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平成17年度 国際的海上保安業務能力向上の推進 事業報告書

 事業名 国際的海上保安業務能力向上の推進
 団体名 海上保安協会 注目度注目度5


3. メトロポリタン・ポリス・デパートメント(MPD)
(1)アメリカ合衆国地方団体機構の概要
 アメリカ合衆国の各州は合衆国憲法に反しない限り、州法を定め、独自に政治を行うことができる。下部組織としては、州政府の便宜的な観点から、直接的には住民の意思とは関係なしに州の事務を補完的に遂行させる目的で創設された地方団体の郡(County)がある。
 自治体(Municipality)とは一定の区域に一定数以上の人口の集中があり、そこの住民からの自発的な意思表示があって始めて、州政府から承認され、法人格を付与されることにより発足する地方団体である。よって、全ての土地が特定の自治体に属しているわけではない。自治体は州により市(city)、町(town)、村(village)、ボロー(borough)と呼称が変わり、組織の形態も任務の内容も異なっている。
(2)アメリカ合衆国警察機構の概要
イ 州警察
(イ)分権型州警察
 州警察は警邏部門を有し、高速道路における交通関係の法執行、交通管制、交通事故・事件捜査、その他運転免許試験の実施や知事の警護等も行っているが、犯罪捜査は別の州機関が行っている。
(ロ)集権型州警察
 州警察は警邏と捜査の両方の部門を有し、州警察全域にまたがる事件の捜査を行うほか、地方警察の管轄事件に関し各種の支援を行っている。州警察の捜査部門は独自の捜査を実施する。
ロ 地方警察
 地方警察には自治体警察、郡警察(郡保安官を除く)、先住民区警察などが含まれるが、その中でも自治体警察が主要な警察機関である。代表的な自治体警察の例としてはニューヨーク市警、ロス市警がある。
ハ 郡レベルの警察
 郡レベルでは、郡保安官(County Sheriff)が主たる法執行官である。郡保安官は、主として非自治体地域の治安の維持に当たっているが、その任務は裁判に関する事務、裁判所及び拘置所の管理、法廷秩序の維持にも及んでいる。
 郡保安官事務所と地方警察の最大の違いはこの裁判所及び拘置所の管理を行うかどうかにある。
(3)日本国警察機構の概要
イ 国家公安委員会
 国家公安委員会は内閣総理大臣の所轄の下に設置され主に警察庁の管理を行っている。
ロ 都道府県公安委員会
 都道府県公安委員会は都道府県知事の所轄の下に設置され、主に警視庁及び道府県警察本部の管理を行っている。
ハ 警察庁と警視庁及び道府県警察本部との関係
 警視庁及び道府県警察本部(以下都道府県警)は各都道府県の公安委員会の管理を受けているが、実際に都道府県警を指揮監督しているのは警察庁である。この中央統率型の警察機構こそが日米間の警察制度において最も異なる点である。
(4)アメリカ合衆国の法制度について
 アメリカ合衆国は50の州に分かれており、それぞれの州ごとに合衆国憲法に反しない範囲で州法を定めることができる。したがって、アメリカ合衆国における州とは日本でいう都道府県とは違い、国家に近いといえる。ワシントンDCは合衆国の直轄地であり、どこの州にも属していないため、合衆国憲法と連邦法が適用される。
(5)Metropolitan Police Department(MPD)について
イ 概要
 ワシントンDCで一般的な警察活動を担当しているのはMPD(DC警察)である。DC警察はアメリカ合衆国にある10大自治体警察機関のうちのひとつで、1861年に設立されたコロンビア特別区の主要な法執行機関である。
 アメリカ合衆国中央行政機関が集中し、世界中から要人を迎えるワシントンDCでは、多発するテロや殺人などの凶悪犯罪を防止するため、2004年、パトロール制度の改革を行った。それが、PSA制度である。
ロ PSA制度
 DC警察はワシントンDCを7つの管轄区(District)に分け、それぞれにStation及びSubstationを設置している。これは日本でいう警察署のようなものである。さらに7つの管轄区(District)はそれぞれ4〜8分割されており、このもっとも細分化された地区に20名前後のパトロール担当官を任命し、彼らが自分の担当する地区のパトロールを行っている。この地区をPolice Service Areas(PSA)と呼んでいる。このシステムの導入で、ワシントンDCの警察官にそれぞれ狭い範囲の担当地区をパトロールさせ、地元住民と協力することにより、早い段階で犯罪の温床が発見されることが期待されている。
 
 
(6)日本国憲法第35条と合衆国憲法第4修正の条文上の相違点
イ 日本国憲法
第35条
 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
 
ロ 合衆国憲法
第4修正
 不合理な捜索及び逮捕・押収に対してその身体、住居、書類及び所有物が保障されるという人民の権利は侵されてはならない。また令状は、宣誓又は確約によって裏付けられた、相当な理由に基づいていて、かつ、捜索される場所及び押収される人又は物を具体的に記述していない限り、発せられてはならない。
 
ハ 日本国憲法第35条と合衆国憲法第4修正の条文上の相違点
 基本的に日本国憲法第35条は合衆国憲法第4修正を母法として作成されているため、条文上では両者に大きな違いはない。ただし、日本国憲法第35条では押収は物のみに限定し、逮捕については別に同第33条で規定しているが、合衆国憲法第4修正は「押収」という文言の中に「身体の押収=逮捕」という概念から、逮捕も含んでいる。
(7)日本国憲法第35条と合衆国憲法第4修正の実務上の相違点
 米国は判例法主義の国であり、「テリー対オハイオ」事件(1968年判決)で合衆国最高裁判所は職務質問・所持品検査の法的根拠を合衆国憲法第4修正に求めている。それに対し、日本では、職務質問・所持品検査は警察官の具体的職務として警察官職務執行法第2条に明文規定されている。
 したがって、実務上の相違点として日米間における職務質問・所持品検査を調査・検討することにした。
イ 根拠条文
(イ)日本は警察官職務執行法第2条
(ロ)前述のとおりアメリカ合衆国は州によって法令が異なる。したがって、職務質問・所持品検査について全米を統一する規定として、判例では合衆国憲法第4修正が適用されている。
ロ 職務質問・所持品検査
(イ)日本における職務質問・所持品検査
 異常な挙動などから合理的に判断して、犯罪に関係があると認められる者に対し、警察官が行政警察権に基づいて質問のための停止、任意同行、所持品検査を求めることを認めている。所持品検査は明文化されていないが、職務質問に付随する行為として第1項に含まれている。
 また、第3項で明文規定しているように、これらの行為は相手方の任意に基づく行為であり、相手の意思や行動の自由を拘束するような強制力を働かせることはできない。
 このように、犯罪に関係しているのではないかという不審事由を持つ者に対して警察官が行うことができるこれらの行為は相手の任意に基づくものではあるが、その行為の性質上、相手の意思・行動を一定の限度で制約することは論理上内包されていると言えるため、任意と強制の境界線はどこにあるかが問題点となる。
(ロ)アメリカ合衆国における職務質問・所持品検査
 前述の「テリー対オハイオ」事件で、合衆国最高裁は職務質問・所持品検査について一般則となる、通称テリー原則を示した。
 この原則は犯罪の「合理的嫌疑」があれば、相手を強制的に停止させ、質問することができ、その際、相手が武器を所持し危害を及ばすおそれがあると合理的に疑うときには武器の捜検を行うことができる、というものである。相手を停止させ質問し、場合によっては武器の捜検を行うという行為(Stop and Frisk)は、逮捕よりも程度の軽い行為であるため、必要となる要件も第4修正にて規定されている「相当理由」より程度の軽い「合理的嫌疑=不審事由」でよいとされている。
ハ 両者の比較
 以上で述べたように、日本では職務質問・所持品検査の限度を任意にあたるか強制にあたるかで判定しているのに対し、アメリカではその行為が合理的だったか否かによって判定している。
 職務質問・所持品検査は逮捕よりも程度の軽い行為であり、不審事由があれば要件として足りるという点は日米ともに同じである。ただし、日本では所持品検査は職務質問に付随する行為として、質問だけでは不審事由が解明できない場合にのみ所持品検査を認めているが、アメリカでは職務質問に付随する行為ではなく、むしろ安全確保のために職務質問に先行して行うことができる。ただし、質問に先行して行う所持品検査はあくまで安全確保のためのものであり、その際に犯罪の証拠物を発見し、逮捕に及ぶことは不合理な逮捕にあたる。
(8)質疑応答(回答が長時間にわたるため、要訳した日本語のみ)
Q1 Please describe the jurisdictions as well as relationships of the FBI, state police, county police, and municipality police.
(FBI、州警察、郡警察、自治体警察の役割分担について教えてください。)
A1 MPDはFBI、DEA(連邦麻薬取締局)、マーシャルサービス等各組織と協力できる体制はとっています。
 郡警察と州警察、自治体警察の役割分担は地方によって異なり、一概に断言することはできませんが、一般的にいうとやはり郡警察は州警察に比べ規模・人数の面でも少なく、自治体警察はpolice departmentを有する都市に設置されています。
 一つの犯罪に対する考え方も組織、地方によって異なっているでしょう。例えば不審な人物がいるとして銃を持っている場合と持っていない場合に、どのようにアプローチするかなどのガイドラインが異なっていたりします。
 自分の管轄する範囲外の犯罪を捜査する場合には、他の専門機関に捜査を依頼することもあれば、他機関に協力を要請し合同で捜査をすることもあります。MPDは基本的にはワシントンDCを管轄していますが、管轄外の範囲であっても捜査権を持ってFBIなど他の機関と協力して捜査することもあります。
 
Q2 How are the check of one's effects (frisk) and search of potential suspects effects practically conducted? What are the restrictions or requirements of the procedures according to the Fourth Amendment to the Constitution?
(フリスク【武器を所持していないかを確認するための捜検】や不審事由がある人物への捜索はどのように行われているか。合衆国憲法第4修正に基づく手続きによる制限や要件はあるのか。)
A2 我々がアプローチする方法としては二つあります。コンタクトと、ストップです。コンタクトというのは例えば「こんにちは、最近どうですか?」のような類のものです。ストップというのは「すみません。〜についてちょっと聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」のようなものです。ストップはその人物に対して漠然と犯罪を犯しているのではないかという不審事由が相当理由に発展するかどうかを確かめるために行います。MPDにおいて定められているガイドラインでは、不審人物に対して停止させ、質問する(職務質問)時間は10分以内にとどめるようにしています。
(日本は特に何分という規定はなく、不審事由が解消された時点で質問を終了しなければならない。)
 フリスク(捜検)は基本的には自分の安全を確保するという目的でのみ許されます。非常に制限されていると言えるでしょう。
 
Q3 We would appreciate detailed descriptions on the difference between the "probable cause" and "reasonable suspicion" understood by the US law enforcement officers, based on practical cases.
(実際の事件をもとにアメリカの法執行官に理解されている「相当理由」と「不審事由」の違いを教えてください。)
A3 この二つは基本的には同じですが、我々は不審事由があれば停止させ、質問することはできますが、いきなり逮捕することはできません。逮捕できるのは相当理由が存在する場合です。二つの違いを説明するのは難しいことですが、基本的なガイドラインが定められています。「テリー対オハイオ」と言う事件で最高裁が示したテリー原則というものです。この原則により不審事由(reasonable suspicion)という言葉が定義され、この原則に基づいたガイドラインに従っています。つまり逮捕するに十分な相当理由はないが、主観的・客観的を含め合理的に考えて不審な場合にはその者を停止させ、質問する事ができるということです。
 
Q4 What kinds of conditions are required for a law enforcement officer to frisk a potential suspect? A Japanese law enforcement officer is allowed to frisk a potential suspect only when reasonable suspicion is remained after asking several questions (stop and questions).
(法執行官が不審事由を認められる者に対し、武器の捜検を行うにはどのような状況が必要か。日本の法執行官は、いくつか質問をしたあとにまだ不審事由の認められる者に対してのみである。)
A4 不審事由のある相手を停止させて質問する時に、相手が銃を持っているなど自分及び周囲に危険を及ぼすおそれがある場合には、質問を行う前に相手の身体を服の上からパットダウンするなどあくまで安全の確保のために所持品検査を行うことができます。
 また、相手が乗車申で銃を所持している危険がある場合には、本人の捜検に加えて車の中ですぐに手が届く(要はすぐ銃を取り出すことができる又は証拠をすぐ隠すことができる)範囲の捜索を行うことができます。具体的には運転席、助手席のダッシュボードや後部座席です。車種にもよりますが、トランクが独立している車についてはすぐに手が届かないという観点により安全確保のための捜索は行うことができません。
 
Q5 Too long "stop" by a law enforcement officer may considered to constitute "seizure" in Japan. What is the borderline between those two according to the understanding of usual law enforcement officers?
(日本では法執行官による長時間の「停止」は「逮捕」になると考えられる。アメリカでは法執行官の間で、どのような理解がされているのか。)
A5 上の質問で答えたようにガイドライン上、質問は10分間を超えてはならないとなっており、停止するよう求められた人は、停止そのものも決して強制ではないことから立ち去ることができます。
 
Q6 When you stop someone in the car, do you usually reveling gun?
(車の中にいる人間に質問しようとして停止させる場合、アメリカでは通常、銃を構えながら停止させるのか。)
A6 基本的には銃を構えることはありません。銃を構えるのは、これから質問しようとする人物が明らかに銃を持っていたり、抵抗したりすることが明らかで、自分や周囲に危険が及ぶおそれが高いときのみです。
 
4. 終わりに
 今回の海外渡航によって、私たちは自らの研究内容を日本の刑事訴訟法のみにとどまらず、アメリカ合衆国憲法にまで広げ、現地で実務に就く方から様々な貴重な知識を得ることができた。このような体験は、将来海上において法執行官となる私たち学生にとって論理的思考を養うためにとても良い機会となった。
 また、研究内容とは別に、滞在期間中アメリカ人の親切さ、気さくさを肌で感じることができた。これもますます国際化の進む現代の行政官にとって必要な体験である。
 このような有意義な調査・研究・体験の機会を与えてくださった日本財団、海上保安協会、渡米にあたりご協力を賜った諸機関の皆様に厚く御礼申しあげます。


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更新日: 2019年10月12日

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