日本財団 図書館


<高校生>
 
(1)生活習慣
 生活習慣はほぼプログラムに沿ったものだったので、先の見通しを立たせることが難しい子どもたちにとっては、新規の場面でありましたが比較的過ごしやすかったものと思われる。ただし細かな生活上のスキルになると個別課題とも関わってくるので、子どもたちそれぞれに色々な問題が見受けられた。
 お風呂に入っても着替えない(一度脱いだものをまた着る)、トイレのドアを開けたまま用を足す、歯を磨かない、顔を洗わない、手を洗わない、裸のまま部屋に戻ろうとするなどなど・・・家ならば「まぁいいだろう」で済んでいたかもしれないことが集団生活の場では良くない状態となり、そのような集団生活の経験が少ない彼らにとっては集団生活のスキルの無さ、弱さが明確になったと思う。
 朝6時〜夜10時程度までフルの活動だったので、健康的な生活ではあったが、体力のない子にとっては辛かったように思う。また高校生にとっては、食事量などがほぼ小さい子たちと同じだったことなど、年齢差を考えた上でのプログラム構成は今後の課題であると感じた。
 
(2)自立に向けて
 “集団の中で過ごすこと”と、“集団生活の中で過ごすこと”というのは大きな違いがあるようだった。集団の中で過ごすことは、日々の会の活動があり個別対応のスタッフがついていたこともあり、大きな問題なくむしろ楽しく過ごせたと思う。しかし集団生活の中という生活を集団で営む(家族ではなく仲間、他人と)ということにつまずきが多く、特に個別課題に結びついていくきっかけになったと思う。社会人になれば職場の仲間とともに集団生活を営むこともありえるので、このような機会で問題が明確になり、対処していくことができることは彼らの将来の生活を考える上で非常に大切なことだと感じた。
 
(3)リフレッシュ体験
 リフレッシュは言葉の意味だけをとると、じっくり休んだり、ゆったりした時間を過ごせたりといった、非常に受動的な時間の過ごし方をした上での心身の疲れの回復を指しているようだが、子どものリフレッシュというのは、むしろ積極的で能動的な活動をすることによって得られる刺激的な時間の過ごし方なのではないかと思われる。そういう意味では自然と直に触れ合えた今回の海洋体験は、非常に意義深いものだと感じた。
 集団で生活する、海水浴・磯遊びを満喫する、皆でキャンプファイヤーをする、自分達で考えて出し物を作るなどなど、彼らの障害のことも考えると日常生活ではなかなか得がたい体験であった。これらの体験を通して心身の疲れの回復というより心身の向上という意味でのリフレッシュをしたのではないかと思う。
 
(4)全体を通じて
・海洋体験プログラムの意義
 知識としてではなく、体感として学べるのは素敵なことだったと思う。「磯は海の生き物がたくさんいる岩場だ」という知識は本で学べるが、独特の磯臭さや貝やカニがそこにはいて、カニは貝を捕食しているだとか、海の満ち引きで岩場がどんどんなくなっていくだとか、たった一時間程度の体験で多くのことを学べて新しい発見すらあるという機会に恵まれたのは、現代の子どもにとって貴重な体験だったと感じた。
 島での生活を通して島への愛着も湧いてくると、ゴミ拾いをしながら「このなかには本土から流れ着いたゴミもあるのだろう」と感じたりすることも自然保護の勉強をする以上に、自然保護について考えさせてくれるものではないだろうかと思う。また朝早く起きてゴミを拾っていくと海がきれいになっているという実感につながったり、人に褒められたりすると“一生懸命やったからだな”とか“よかった”というような心象につながるので、ただのゴミ拾いにも自分の中で価値を見いだすことが可能になったようだった。
 やはり日常できない体験をするということはそれだけで楽しい、思い出に残るものだったと思われる。子ども達の日記に“嬉しかった”、“楽しかった”という表記が多いことからもそれが伺い知れる。これはこの合宿が子ども達にとってネガティブなものではなく、ポジティブなイベントとして体験された証明だったといえるのではないだろうか。
 海洋体験プログラムを通して、子どもたちは新しい価値観を得たように思う。集団でプログラムに沿って生活するということ自体は、リラックスであるとか、安らげるとかいった受動的なものではないと思えた。しかし日間賀島という非日常という場がもたらしたものは“刺激”であった。そこには能動的に働きかけてくる自然と人々がいて、そこに自らも能動的に働きかけていかなければならなかった。そのような中で子どもたちが得られたものはある意味“新しい自分の発見”であり、それは日常では決して得ることのできないものだった。子どもたちはまさに心身ともに古い自分が日間賀島にリフレッシュされて、新しい自分を得たのではないかと感じられた。
 
・発達障害という観点から
 もともといくらか生きていく上で生きにくさを持った子どもたちである。会の活動の中では支援も受けてきて、一見だいぶ落ち着いて上手に日常を過ごせているな、と感じても、このような集団生活や宿泊といった『非日常』の場におかれると、まだまだ弱い部分があるなと課題を明確にしてくれた。それが社会性という生きていく上で大切なスキルの部分の弱さであるので、今後の彼らの生活を考えた上では、現時点でその弱さが表面化してその対策を立てられたことは、極めて重要な意義をもっていると思う。
 また繰り返し自分の弱さが露呈されてしまう生活の中であったためか、子供ら自身が自ら内省して「自分はこんなところがあるから気をつけなければならない」と感じた子どももおり、自らを見つめる時間がもてたことも意義深かったように思う。
 旅行に行って思い出に残ったことは?と聞くと「パーキングアリアで食べたラーメンです」と答えるような子たちであるが、今回はキャンプファイヤーの出し物なども印象深かったようで、キッズアドベンチャーや観光協会の方々のことを日記に書いていた。人と人とのつながりを深めていけたのだと思う。
 彼らにとって社会で生活するということは、自分の障害と向き合っていかなければならないことである。集団生活という場面、新奇場面、大きくも厳しい自然の中ではストレスも少なからず感じていたようで、そのような中で自分の弱いところが浮き彫りになってもいた。しかし同時に、日間賀島では人々の優しさと厳しいばかりでなく温かな自然そのものにも抱かれて、その大らかさに受け入れられたり、そこから新しい対処の仕方を学んだりできたと思う。言うなれば日々の社会生活を営んでいくことへの力を得られる場、また自らを鍛える場になったのではないか。そのような意味でも、今回の合宿は高校生の彼らの生活を成り立たせるために、非常に重要な位置を占める行事であったと感じた。
 
<きょうだい>
 
(1)生活習慣
 部屋で次の指示を待っている時など空いている時間があると、テレビを見たり大声で騒ぎ始めることがあった。布団の上に乗ったり枕を投げたりと、一人がやると他の子もそれに加わり、どんどんエスカレートしていくのでスタッフが止めることもあった。スタッフの「隣の部屋で調子悪くて寝ている子がいるから静かにしてね」という言葉かけにも少しも静かにならなかった。空いている時間があると、騒いでしまうことが多かったように感じた。
 寝起きに関しては、ぐずる子もおらず寝る時も苦なく寝付けました。起きる時はゆっくりですが、皆起きて支度を始められた。スタッフが指示をしたり確認したが、歯磨きや顔を洗うことも自ら進んで行うことができた。
 片付けに関しては、荷物の量が多いせいもありほとんど出来ていなかった。出したものは出しっぱなしで、隣の子の荷物が混じってしまっている子もいた。日が経つにつれ、荷物がどんどん外に出てきて物を「なくしたー」と困る子が増えていった。出したものや使ったものをその都度しまう事を指示したがなかなか片付けられず、服も外に出ている状態であったのでかなり部屋は散らかっていた。最終日の荷物整理では、無いものを探すのに苦労した子もいた。片付けが出来る年齢と思われる子も片付けられなかったので、個別にこまめに指示をしていく方がよかったのではないかと思われた。
 食事に関しては、その子なりに工夫して食べている子もいた。ほとんどの子は「いただきます」をするまで待つことができた。子ども同士で食べられないものと欲しいものとの交換を話し合い、交換をして食べていた。食事を通して共通のものについて話すことで子どもたちのやり取りも増えてきたように感じた。食べ方にむらはありましたが、お腹が空くから食べておこうといった様子も見られ、食べられるものはしっかり食べ、全体的に美味しく食べることができていた。最終日までには、大半の子がご飯のお代わりをするなど、調子の良い様子が見られた。ある子は、苦手な豆腐を食べたりして苦手なものにチャレンジする姿も見られた。
 朝の海岸でのゴミ拾いでは、皆思ったよりも集中してゴミを拾っていた。ある子は文句を言いながら渋々拾い、ある子は黙々と作業を行なっていた。小さい子が三人揃うと遊んでしまうので「はい、今は何の時間ですか?」と聞くと、ゴミ拾いを再び始めた。ある子はクラゲの死骸を見つけ「海に返す」と言って波に乗って寄せては返すクラゲの死骸を眺めていた。クラゲになりきって話す時もあり、ゴミ拾いを促してもなかなか始められないこともあった。また拾っているかと思うと遊んでいたりすることがあるので、そのような場面を見つけたらその都度指示していくようにした。海岸に行く道中にもゴミを発見し、積極的に拾うことができた。見るからにゴミと分かるものはすぐに拾えますが、細かいゴミは何がゴミなのか区別がつかない子もおり、スタッフの細かい指示が必要となった。道中で大きなゴミや見たことのないゴミを発見して拾えたことで、ゴミを拾ったという達成感や、次も見つけてやるぞといった意気込みに繋がり、それが島をきれいにすることの動機づけとなっていったと思われた。
 
(2)リフレッシュ体験
 親と離れて自然の中で普段出来ない体験を出来たことは子どもたちにとって貴重な体験になったと思われた。海水浴では水に浮き、力を抜くことを体験したり、カニ釣りでは初めての子が多く、なかなか釣れなかったようだったが、何度もやるうちに釣れるようになってカニを釣る楽しさを味わったようだった。他の子が釣ったのを見てそこから教わって自分でやってみたりと子ども同士の交流も見られたように感じた。同じ場所で貝も採った。貝が苦手な子でも食べてみてすごく美味しかった、楽しかったと感想があったので、自分で採った喜びや、自然のものの美味しさを味わったのではないかと思う。
 レクリエーションでは地元のスタッフのお兄さんにやり方を教えてもらったり、火起しの体験もした。アーチェリーが楽しかったようで、コツがいったのですがその分多く缶を倒した時の喜びが大きいようだった。何度も繰り返し挑戦し、どんどん上手になっていく子が多かった。
 映画では、何度も見た映画だったけど面白かった、感動したなどの感想があり、場所が違うことで新たな感動が生まれたと感じた。静かに集中して見ることが出来た。
 イカダ作りは女の子たちにはかなり大変な作業でしたが、スタッフが協力しながら皆で作った。最初は恐々乗っていたが、慣れてくると楽しめるようになった。作り方が弱い為か、すぐ壊れてしまいイカダ作りの難しさと楽しさを経験した。
 スターウォッチングでは、島なので周囲にあまり明かりがなく星がきれいに見えていたので、子どもたちも空を見ながら地元のお兄さんの星座の説明に聞き入っていた。自分の知っている星座の知識を言ったりしながら楽しむことが出来た。ある子は絵日記に「夏の星アンタレスは、点めつしています。さそりの心ぞうにあたる星です。『さそりいきとるよー』あれぐらいのさそりがそらからふってきたら、大へんです。」と書いていた。子ども達それぞれ感じるものがあったようだった。
 ナイトウォーキングは、肝試しで怖かったようですが、皆がいるので怖くても楽しめたようだった。キャンプファイヤーでは、火を囲んで踊ったりしながら合宿の締めくくりをした。“ポセイドン”がかなり印象的だったようだ。自分達で考えた出し物の「宝探しクイズ」も皆で考え、自分達で計画して行うことができた。協力して何かを行うことも学んだ。初めてのキャンプファイヤーを体験して楽しかったという感想を書いた子もいた。
 
(3)全体を通じて
・きょうだいとしての課題
 気分に波がある子や、星を見ていた時に説明しているお兄さんの言葉に反応して独りで話し出して止まらない子がいた。また皆の遊びに馴染むことなくテレビを見ていたり、会話があまり続かず「プライベートな会話はあまりしたくない」とスタッフに言う子もいた。その子は子どもたちと一緒にいるより、スタッフと一緒にいる方が好きな様子だった。
 皆指示にも従え、時間にも遅れずに動くことが出来た。しかし遊ぶことをなかなか止められなかったり、思いついたことを状況を考えずに言ってしまったりするような衝動コントロールの弱さや、スタッフの上に乗って強引に遊んだりするなど、力のコントロールの弱さがあるのではないかと思われた。このようなことがありながらも、きょうだいとしてのしっかりした部分(例えば、歯磨きや顔を洗うこと、海水浴や学習の支度、スタッフの指示があればきちんと動けるなど)を持っていると思われた。
 合宿中も自分のきょうだいのことを気にして関わる場面がみられた。常にきょうだいとしてしっかりしなければならないことが、きょうだいとしての大変さであると思われた。
 きょうだいを気にしながらも自分も思い切り楽しめることが、日間賀島合宿のきょうだいの課題ではないかと感じた。
 初めの頃の絵日記には人物が一人だったのが、後半になると友達の絵もしっかり描かれるようになった。最終日に食べられないご飯をがんばって食べた、合宿を通して友達になったり、自分の苦手なものに挑戦することができたと思う。普段は、きょうだいということで制約されることも多いと思わる。日間賀島のような自然溢れる場所で一日中色々なことをこなしていく中で、現実を忘れ新しい体験を仲間と出来たことは子ども達にとってすばらしい体験になったものと思う。盛り沢山の日程だった、子ども達も楽しんでいたようなので良い夏の思い出が出来たのではないだろうか。
 今後の課題としては、きょうだい支援の目的をはっきりさせ、自己管理などについてさらに対応していきたいと思う。


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