日本財団 図書館


9. レムチャバン港(Laem Chabang Port)の概要
 レムチャバン港(LCP)はタイ港湾管理局の管理下にある大規模な商業港で、タイランド湾(The Gulf of Thailand)の東部沿岸にあり、首都バンコクから約110km南方、パタヤから約15km北方に位置したところにある。面積は約2572エーカーである。LCPは東南アジアの中でも新しい近代ビジネス港で、タイの主要港としてさらなる発展が期待されている。
 
図:レムチャバン港の位置
 
(1)組織の役割
イ 任務
(イ)港湾がタイの国際競争力を維持・発展させるための主な基盤となるように、管理、開発する。
(ロ)輸送の効率化を図るためロジスティクスチェーンを作り、輸送と貨物移動のシステムを開発することによって、港湾活動およびビジネスを促進させる。
(ハ)運営と管理において、政府の方針に柔軟に対応する私企業を誘致する。
ロ 港開発の目的
 LCPの開発の主たる目的は、基本的基盤をタイの国家経済開発に提供し、その上で、効率的で安全な設備と顧客に対するサービスを提供することである。従たる目的は輸出産業を刺激し、雇用の機会を増やすことである。
ハ 組織体制
 レムチャバン港の組織は以下のとおりである。
 
 
(2)港湾の管理
イ 港のサービス提供
 LCPは貨物処理、倉庫保管、鉄道での貨物配布及びタイ各地に至っているハイウェイネットワークシステムを含む総合的なサービスを提供している。港のサービスは水先案内、タグの提供・清水供給、電力供給、通信、下水処理、ゴミの収集と処分を含む。上記のサービスに加えて、船の修理とメンテナンスサービスの提供は、民間管理の下、港湾北部にある容積約140,000DWTのドライドックヤードで利用できる。
ロ ターミナルサービスオペレーター
 現在、レムチャバン港はタイの経済発展に伴い、12ターミナルを24時間機能させ、様々な種類のサービスを船舶に提供している。Aターミナルにおいては自動車や穀物など、Bターミナルにおいてはコンテナ貨物の受け入れを行っている(下図参照)。なお、巨大船の入港隻数が増加している今日の状況に応じて、第一次開発のBターミナル埠頭においては、PANAMAXと呼ばれている対象船舶が入港可能となっている。
「PANAMAX」は、パナマ運河通行可能最大船舶を示している。つまり、パナマ運河の幅は、110フィート(約33.5m)しかなく、船幅最大値が106フィート(約32.3m)におさえられており、この船幅を取った船型を「PANAMAX」と呼んでいる。この船舶は、一般的に満載喫水は12m前後で載貨重量は、約60,000〜70,000トンとなっている。
 
図:レムチャバン港の鳥瞰図
 
(3)開発計画
イ 第1次開発(Phase I Development)は既に完成している。第1次開発は発展続ける世界経済と各国の将来の動向に対応するために行われてきた。
ロ 第2次開発(Phase II Development)は、レムチャバン港を東南アジア地域における海運中心地点として発展させるために現在も進められている。経済の発展に備えて、ターミナルC3が2004年の8月に開港された。残りのターミナルC0, C1, C2, D1, D2とD3は開発工事が順調に進んでいる。2010年に第2次開発全体が完成すればレムチャバン港は年間3.5mi11ion TEUsのコンテナが取り扱い可能となる。
ハ 第3次開発(Phase III Development)は2005年までに整備計画を行い、2008年に工事が開始される予定である。
「TEU」とは、"Twenty feet Equivalent Unit"の略語で、20フィート型コンテナ換算での積載可能個数を意味している。例えば6,000TEUとは20フィート型コンテナが6000個積載できることを意味する。
(4)他の機関との連携
 レムチャバン港は支援事業の提供のほかに、港湾事業の作業基準のレベルアップを図るため、世界各国関係機関と協力し、港湾開発計画を実施してきた。国際港事業協会の会員として事業に参加することにより、国際的なレベルにおける港湾能力を持つこととなった。またその他にも、諸外国の港と連携協力を深めている。例えば、日本の北九州港との姉妹港提携やベルギー友好協定など、情報と技術を交換し共有することを目指している。
 
10. 考察
 考察では以下の項目について検討する。
・海上保安大学校とタイ海軍士官学校の教育・訓練の比較
・タイのPSCについて
・タイの海上における法の執行に関する権限関係
(1)まず始めに日本の海上保安大学校とタイ海軍士官学校の教育・訓練の比較についてであるが、以下にその特徴を挙げる。
イ 教育・訓練の期間
 海上保安大学校の教育・訓練期間は専攻科を含めて、4年6ヶ月間であるが。一方タイ海軍十官学校の教育・訓練は8年間(Advance Education in Naval Professionを含む)に渡り、海上保安大学校での教育・訓練期間のほぼ倍になる。
ロ 船におけるセクションと関係する専攻科目の選択時期および種類
 海上保安大学校の群別科目の選択は2学年の後期に実施され、航海科(第1群)、機関科(第II群)と情報通信科(第III群)の3つのコースに分かれる。一方、タイ海軍士官学校の群分けは2学年の前期に実施され、航海科と機関科のみで情報通信科はない。
ハ 人員
 海上保安大学校の学生は、毎年45名受け入れていることに対して、タイ海軍士官学校の士官候補生は毎年100名ほどである。100名の中にタイ海上警察士官候補生は約4〜5名である。
ニ 法律科目の習得について
 海上保安大学校の学生は、卒業後海上保安官に任命される。海上における法執行を行うものとして、憲法をはじめ、刑法、刑事訴訟法、行政法、民事法、国際法、海上犯罪捜査論などを1学年から専攻科の期間を通じ習得していく。しかし、タイ海軍士官学校での法律の講義は1学年の時のみであり、さらに憲法、刑法、民事法といった一般的な法律に限られている。これはタイ海上警察及びタイ海軍が、海上における法執行活動を行っているものの、どちらも権限が犯人の逮捕にとどまっていることが一つの要因であるのではないかと考える。また、逮捕した犯人はタイ警察に引き渡さなければならず、犯人の取調べ及び送致はタイ警察が行っている。
(2)次にタイにおけるPSCについてであるが、まず以下に、タイと日本のPSCの近年の状況を表で示した。外国船舶監督官の人数、検査回数からみるとタイでは活動の規模が小さいことが分かる。現地でのインタビューにより、タイのPSCが抱える問題として2つのことが聴取できた。一つ目は、PSCの規則及び手続きが非常に複雑なこと。二つ目は、PSCの実行にあたり予算額が少ないということである。
 
タイにおけるPSCの状況
1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
入港船舶隻数
(外国船舶)
3287
4000
4000
3448
3420
3046
3450
検査回数
24
81
227
76
11
126
152
外国船舶監督官の人数
5
7
7
6
6
12
12
 
日本におけるPSCの状況
1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
入港船舶隻数
(外国船舶)
10984
10984
11143
10917
10735
10775
6862
検査回数
4081
3579
4248
4498
4311
4865
4896
外国船舶監督官の人数
52
58
64
78
92
103
124
東京MOUのサイト;「Annual Report2001〜2004」より<http://www.tokyo-mou.org
 
(3)最後にタイの海上における法の執行に関する権限関係を表にすると以下のようになる。
タイ海上警察 海上において執行可能な法令のすべて
タイ海軍 海上において執行可能な法令のすべて
海事局 海事関係法令(海上衝突予防法、船舶法、船員法など)
漁業局 漁業関係法令
関税局 関税関係法令
 
 タイにおいては、海上警察、海軍、海事局、漁業局、関税局の5つの機関が海上の法の執行活動を行っており、表のように海上警察と海軍の権限に明確な区別がないことがあげられた。(漁業関係法令と関税関係法令は、実際に漁業局と関税局に訪問していないため、当該局がどのような法令を執行しているのかは具体的には不明。)
 タイは国連海洋法条約に加盟していない。国連海洋法条約では、国際法上の海賊とは公海上における船舶に対する暴力行為等を指し、領海内における船舶に対する武装強盗と区別されている。タイ海上警察官へのインタビュー時、領海内における船舶に対する武装強盗と国際法上の海賊は双方をPiracy(海賊)と呼んでおり、Armed robbery against ships(船舶に対する武装強盗)という表現を用いて区別してはいなかった。このことから、領海内における船舶に対する武装強盗と国際法上の海賊を同一視しているのかもしれない。今回の調査ではこの問題についてこれ以上の言及はなかった。
 次に上記5つの機関の地域的分担は、下表のとおりである。
タイ海上警察 領海以内(12マイル以内)及びメコン川
タイ海軍 200マイル以内(経済資源に関することのみ)
海事局 24マイル以内(内水も含む)
漁業局 24マイル以内
関税局 24マイル以内
 
 このような点を踏まえ、タイの海上における法の執行に関する権限関係の特徴について述べると、海軍以外の組織は、船艇の航行能力や保有隻数などの面から、法の執行活動を適切に行うことに対し、実質的に海軍に頼らざるをえない面があることが挙げられる。日本においては、自衛隊に犯人の逮捕・取調べといった司法警察に属する権限は与えられておらず、治安出動や海上警備行動の際の自衛隊の権限を除き、自衛隊と警察機関の機能は明確に区別されている。タイにおいては、海軍は犯人の逮捕を行うことができ、警察機関と軍隊の機能は明確に区別されていない。
 また、タイでは各機関は逮捕のみを行い、取調べは一元的にタイ警察が行っていることも特徴としてあげられる。日本の海上保安庁は、取調べも行い、直接検察に送致している点での差異が見受けられる。
 そして、タイでは漁業関係法令などの各個別法令において、『責任ある機関が担当する』こととしており、複数の機関が法の執行を行える体制となっている。
 行政警察や司法警察といった考え方は見受けられなかった。
 
11. 終わりに
 これまでの報告に加え、タイでは上述のように各機関によって明確な担当機関が定められていないことから、事案対応の遅れや責任に関する事柄などが問題として挙げられる。タイ海事局においての質疑応答の際には、現在担当している5つの機関の法的整理を行い、海上における法の執行活動を果たすコーストガードを将来的に設立したい考えがあるということを確認することができた。なお各機関における質疑応答の各事項については、添付資料として記載している。
 終わりにあたり、このような有意義な調査・研究の機会を与えてくださった日本財団、海上保安協会、海上保安庁、海上保安大学校の関係者の方々に心より感謝申し上げる。
 また、本調査研究に際し、Mr.Damrongkiat Kiatopas(海上保安大学校タイ国留学生)に多大な協力を得た。
 
※添付資料


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION