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3.4 100年供用と運用
 経済性および環境負荷低減の観点から長期間の耐用と供用が要求されることは言うまでもない。一方で構造物、機械、装置類については経年劣化、摩耗、衰耗は避けられない宿命であり、長期の供用にはその対策が必要である。機械、装置類の維持補修については現状における実績を考慮し、5年毎に摩耗部品等の交換、20年毎の装置全体の換装することを基本に計画を立てている。浮体構造については繰り返し応力による疲労亀裂と腐食の問題があるが、このうち疲労に関しては疲労限界以下の応力を考慮した構造設計により対処する。腐食に関しては電気防食と塗装によるものとし、5年に一度母港に帰り、定期検査を行い、さらに上架して付着した海洋生物の除去と防汚塗料を含めた塗装の塗り直しすることを考えている。防食のみを考える場合は上架せずに稼働しながら対処できるが、移動式浮体の推進抵抗を増加させる海洋生物の除去が必要を考え、上架することを考えている。上架の方法としては、長さ100m程度の潜水バージ型ドック複数個を使い、一斉に浮上させる等の方法を考えている。今後の付着物の影響の評価次第では、上架装置の省略も考えられ、5年毎から20年毎の母港帰港への変更により、大幅な経費削減、効率アップも考えられる。
 
4. 非係留超大型浮体式風力発電システムの排他的経済水域における大規模展開4)
 2002年度の日本の総発電量は、9.45 x 1011kWhと言われており、この内、18%を占める石炭火力発電に匹敵する発電量を風力発電で賄い、陸上に供給することを考える。現時点で実現が視野に入っている大型風車として5MW級の風車を取り上げる。1基の年間発電量は、洋上の風況が陸上に比べて良いことを考慮して設備利用率を約40%とすれば、約1.69 x 107kWh/年となる。これに運用効率80%、蓄電ロス10%、浮体施設の位置保持等に要するエネルギー10%を見込むと、1.69 x 107kWh x 0.8 x 0.9 x 0.9=1.1 x 107kWhとなる。したがって、日本の石炭火力による発電量を洋上風力発電で賄うには、9.45 x 1011kWh x 0.18÷(1.1 x 107kWh)=約15,500基の5MW風車が必要となる。仮に超大型浮体上に11基の5MW風車を搭載できるとすると、約1,400ユニットの浮体を洋上に展開することになる。安全を見て10km四方(100km2)に1ユニットを配置するとすると、100km2 x 1400ユニット=140,000km2の面積が必要となる。日本の排他的経済水域(EEZ)は、約4,050,000km2なので、単純な計算ながら、約3.5%の水域を浮体式風力発電システムの海域として占めるだけで良いこととなる。さらに、水素への変換効率を60%、水素を利用した燃料電池の発電効率の60%を見込むと、3.5%/0.6/0.6=9.7%(この場合、1400ユニット/0.6/0.6=3,900ユニットとなる)のEEZを利用することとなる。
 日本のEEZの水深は殆どが数100mを越えている。非係留式であれば、海域を選ばず水深が1000m〜3000m級の深い海域でも設置可能であり大規模な展開ができる。
 この非係留超大型浮体式風力発電システムの見落としてはならない副次的価値は、1,400あるいは3,900のユニットがEEZに配置され、洋上に情報ネットワークが形成される安全保障上の意味である。軍事的のみならず資源管理、環境管理の広い意味で、この多数の大型浮体構造物群の安全保障上の価値は極めて大きいものがある。
 
5. CO2削減効果の試算
 このシステムの最終評価基準は環境負荷を最小化することであり、例えば実質生涯生成エネルギー当たりの生涯生成CO2を最小化することであるが、その前段階としてCO2排出量に着目し、石炭火力発電の代替として利用された場合のCO2削減量を試算する。
 最新鋭の石炭火力発電では効率40%が達成されており、石炭のCO2排出原単位:0.0906kg-CO2/MJを考慮すると6)、供給電力量あたりのCO2排出原単位は0.815kg-CO2/kWhとなる。水素変換効率にもよるが、約1,400〜3,900の浮体をEEZ内に展開することで、この石炭火力による発電量を風力発電でカバーできる。すなわち、石炭火力発電で排出していた
0.815kg-CO2/kWh x 9.45 x 1011kWh x 0.18
=1.386 x 1011 kg-CO2
 約1.4億トン-CO2/年のCO2排出削減量が非係留超大型浮体式風力発電システムで達成出来る事となる。我が国の2002年度CO2排出量は約13億トン/年であり、約10%のCO2排出削減の可能性があることとなる。
 
6. 結言
 地球温暖化問題の根本的な解決に向けて、すなわち循環型エネルギー系の実現のために我々が求めるべき基幹エネルギーとしての自然エネルギー利用の基本コンセプトとして、EEZに展開する外洋利用の非係留大型浮体式風力発電システムを提案し、位置保持性能および構造強度についての現在までの研究検討結果から判明した結論を以下に示す。
(1)循環型エネルギー系は自然エネルギーの基幹エネルギーとしての利用によってのみ成立する。
(2)経済性に加えて環境負荷を最小にしたエネルギーをめざすべきである。
(3)水素社会では外洋はエネルギーの宝庫である。
(4)帆走メガフロートは適度な風を求めて移動し、暴風を回避できる。
(5)3900ユニットで日本の総発電量の18%を賄え、CO2排出を約10%削減できる可能性がある。
(6)洋上に情報ネットワークが形成されることで、副次的に軍事的のみならず資源管理、環境管理に有益である。
 今後、さらなる水槽実験、構造解析、位置保持シミュレーションに基づく検討を重ねるとともに、環境負荷として実質生涯生成エネルギー当たりの生涯生成CO2を算定し、このシステムの成立性の詳細が確認され、再生可能エネルギーによる基幹エネルギーの代替の可能性が検証されることが望まれる。
 
参考文献
1)植弘崇嗣: 洋上風力発電を利用した水素製造技術開発, 洋上風力発電フォーラム, 海上技術安全研究所, 2004
2)K. Takagi, K. Yammoto, M. Kondo, T. Funaki and Z. Kawasaki: A Concept of Very Large Mobile Energy Plant, Proc. of Techno-Ocean 2002, Kobe, Japan, 2002
3)橋本功二, 熊谷直和, 泉屋宏一: グローバル二酸化炭素リサイクル, 洋上風力発電フォーラム, 海上技術安全研究所, 2004
4)井上憲一他: 非係留超大型浮体による外洋利用大規模風力発電システムの検討, 第18回海洋工学シンポジウム, 日本造船学会, 2005
5)寺尾裕: 波漂流力を受けない海洋構造物について, 第13回運動性能部会, 2004
6)事業者からの温室効果ガス排出量算定方法ガイドライン, 環境省, 2004


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