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3. タイ海軍(Royal Thai Navy)の概要
 今回、タイ海軍に関しては直接調査することはできなかった。しかし、事前準備の段階において、タイ海軍もタイ海上警察と同様に、海上における法執行活動に関係する機関であると判明した。そこで今回、訪問した海上保安機関で直接聴取したことや独自に調査した内容を基に以下の概要を作成した。
 タイ海軍の設置根拠はタイ王国憲法第72条によって定められている。
(1)組織の役割
イ 戦時におけるタイ海軍の役割は以下のとおりである。
(イ)海上並びに一部の指定陸上地域の防衛
(ロ)陸上連絡網の維持
(ハ)陸軍を支援して陸海空軍共同作戦を実行
(ニ)指定地域での空防の遂行
(ホ)海上輸送への支援
ロ 平時におけるタイ海軍の役割は以下のとおりである。
(イ)国家利益の防衛(Protection of national interest)
(ロ)海上における法執行活動(Law enforcement at sea)
(ハ)自然災害の救済活動(Disaster relief)
(ニ)捜索救助(Search and rescue)
(ホ)国家発展及び市民活動の援助(National development support and civic actions)
(ヘ)国家資源及び環境保護(National resource and environment protection)
(ト)水路測量及び海洋調査(Hydrographic and Oceanographic survey)
(チ)航行援助の維持航路標識の管理(Maintenance of navigational aids)
(2)組織体制
 海軍の組織は以下の機関により構成されている。
・司令部(Headquarter Group)
・任務部隊(Task Force Group)
・任務支援部(Operation Support Group)
・教育・訓練部(Education and Training Group)
(3)海軍の海上における法執行活動について
 海軍が海上における犯罪の取り締まりを行なうことができるのは、200マイル以内である。領海内は主に、海軍の「沿岸護衛隊(Coastal Guard)」が担当し、領海外から200マイルまでは「海軍海域部隊(Navy Fleet)」が担当する。タイは国連海洋法条約に批准しておらず、加えて、タイの国内法においてもEEZについて明確な規定がない。しかし、タイ海上警察官とのインタビューにおいて200マイル内をEEZと表現していたことから、考え方としてはEEZの認識は持っているようである。200マイル内における法執行権限は経済的資源に関することのみである。200マイルにおいて経済的資源以外の犯罪が発生した場合は、政府の判断にゆだねられることになる。現状としては、接続水域の境界付近まで警備している。海軍が行なう法執行権限は、法令違反の是正、犯罪の予防、立入検査、逮捕等である。法令違反を発見した場合、海軍は逮捕のみを行い、逮捕後はタイ警察に引き渡す。一般に取り調べはタイ警察が行なうが、海賊事件の場合は、海軍は海賊と対応するために必要な対策を執る権限を法律により与えられており、海軍には容疑者を引き渡す前に事件の捜査を開始する権限を与えられている。
 追跡権の問題に関して、日本においては、海上保安庁の停船命令に対して、命令を無視して逃走したり、巡視船に対して妨害を加えてくることがあるが、タイにおいては海上警察及び海軍の影響力は非常に大きいため、ほとんどの船舶が海上警察及び海軍の停船命令に従う。しかし、停船命令に従わずに逃走した場合は、追跡を行なう。この際、逃走を阻止するために、海上警察及び海軍がとる方法としては、警告→威嚇射撃(空砲)→船体射撃(人を狙うことはない)の段階で行なわれる。これは海上保安庁と同様である。法令違反船舶が他国領海に近づいた場合には、当該海上警察機関に連絡を取り、協力要請を行うこととなっている。このような事例に際して近隣諸国との協力体制を明文化したものはないが、マレーシア海軍と合同パトロール等を実施している。これらのパトロール等は海賊活動が活発になると予想される時期には頻繁に行なわれているようである。
 
4.海軍士官学校(Royal Thai Naval Academy)の概要
 ラマ5世がタイ海軍士官学校の前身であるThe Royal yacht Maha-Jakreeを1898年に設立した。その後、1903年11月20日、場所をチョンブリ城跡地に移すこととなった。海軍士官学校は基礎教育課程、専門的な軍事訓練を教授し、リーダーシップ、誠実さ及び忠誠心を練成する機関である。
 海軍士官学校は海軍の基盤として、すべての海軍士官を育てる機関である。海軍士官学校の目的は、知識、能力、独創的考え方、リーダーシップを持たせ、義務を堂々と果たせる良き士官としての育成のために、教育・訓練を教授することである。
(1)海軍士官育成のながれ
・総合士官学校(The Military Preparatory School)
 3年間に渡り、高校教育及び基礎軍事訓練を受ける。タイ海軍により入学試験が行なわれる。当学校を卒業すると、自動的に海軍士官学校へ進むことになる。
・海軍士官学校(Royal Thai Naval Academy)
 海軍士官としての基礎教育課程、専門的な軍事訓練を教授し、リーダーシップ、誠実さ及び忠誠心を練成する機関である。なお、海軍に入る者のほかに海軍士官学校から海上警察に入る者が毎年5名程度いる。
 
 
・専攻科(Advanced Professional Naval Education & Training)
 2006年度より、海軍士官学校を卒業後、さらに専門的知識、技能を修得するための上級コースとして設置される。当機関は以下の3つのコースがある。海上衝突予防法をはじめ、海に関する法律を学ぶ。
Line officer course (learn about navigation and naval operation)
 パイロットを希望者は当コースに進む。
Engineering officer course (learn about electricity, engines and machines)
Marine officer course (learn about marine operation)
(2)海軍士官学校の教育方針
・電気工学、水路工学、船舶工学をはじめとする11分野について専門的知識を習得する。
・初級士官としてふさわしい操船技術及び海軍士官としての基礎を身に付ける。
・リーダーシップ、独創的考え方、問題の分析・解決能力、倫理・道徳、誠実さ、国家・国王への愛国心、忠誠心等を学ぶ。
(3)組織体制
 内部組織としては大学校長をはじめ、司令部、士官候補生連隊、教務課、管理課、統計及び調査部と医務室から構成されている。
(4)カリキュラム
 4年間で165〜167単位を取得する。それらは以下のとおりである。
イ 一般教養及び専門科目
 一般教養(49単位)及び専門科目(84-86単位)
 基礎教育科目としては、数学、科学、物理,法律などがある。2学年の前期から、航海科と機関科2つに分けられるとき、11専門分野から1つの分野を選択しなければならない。なお航海科の専門分野にあっては電気工学に限る。
ロ 乗船実習
 毎年45日間に渡り実施される。すべての学年が一つの船に乗船し、各学年にそれぞれの段階におけるさまざまな訓練が実施され海上における国家防衛業務に関する知識を習得する。実習は国内が主である。海外実習の寄港地はウラジオストック、インド、オーストラリア、日本、中国、韓国である。
ハ リーダーシップ
カッター、総合指揮訓練等
 
タイ海軍士官学校での教育・訓練の流れ
 
 また、4年を通じて、武器訓練、防火・防水訓練、潜水訓練といった訓練が各3週間程度行われる。
(5)その他
 毎年5名程度、海軍士官学校からの卒業生が海上警察の士官として赴任している。これは、毎年海上警察が海軍士官学校に対して何名かの士官の教育を依頼しているのである。海上警察の士官となる候補生は、入学する際に海上警察士官となることを了承している。海上警察士官となる候補生は、卒業までは他の海軍士官候補生と同様の教育・訓練を受ける。


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