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5. 実行結果
 Case 1に対するプログラムの実行結果をFig. 9に示す。図の縦軸はペナルティ,横軸は計算回数を示しているが,初期配置状態でのペナルティは1024であり,一時的に値が大きくなることもあるが,徐々に収束していき最終的には最適解0を出すことができた。これはFig. 10に示すようにブロック同士が干渉せず,また,ブロックが全て固定定盤上に収まっていることを示す。シミュレーティッド・アニーリングの手法はコンピュータ処理時間も少なく今回のケースで3分未満であった。
 次にCase 2のシミュレーション結果をFig. 11に示す。この場合,最終のペナルティは0でなく,図に示すように1つのブロックがはみ出していることが分かる。これまでの板取りの研究に倣えば,はみ出したブロックを別の固定定盤に載せる,もしくは待機状態にすることになるが,実際の現場では作業員の判断により多少ブロックがはみ出していても作業に支障が無ければそのまま作業が行われている。そのため,本研究ではその点を考慮に入れ全てのブロックが固定定盤内に収まらない場合でも,ペナルティの値が小さな出力結果を表示し,作業員の判断により取捨選択を行い実際の現場に適用することとした。Fig. 11のケースでは,ブロックが大きくはみ出しているために,実際の作業では固定定盤上に置く事ができないと思われるが,計算結果を作業者が見てこの程度のはみ出しなら問題ないと判断すれば,そのまま採用することができる。
 
Fig. 9 Calculation results for sample data (case 1)
 
Fig. 10 Simulation result (case 1)
 
Fig. 11 Simulation result (case2)
 
6. 結言
 本稿は,船殻ブロックの固定定盤上の配置問題を取り上げ,複数の船殻ブロックを固定定盤上に配置する際の組合せ最適化を検討した。最適化のアルゴリズムとしては近年メタヒューリスティック手法として適用され始めたシミュレーティド・アニーリング手法を用いた。サンプルデータによる試計算を行った結果,
(1)ブロックの配置シミュレーションを行う事により,固定定盤を有効に使用することができた。
(2)この種の組合せ最適化問題に対しシミュレーティド・アニーリング手法は短時間に最適解を得ることがわかり,その有効性が確認できた。
 ブロックを製作する定盤は面積に限りがある為,この有効利用は生産性向上に欠かせない。このため,本システムを用いてシミュレーション結果を全体のスケジューリングにフィードバックし,無駄の少ない建造計画を立てることが望まれる。
 
参考文献
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13)Colin R. Reeves編, 横山他訳: モダンヒューリスティックス, 日刊工業新聞社, pp.21-56
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