日本財団 図書館


はじめに
 本報告書は、競艇の交付金による日本財団の助成を受けて平成15年度から平成17年度まで実施した「先進的海洋・造船塗装の開発研究」事業の成果を取りまとめたものである。
 
 本事業は3カ年計画であり、平成15年度から平成16年度までは、財団法人日本造船研究協会(平成17年解散)が実施し、最終年度の平成17年度は社団法人日本舶用工業会が実施した。
 
 貴重な開発資金をいただいた日本財団へ感謝申し上げるとともに、多忙な中で貴重な時間を割いてご協力いただいた委員並びに関係者の皆様にはひたすら感謝にたえない。この機会を借りて御礼申し上げる次第である。
 
平成18年3月
(社)日本舶用工業会
 
先進的海洋・造船塗装の開発研究会委員名簿
(順不動、敬称略)
委員長
松岡 一祥
(独)海上技術安全研究所 環境・エネルギー研究領域長
幹事
勝又 健一
(独)海上技術安全研究所 環境調和型生産技術研究グループ主任研究員
委員
山根 健次
(独)海上技術安全研究所 大阪支所ぎ装研究グループ長
林 慎也
(独)海上技術安全研究所 環境調和型生産技術研究グループ客員研究員
塩田 悟
ユニバーサル造船(株) 商船・海洋事業本部基本計画部基本計画室経営スタッフ
関口 康宏
ユニバーサル造船(株) 有明事業所造船部塗装室計画チームリーダー
小島 靖
日立化成工業(株) 化成品事業部鹿島開発グループ開発担当部長
葛原 亨
日立化成工業(株) 化成品事業部鹿島開発グループ専任研究員
川口 健一
日立化成工業(株) 化成品事業部鹿島開発グループ専任研究員
立岡 正吉
日本ペイントマリン(株) 研究開発本部技術部プロダクトマネージャー
田中 正隆
日本ペイントマリン(株) 研究開発本部技術部次長
石原 慎一
日本ペイントマリン(株) 研究開発本部研究開発部プロダクトマネージャー
尾野 眞史
中国塗料(株) マリンコーティングスディビジョン船舶用塗料技術センター副所長
三好 秀則
中国塗料(株) マリンコーティングスディビジョン企画室長
龍野 陽一
中国塗料(株) マリンコーティングスディビジョン営業統括部参事
櫻木 和之
旭サナック(株) 東部マーケティング部支店塗装機械課課長
杉本 久
旭サナック(株) 理事技術統括及び品質保証室長
原 益巳
旭サナック(株) 塗装機械事業部事業部長付技術開発部営業技術担当
 
オブザーバー
入谷 貴也
国土交通省 海事局 舶用工業課 技術係
 
1. 緒言
1.1 研究の目的
 本研究は、平成15年4月から3カ年計画で実施された。研究開始当時の状況としては、以下があげられる。
 環境汚染物質と成り得る揮発性有害物質(VOC: Volatile Organic Compound)を含む塗料等については、平成14年4月から、排出移動登録制度(PRTR: Pollutant Release and Transfer Register)で量的管理が義務化されている。この措置は、将来的にはVOCの量的規制、環境税の導入あるいは、使用禁止等に移行していくものと予測された。また、造船所周辺の住民がPRTRの開示を求めることも想定され、造船所には今後、一層の、塗装による周辺への影響についての配慮が必要となるものと考えられた。
 VOCを含まない塗料については建築を中心に研究されているが、海洋環境での十分な耐久性を達成しているものは存在せず、船舶では清水タンクに用いられている程度である。また、エアレススプレーが一般的な現行塗装法では、使用塗料の相当部分が大気中に逸散しているが、塗料の無駄を少なくすることでもVOCの総量の減少を図る必要があった。
 本研究は海事・造船業で使用できる程度の耐久性を持ち、かつ、VOCの無い(VOCを極少とした)塗料の及び同塗装法の開発を行うことにより、将来の規制等に備えると共に、環境に優しい塗装の実現により環境保全に貢献することを目的とした。
 
1.2 最終目標
 環境に優しい海洋・船舶用の塗装方法を開発する。すなわち以下を目標とした。
(1)VOCがゼロに近い新しい塗料の開発を行う。また、現存の海洋・船舶用塗料について、各種用途毎にVOCの最少量を把握し、その1/2以下のVOC量の塗料を開発目標とする。即ち、無溶剤系塗料については、1リットル当たりVOC量50グラム(50g/L)以下、無溶剤化が困難な船底塗料については、1リットル当たりVOC量200グラム(200g/L)以下を目標とした。
(2)現行塗装系のVOC量、耐久性等を把握すると共に、開発塗装系の耐久性能を把握し、開発塗料の性能が劣る場合には、これを改良して現存の海洋・船舶用塗料の性能と同程度以上を目指した。
(3)VOCの無い(VOCを極少とした)開発塗料は塗装作業性が極端に悪くなることが予測されるため、開発塗料用の塗装機器を開発するものとした。
(4)開発塗料と開発塗装機を用いて、実船現場での塗装実証実験を行って、実際的な塗装システム構築の基礎を目指した。
 
1.3 研究実施内容
 本報告書は、3カ年の研究実施内容と結果について取り纏めたものであり、以下の構成となっている。
 第2章、「現行塗料成分及び性能の調査研究」では、
・文献、カタログ等により、世界の海洋・船舶用塗料の、VOC量、性能、使用実績等についての調査
・塗料メーカから発行される材料安全性データシート(MSDS)の分析
・船舶用に使用される代表的な現用塗料及び、本研究で開発した樹脂を使用した開発塗料のTVOC量を測定
・ガスクロマトグラフィー質量分析装置による分析
・現用の防汚塗料及び、開発防汚塗料について溶出試験を行い、原子吸光光度計による主成分の経時変化の調査
・現用の防汚塗料及び、開発した防汚塗料について、実海域暴露試験を行い、防汚性能を調査
・現用の防食塗料及び、開発した防食塗料について、塩水噴霧試験・乾漬交番試験・塩水浸漬試験を行い、付着力試験等による性能評価
の結果を示す。
 
 第3章、「防食塗料に関する研究」では、バラストタンク用防食塗料について、
・樹脂系の選定
・成分組成の最適化
・現用塗料の基礎調査
・VOC量と粘性
・VOC低減化技術
・基礎樹脂系の塗料化
・配合と粘性の検討
・塗膜の耐久性試験
・実船への適用調査
を実施した結果を示す。
 
 第4章、「防汚塗料に関する研究」では、船底防汚塗料について、
・樹脂系の検討
・現用塗料の基礎調査
・VOC低減化技術の探索
・VOC量と粘性の調査
・樹脂系の製作
・塗料化
・乾燥性の調査
・塗膜物性の調査
・防汚性能の試験
を実施した結果を示す。
 
 第5章、「高粘度塗料の塗装手段の研究」では、造船現場での
・下地処理、及び塗装工程
・使用塗料量と塗装効率
・塗装品質
・VOC使用量
の調査、及び、開発塗料用の塗装機を開発するための、
・既存噴霧塗装手段の調査
・液膜散布の調査研究
・噴霧塗装以外の手段の検討
・VOC極少型二液塗料用塗装機の試作
・VOC極少型防汚塗料塗装機の試作
の調査と実行、さらに、塗装実証実験のための
・ブロック塗装実験
・VOC極少型二液塗料用塗装機の改良
・防汚塗料ブロック塗装実験
を行った結果を示す。
 
 第6章、「塗装実証実験の調査」では、造船所で行うための、
・対象船の絞り込み
・対象箇所の選定
・塗布面積の算出
・平板実験塗装
・実船実験塗装
を策定し、及び、開発塗料の開発塗装機による
・実証実験の実施
をした結果を示す。


目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION