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高速三胴船の性能に及ぼすアウトリガー配置の影響
(第1報:抵抗と曳き波)
正員 安川宏紀*  正員 平田法隆*
正員 小瀬邦治*
 
* 広島大学大学院工学研究科
原稿受理 平成17年2月21日
 
Influence of Outrigger Position on the Performaces of a High Speed Trimaran
(1st Report: Resistance and Wave Wash)
by Hironori Yasukawa, Member
Noritaka Hirata. Member
Kuniji Kose Member
 
Summary
 Influence of outrigger position of a high speed trimaran on the resistance and wave wash was investigated by the tank tests changing 9 outrigger positions of the trimaran model. The trimaran is composed of the center hull with L/B = 8.0 and B/T = 3.57 where L, B and T denote the length, breadth and draft respectively, and the outriggers with l/L = 0.375 where l denotes the outrigger length. The objective of this research is to provide a useful design data to quantify the resistance and the wave wash characteristics of the trimaran. The optimum location of the outrigger to minimize the resistance depends on ship speeds. The measured data will allow naval architects to balance hydrodynamic performance with other design considerations in the conceptual designs of high speed trimarans.
 
1. 緒言
 三胴船は,中央の主船体とアウトリガーと呼ばれる左右2つの計3つの船体で構成されている。複数の船体で構成される船は,各船体が起こした波が干渉するため,船体の配置次第で抵抗を減少させ,さらには高速船においてしばしば問題となる曳き波を減少させる可能性を持っている。
 三胴船に関する研究は既に多く行われている。我が国の三胴船の研究については,瀬尾等1),鈴木等2)の研究に見られるように,その優れた特性に早くから着目し,単胴船よりも優れた性能達成の可能性が示唆されていた。しかし,三胴船のコンセプトを具体的に実船に適用するための研究は,欧米ならびに豪州に先を越され,それらの国々では三胴タイプの艦艇や高速フェリーヘの応用展開が進んでいる3)4)。三胴タイプの高速船は,従来の高速単胴船よりも大幅な性能向上が可能なように見える。
 三胴船は,単胴船と比べると,設計パラメータが大幅に増加する。特に,アウトリガーをどこに装着すればよいのかという問題は,設計者の頭を悩ませるものである。三胴船の抵抗性能における最適なアウトリガー配置に関する研究は,先述の瀬尾等1),鈴木等2)をはじめ多くの研究がある。さらには,アウトリガー配置を種々変更したシリーズの水槽試験を行った例がいくつか公表されている。Ackers等は,フリゲート艦を対象に,アウトリガー配置やアウトリガー船型を種々変更した膨大な水槽試験を実施し,フルード数0.3〜0.65の範囲において,最適なアウトリガー配置を明らかにしている5)。Cardo等は,主船体の船型として,ラウンドビルジ型を選び,アウトリガー配置を種々変更した水槽試験を実施し,最適なアウトリガー配置を明らかにしている6)。Doctors and Scraceも同様に,アウトリガー配置を種々変更した水槽試験を実施し,理論計算結果と比較を行っている7)。ただ,理論計算法の検証に重きが置かれていて,最適なアウトリガー配置に関する言及は少ない。Table 1にこれらの研究において用いられた三胴船主船体部のL/B,B/T,Cb(ただしL,B,Tは主船体部の長さ,幅,喫水)ならびにアウトリガーの長さlと主船体の長さLの比の比較を示す。いずれもL/Bが10を超えるような細長い船型が選ばれていることが分かる。しかし,三胴船の最適なアウトリガー配置は,主船体部の船型に依存する可能性があり,得られた最適配置に関する知見を,水槽試験に用いられた船型以外に適用するには注意が必要と思われる。
 
Table 1  Principal dimensions of the ship used in typical trimaran studies
Author Ackers5) Cardo6) Doctors7)
L/B l3.00 11.83 13.89
B/T 2.17 3.38 1.96
Cb 0.411 0.393 0.468
l/L 0.380 0.375 0.403
 
 このような背景の下,独自に高速三胴船模型を設計・製作し,広島大学船型試験水槽において抵抗試験を実施した。試験の実施にあたっては,アウトリガー位置を種々変更し,設計資料として使えるように配慮した。水槽試験に用いた三胴船模型船主船体部のL/Bは8.0,B/Tは3.57であり,今まで調査された船型よりも幅広な船型となっていることを特徴とする。L/B=8.0では単胴船が成り立ち,それを主船体とした三胴船のコンセプトは試みられていないようである。さらに,曳航水槽において縦切り波高の計測を行い,曳き波性能の見地からも,三胴船の特質を検討した。本論文では,水槽試験により,抵抗性能と曳き波性能に及ぼす三胴船のアウトリガー配置の影響について検討した結果を報告する。
 
2. 水槽試験の概要
2.1 供試模型船
 Table2,3に水槽試験で使用した三胴模型船の主船体およびアウトリガーの主要目を示す。要目は,主船体ならびにアウトリガーがそれぞれ単独の船とした場合の値である。従って,三胴船としての船の排水容積は主船体のそれとアウトリガーのそれの2倍の和となる。なお,主船体の方形係数は約0.42である。
 
Fig. 1 Body plan of center hull and outriggers
 
Table 2 Principal dimensions of center hull
length (Lpp/L) 2.00m
max. breadth (B) 0.25m
draft (T) 0.07m
wetted surface area (S) 0.452m2
volume (∇m) 0.0130m3
L/B 8.00
B/T 3.57
 
Table 3 Principal dimensions of outrigger
length (l) 0.75m
max. breadth (Bo) 0.05m
draft (To) 0.031m
wetted surface area (So) 0.0487m2
volume (∇o) 0.00043m3
l/L 0.375
l/Bo 15.00
Bo/To 1.61
 
 Fig. 1に主船体とアウトリガーのbody planを示す。S.S.1毎のフレームラインを図示している。垂線間長ベースのフルード数(Fnpp)で0.65を超えるような高速域を対象としたため,ハードチャイン船型とした。
 
2.2 アウトリガー位置
 アウトリガーの最適位置を探査するため,船長方向にX/Lpp=0.5,0.65,0.8125の3ヶ所,船幅方向にY/B=0.5,1.0,1.5の3ヶ所の計9ヶ所変更した試験を実施した。なお,Xは主船体FPからアウトリガーミッドシップまでの距離,Yは主船体サイドからアウトリガーセンターまでの距離である。X/Lpp=0.5のとき,主船体とアウトリガーのミドシップ位置が一致する。また,X/Lpp=0.8125のとき,主船体とアウトリガー後端位置が一致する。アウトリガーの配置によっては,船の最大幅が変化するが,船長は変化しない。Fig. 2にアウトリガー位置とその配置番号を示す。
 さらに比較のため,三胴船の主船体部だけを取り出して単胴船とみなした場合(単に,単胴船もしくはMono-hullと記載)の試験を実施した。
 
Fig. 2 Outrigger arangements and the location numbers
 
2.3 計測と解析
 船長をベースとしたフルード数Fnppを0.22〜0.677まで変化させ,その時の全抵抗を計測し剰余抵抗係数(Cr)を求めた。Crは全抵抗係数(Ct)から摩擦抵抗係数(Cf)を差し引くことにより求めることができる。ここで,Cfの算出には次式で表されるITTC 1957の式を用いた。
 
 
式中,Reは船長ベースのレイノルズ数である。三胴船は主船体とアウトリガーでレイノルズ数が異なるため摩擦抵抗は次式のように主船体とアウトリガーに分けて求めた。
 
 
 船の姿勢変化(船体沈下とトリム量)は,レーザ変位計を用いて船首部と船尾部の上下位置を計測し,求めた。
 曳き波は,主船体中心線から0.9m横方向位置に設置された波高計を用いて,縦切り波高として計測した。計測はFnpp=0.3,0.4,0.5,0.55,0.6,0.65にて行った。


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