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IV タイの海上保安機関の現状、動向、展望について
本科4学年第I群 岡田 将企
本科4学年第I群 奥川 恭平
本科4学年第I群 小野寺 寛晃
本科4学年第I群 米沢 夏希
 
指導教官 海上警察学講座 村上 暦造 教授
中野 勝哉 講師
 
1. 調査研究目的及び必要性
 近年、全世界における海賊及び武装強盗行為等による日本関係船舶の被害件数は、社団法人日本船主協会(http://www.jsanet.or.jp/pirate/)の調査によると減少しているものの、その他の国を含めた被害件数は増加傾向にある。その半数以上がアジア海域、特にマラッカ・シンガポール海峡を中心とする東南アジア海域で発生し、事件も凶悪化してきている。日本は資源のほとんどを海外からの輸入に頼らざるを得ず、物資輸送のルートであるマラッカ・シンガポール海峡におけるシーレーンの安全を図ることは日本関係船舶の航行の安全につながるとも考えられる。諸国の海上保安機関が充実してくることは国際航海船舶の安全な航行にとっても重要なことである。海上保安庁では東南アジア諸国海上保安機関の能力向上の一環として、合同訓練や人材派遣などを行っている。またこのことは、国際的な連携協力の強化にもつながり、東南アジア諸国と良好な関係を築きあげることにもなるといえる。
 先の「韋駄天」の海賊事件で、日本人乗組員をタイ海上警察が保護した例でも分かる通り、東南アジア海域、マラッカ・シンガポール海峡の治安維持対策の一つとして、タイとの協力体制を築くことも欠くことはできない重要な課題である。我が国の動きとしては「アジア海賊対策チャレンジ2000」を発端にして海上保安大学校へのタイからの長期留学生の迎え入れ、更には昨年の巡視船を派遣しての共同訓練等、タイの海上保安機関と日本の海上保安庁との連携は、より緊密なものとなってきている。
 そこで今日、我々はタイの海上保安に関する機関の現状及び法制度等を調査研究し、日本のそれと比較することを通じてタイ海上警察、海事局等が治安に関する法執行について、どのような考え方をもっているのかを調査することとした。
 調査期間は、平成17年7月30日〜8月7日の8日間。調査機関はタイ海上警察(Royal Thai Marine Police Division)、海軍及び海軍士官学校(Navy、Naval Academy)、海事局(Marine Department)、商船大学校(Merchant Marine Training Center)、港湾局(Port Authority)、タイにおける主要港であるバンコク港(Bangkok Port)、レムチャバン港(Laem Chabang Port)とした。各機関においては、組織体制や職務、関係機関との協力体制などを中心に調査を実施した。
 
2. タイ海上警察(Royal Thai Marine Police Division)の概要
 タイ海上警察は、タイ警察の内部組織として1952年5月15日に設置された。タイ海上警察は、タイ警察中央捜査局(Central Investigation Bureau)の一部門である。タイ警察は、1998年10月17日内務省から独立し、日本でいう国家公安委員会のような組織にあたる警察行政委員会によって管理されている。タイにおいては、自治体警察は存在せず、国家警察であるタイ警察が直接警察活動を行っている。中央捜査局には、海上警察(Marine Police Division)のほか、鉄道警察(Railway Police Division)、森林警察(Forestry Police Division)、ツーリスト警察(Tourist Police Division)がある。
 タイ海上警察本部は、サムットプラカーン県タムボン市のチャオプラヤ川沿いにある。Administration Sub-Division、1st〜3rd Sub-Divisionは、本部内にある内部組織で、4th〜11th Operation Sub-Divisionは、タイ全土を8つの担任区域に分け、それを管轄する部署で、日本の海上保安庁でいう管区本部にあたるような組織である。
 以下に調査内容について記載する。
(1)組織の役割
イ. 法執行活動(Law enforcement activities)
ロ. 海上の安全及び治安の確保(Maintaining peace security at sea)
ハ. 海洋環境及び権益の保護(Protecting the marine environment and interestedness)
ニ. 王族及び要人の警護(Royalty and V.I.P. security)
ホ. 戦時における軍事的活動(Military preparedness)
へ. 犯罪の予防及び鎮圧(Prevention and suppression of crimes)
ト. 犯人の捜査及び逮捕(Detection / arrest of criminals)
チ. 海難救助(Search & Rescue)
リ. 海洋環境の予防及び保護(Prevention & preservation of maritime environment)
ヌ. 石油、ガス装置の安全及び警備(Safety and security of the petroleum and gas rig)
(2)組織体制
イ 組織体制
 タイ海上警察の組織体制は図1のとおりである。
 タイ海上警察は、平成17年7月1日に組織改革を行った。組織改革前の組織体制は図2のとおりである。
 この組織改革ではInformation Technologyという部門が新たに設置され、Sub-Divisionが整理され数も増加した。Information Technologyでは、海上警察内にある全ての情報をコンピューターにデータベース化している。
 
図1:組織図
 
図2: 組織図(組織改革前)
 
ロ 担任区域(図3参照)
 タイ海上警察は、海上保安庁とは違い、海上のみでなく、メコン川にも担任区域がある。メコン川は、麻薬の密輸が頻繁に行われており、重要な地域である。この地域では、タイ海上警察は、タイ警察と協力して麻薬の取締り活動を行っている。
 
図3: 担任区域
 
ハ 組織の勢力(Force and Personnel)
(イ)職員数
士官:222人
准士官:1,566人
(ロ)巡視船艇
巡視船艇:222隻
巡視船(Patrol Vessels):6隻
180Feet型巡視船:3隻
110Feet型巡視船:3隻
巡視艇(Patrol Crafts):66隻
80-90Feet型巡視艇:8隻
60-70Feet型巡視艇:30隻
50Feet型巡視艇:28隻
沿岸巡視艇(Coastal Patrol Crafts):61隻
40Feet型巡視艇:24隻
30Feet型巡視艇:37隻
河川巡視艇(River Patro Crafts):89隻
20-30Feet型巡視艇:39隻
15Feet型巡視艇:50隻
 6隻ある巡視船は、タイ湾北部、タイ湾南部、アンダマン海にそれぞれ1隻ずつ配備されており、他の3隻のうち2隻は海賊対策や要人警護などの特別な任務に就く。通常この2隻は、本部に待機している。残りの1隻は予備で、普段は使用されない。
 巡視艇は、沿岸にあるすべての海上警察署に配備されており、一つの海上警察署には3〜5隻が配備されている。


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