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3.3 波浪中における抵抗増加と姿勢変化
 次に波浪(向波)中の試験を行った抵抗、上下揺、縦揺及び造波板の上下量と船首における波高の計測例をFig. 13に示す。抵抗についてはサージを許していないこと及び滑走艇の特質から正弦状から大きく離れた波形が見られる。別所ら13)は、これらの歪み量について詳しい検討を行っているが、本論では細かい点に立ち入らず、フーリエ級数の1次の成分についてのみ見ることとした。
 
Fig. 13  Wave records for aft crank, heave, pitch and resistance
(0.990m/s, 1.5Hz.1/80)
 
 計測諸量の時間平均値を定常状態と比較し、Fig. 10〜12に記号で示した。Fig. 10では波浪中抵抗増加が確認できる。上下量(Fig. 11)については低速では定常状態と比較し上昇しているが、滑走状態では大きく沈下している。トリム(Fig. 12)は全般的に船首上げとなっており、これらの傾向は別所ら13)の結果と一致している。
 さらに詳しく見るために、波浪中の時間平均値と平水中のものとの差を求めて波長/船長比を横軸にFig. 14に示す。抵抗増加(上図)については通常の無次元化(入射波振幅の2乗で割る)を採用した。上下量(中図)、トリム量(下図)については前と同じ値である。抵抗増加はλ/L=1を中心に大であると見ることができ、従来の結果と傾向は一致している。また、最高速(黒点)及び精度に問題のある極低遠を除くと、入射波の波高/波長比が異なっていてもほぼ同一の値となっていることが判る。これは抵抗増加は平水中の抵抗値に無関係に入射波振幅の2乗に比例するという説16)を裏付けるものであり、排水量型の船の波浪中抵抗の性質と一致している。しかしながら、最高速(同一波高/波長比については実線で結んである)の値については波高/波長比が異なると値も大きく異なり、むしろ振幅に比例しているように見える。そこで抵抗増加などを入射波振幅で無次元化したものをFig. 15に示した。抵抗増加は高速域及び短波長域でデータのまとまりが良くなる。従って、低速、低周波では高速艇の抵抗増加は排水量型と同様に入射波振幅の2乗に比例するが高速、高周波では抵抗増加は入射波振幅に比例するという結果が得られた。
 
Fig. 14  Added resistance, mean rise of C.G. and mean trim VS. wave length
 
Fig. 15  Added resistance, mean rise of C.G. and mean trim VS. wave length
 
 沈下量については低速では入射波振幅、波高にあまり依存していないようであるが(Fig. 14中図)、高速になると抵抗増加と同様に入射波高にほぼ比例して沈下量が増している(Fig. 15中図)。沈下量と抵抗増加は密接に関連していると考えられるから、この沈下量の高速での性質が抵抗増加の高速での性質を規定しているとも考えられる。
 波浪中でのトリムの平水中からの変化量は面白いことに沈下量などとは逆の性質があるようで、低速では入射波高(波傾斜)に比例している(Fig. 15下図)が、高速では入射波高に依存していない(Fig. 14下図)ように見える。
 次に、前後方向波強制力及び上下揺、縦揺れについて、各量のフーリエ級数展開を行った結果の1次の振幅について考える。各量を入射波の波長を横軸にとって整理したものをFig. 16に示す。前後方向波強制力の振幅(上図)は入射波振幅にほぼ比例すると見た方が良いようである。従来、この振幅については排水量型船についてもあまり議論されていないようで高速艇特有の性質か判然としないが新しい知見かもしれない。上下揺、縦揺については従来の結果どおり入射波波高に比例し、波長/船長比が2以上ではほぼ1に達するが、縦揺については1.5を越える値となり高速艇の特性のように考えられる13)。ただし前述のように慣性力、慣性モーメントについては過大に設定されている可能性が強く、今後の検討に待ちたい。
 以上のように、高速艇は高速では抵抗増加量が波高の一乗に比例したり、縦揺れが大きくなるなど排水量型とは異なる特性を持つ場合がある。このように特性が異なるのは高速で滑走状態となることや、浸水面積、水中の形状が大きく変化することによると考えられる。
 
Fig. 16  Amplitude of surge force, heave and pitch VS. wave length


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