短時間に実施できるという利点がある。また、波形解析による抵抗増加もほぼ妥当な結果が得られたと思われる。更なる改善も種々あると思われるが、回流水槽を用いた波形解祈を含む波浪中試験の可能性は大きいと考えられる。
 
4. 結論
 回流水槽用造波装置を設計、製作し、単一進行波の生成に関して種々の実験を行い、生成された波浪中において高速艇の波浪中試験を行い、以下の結論を得た。
 
1. 新たに設置した造波機を用いることにより、流速5種×周波数4種の20状態についてα1波/α2波の波高比が5%以下となる造波条件を実験的に得、回流水槽において単一進行波を生成させることができた。
 
2. 造波された波の特性はおおむね良好であるが、波高/波長比が大きいと歪率が増大したり、側壁近傍で波高の増大と位相の遅れが生じ、平均水位に大きな定在波が存在する場合があるという問題点を得た。
 
3. 高速艇を用いた実験を行い、回流水槽においても波浪中試験が可能であること、高速においては排水量型と異なる特性があることなどを得た。
 
4. 回流水槽においてはPoint計測法による波形計測が簡便かつ短時間で実施可能であり、非定常波形解析を実施し、低周波数領域にて妥当な結果を得ることが出来た。
 
謝辞
 波浪中試験に関する種々の論文の紹介や貴重な助言を賜った木原一講師、研究実験を共に行った本科学生野瀬浩司君、小型回流水槽にて多くの実験を実施した本科学生久保山彰、栄谷英樹、寺尾悟、村田直久諸君に深く感謝の意を表します。
 
参考文献
1)山本善之: 周期運動を伴う没水物体に就て, 日本造船協会会報, 第77号, pp.29-41(1946)
2)柏木正, 大楠丹: 一様流れがある中での造波装置の検討(覚書き), pp.1-9(1987)
3)T.Wada, K.Suzuki, H.Kihara: Wave Making in a Circulating Water Channel, J. Kansai SNA, vol.238, pp.9-16 (2002)
4)田古里哲夫: 造波機試験結果, 第9回回流水槽懇談会資料#9-2(1968)
5)田古里哲夫, 田中厚成: 水中翼型造波機による回流水槽の波, 第11回回流水槽懇談会資料#11-4(1969)
6)M.Bessho: Dreams towards the Coming New Century in the Research on the Seakeeping Performance of Ships and the Ocean Engineering, Fourth Osaka Colloquium on Seakeeping Performance of Ships, pp.504-516(2000)
7)K.Yabushita, T.Ohtsuka, K.Suznki : Theoretical Analysis for Reducing Steady Wave Observed on Water Surface of Circulating Water Channel, Memoirs of the National Defense Academy, Vol.33, No.2, pp.35-44(1994)
8)関野博, 木原一, 鈴木勝雄: 回流水槽における動揺制波板の造波特性にっいて, 関西造船協会誌, 第236号, pp.71-80(2001)
9)鈴木勝雄: 高速艇の流体力学(その2), 「高速艇と性能」シンポジウム, pp.37-74(1989)
10)別所正利, 鈴木勝雄: 2次元動揺滑走の安定性について, 防衛大学校理工学研究報告, 第25巻, 第1号, pp.25-43(1987)
11)佐藤信一, 鈴木勝雄: 小型回流水槽における造波装置の改造と特性について, 第140回回流水槽懇談会資料#140-1(2004)
12)佐藤信一: 回流水槽用造波機による造波及び応用実験に関する研究, 防衛大学校理工学研究科修士論文(2005)
13)別所正利, 小松正彦, 安生正明: 高速艇の規則波中縦運動の研究, 日本造船学会論文集, 第135号, pp.109-120(1974)、
14)川原梅三郎, 鈴木勝雄, 藪下和樹: トリム固定方式動力計による高速艇の抵抗試験, 関西造船協会誌, 第220号, pp.71-82(1993)
15)木下宰, 藪下和樹, 鈴木勝雄: 回流水槽における波形解訴の試み, 関西造船協会誌, 第226号, pp.7-13(1996)
16)丸尾孟: 波浪中の抵抗増加, 日本造船協会誌, 第383号, pp.305-314(1961)
17)大楠丹: 一定速度で前進し動揺する船の波形解析, 日本造船学会論文集, 第142号, pp.36-44(1977)
18)大楠丹: 波形解析による船体横運動方程式の流体力係数の研究(その1), 第149号, pp.21-28(1981)
19)中村彰一, 内藤林, 西口映: 非定常波形解析に関する二, 三の問題について, 関西造船協会誌, 第194号, pp.103-109(1984)
20)内藤林, 山本修, 高橋雄: 船型と波浪中抵抗増加, 運動性能研究委員会第5回シンポジウム(第2章), pp.45-79(1988)


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