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2.2 「人」の国境管理
 国境管理(border management)とは、国土安全保障を確保するための国家戦略の一部であり、望ましい国境管理は、(1)必要かつ望ましい人物および貨物の入国の簡素化および迅速化と、(2)危険な人物および貨物の入国の取締り・禁止という2つの問題をバランスよく実施することです。2004年に米国の入国港(POE)−海港、空港、国境入国検査・税関など―で入国審査を受けた旅行者数は4億3300万人で、そのうち約62%が外国籍の旅行者でした。9 大部分の旅行者は「一次検査」(primary inspection)で入国許可になりましたが、ごく小数の旅行者(1%未満)は「二次検査」(secondary inspection)の対象であったということです。
 
2.2.1 Immigration Pre-Inspection (IPI)
 米国に入国を希望する旅行者が外国の空港で搭乗する際、米国の検査官が実施する入国事前検査(IPI)です。米国議会は1996年にこのIPIを承認しました。 10 2005年現在、外国の13空港、グアム、プエルトリコおよびバージン諸島の空港IPIプログラムに実施されています。
 
2.2.2 Immigration Security Initiative (ISI)
 INS(現在CBP)が始めたプログラムですが、現在、CBPは複数の外国の空港でこれを実施しています。国家安全保障上、危険と思われる人物を、外国の空港に駐在するCBP検査官によって、航空機に搭乗する前に阻止するプログラムで、ハイリスク・コンテナを外国の港で船積前に絞り込むCSIプログラムに相当するものです。
 
2.2.3 Advanced Passenger Manifest Information (APMI)
 外国から米国に向けて飛行する航空機は、米国の入国港(POE)に到着する前に旅客名簿(Passenger Manifest)をCBPに提出しなければなりません。実際の旅客検査は米国の空港で行われますが、APMI情報の分析結果にもとづいて、厳しいセキュリティ検査を要する旅客に関する情報が空港の入国検査官に指示されます。旅客名簿は電子的にAdvanced Passenger Information System (APIS) でCBPに伝送されます。US-VISITプログラムのコンポーネントであるInteragency Border Inspection System (IBIS)にAPMIは統合されています。
 
10 Section 123 of the Illegal Immigration Reform and Immigrant Responsibility Act of 1996 (P.L. 104-208).
 
2.2.4 U.S. Visitor and Immigrant Status Indicator Technology (US-VISIT)
 1996年に、INS (当時)がすべての外国人の入出国を追跡する自動入出国データシステムを開発することが承認されました。このシステムは現在、US-VISITプログラムと呼ばれています。11 このシステム開発の目的の一つは、滞在期限が切れた非移住者(nonimmigrant)の追跡をすることです。2004年以降、主要な海港、空港および国境に導入されています。
 
11 CRS Report R.L.32234, U.S. Visitor and Immigrant Status Indicator Technology (US- VISIT) Program, by Lisa M. Seghetti, et al.
 
2.2.5 NEXUS/SENTRI
 NEXUSおよびSENTRI(Secure Electronic Network for Travelers' Rapid Inspection)は、カナダおよびメキシコから国境を越えて米国に入る旅行者および貨物を米国の国境で迅速に入国検査をおこなうため、国境の入国検査所に設置された装置です。NEXUSはカナダとの国境に、SENTRIはメキシコとの国境に設置されており、ローリスクで頻繁に米国に入出国する民間業者に使用が認められます。NEXUS参加者は、Proximity Cardを用いて電子的識別をおこないます。また、SENTRI参加者は、Radio Transponderを使用します。国境の入国検査所で、トラックがNEXUSまたはSENTRIレーンに入ると、トラックおよび登録されたドライバーに関する情報を読み取って、この情報をInteragency Border Inspection System (IBIS)に自動的に伝送し、異常がなければ入国が即時に許可されます。
 
2.3 「貨物」の国境管理
2.3.1 貨物の3つの流れ
 国境・輸送セキュリティ・マネジメントの視点から、貨物の流れを(1)物流チェーン、(2)商流チェーン、(3)情報(書類)の流れに分けて考察します。物流チェーンでは、輸出国の工場を出荷後、コンテナにバンニングされ、コンテナ船に船積みされ、米国へ輸送され、米国のCYに陸揚げされ、さらに内陸のユーザーの倉庫でデバンニングされるまで、どのような場所(施設)を経由するかを分析し、これらの施設がテロ攻撃に対する安全対策の確認が検討の対象になります。港湾施設、コンビナート、製油工場、発電所、鉄道ターミナルなどの安全確保は円滑な経済活動にとって不可欠です。沿岸警備隊は港湾・諸施設のセキュリティ強化・取り締まりを担当します。またC-TPAT認定条件として、米国の輸入者およびその取引先である外国の供給者の工場などが一定のセキュリティ基準を満たしていることが求められます。このような条件を満たす環境の下に国際運送されるコンテナはローリスクと見なされるでしょう。
 
 商流チェーンでは、輸出国の供給者(売主)と輸入国(米国の買主)の間に売買契約の履行を代行する海貨業者、運送人、保険会社、銀行などが介入しますが、これらの関係者の信用度、セキュリティの関心度、法令遵守などは、貨物の円滑・安全・迅速な供給を維持するために重要な判断基準になります。これらの関係者の手を経て手続が行われ、その際に各種の書類が作成され、貨物情報が売主から買主へと流れることは申すまでもありません。
 
 一般に、貿易手続に約40種類の書類が必要になります。12 これらの書類は、輸出入の許認可手続に使用される公用書類と運送・保険・金融関係の商用書類に分類できます。商用書類のうち、例えば船荷証券には、(1)取引当事者情報、(2)運送関係情報、(3)コンテナ・貨物関係情報、(4)運賃関係情報などが記載されています。公用書類の中で、特に税関申告書類には、セキュリティおよび取引慣行に基づいてコンテナ貨物を絞り込むための情報が含まれています。
 
12 日本貿易関係手続簡易化協会「貿易手続における書類収集調査報告書」(1976年3月)によると、通常、貿易取引1件あたり公用書類が約10種類、商用書類が30〜35種類使用されています。また、米国貿易関係手続簡易化協会(NCITD)“Paperwork or Profit? in International Trade”(1971)でも、輸出取引1件あたり平均46種類の書類が必要であると報告されています。
 
2.3.2 24-Hour Advance Vessel Manifest Rule
 これについては、本稿第5章「24時間ルール」で詳しく説明します。
 
2.3.3 Customs-Trade Partnership Against Terrorism (C-TPAT)
 これについては、本稿第7章「テロ行為防止のための税関・産業界提携(C-TAPAT)」で詳しく説明します。
 
2.3.4 Container Security Initiative (CSI)
 これについては、本稿第6章「コンテナ・セキュリティ・イニシアティブ(CSI)」で詳しく説明します。
 
2.3.5 Free and Secure Trade (FAST)
 FASTイニシアティブは、米国・カナダおよび米国・メキシコの共同プログラムで、両国と米国との国境貿易の促進を目的としています。FASTは、事前に承認された輸入者、運送人および登録されたドライバーに国境の迅速な通過を認めるもので、関連法規を遵守した実績にもとづいて「ローリスク」と認められた者が参加・利用できます。これに参加する条件は、輸入者と運送人はともにC-TPAT認定者でなければならず、さらに運送人はFAST Highway Carrierの資格を必要とし、またドライバーはFAST Commercial Driver Cardを所持しなければなりません。また、FAST貨物として国境を通過するためには、取引当事者が共にFAST認定者であること、FAST小口貨物(less-than-truckload FAST shipments)を非FAST小口貨物と混載しないこと、国境ではFASTレーンを通ることが条件になっています。しかし、カナダおよびメキシコとの国境のすべての入国検査所にFASTレーンが設けられていません。また、米国からカナダへの輸出にはFASTが適用されないので、現在改善が検討されています。
 
2.3.6 Operation Safe Commerce (OSC)
 OSCは輸送保安行政庁(TSA)のパイロット・プログラムで、民間企業、海事関連業界および政府が共同で取組んでいますが、米国に入る貨物の安全な手続や実務を分析し、サプライチェーンのセキュリティ強化方策の開発を目的とします。OSCプログラムに参加する企業間の取引による貨物をOSC Vesselで運送することにより、グローバルサプライチェーンの安全確保と迅速かつ簡素化された手続を保証して、セキュリティ強化と貿易手続簡素化の両立を意図しています。わが国も、TSAのOSCプログラムに参加し、二国間協力によるセキュリティ強化と貿易手続簡素化の両立に向けた計画が進められています。 13
 
2.3.7 Smart Containers
 国境を越えて行われる国際的サプライチェーンの安全を確保するため、CBPおよびC-TPAT参加輸入者は2004年、“Smart Containers”のテストを開始しました。まだ、Bomb Sniffers, High-tech Locksといった複雑な道具が次々と開発されており、環境条件も変化するので、犯罪やテロを防止する重要手段としてのSmart Containersに関する意見は様々です。14
 
13 「安全かつ効率的な国際物流の実現のための施策パッケージ」(2005年3月30日)。
14 なお、最近の電子タグについては、本報告書、各論「4. 電子タグの活用状況と課題」を参照されたい。


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