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3. 2002年通商法
3.1 2002年通商法の概要
 2002年通商法(Trade Act of 2002)は、2002年8月6日に制定され(P.L. 107-210)、米国通商促進権限法(US Trade Promotion Authority Act)とも言われます。同法は大統領に外国と通商協定の交渉を行う権限を付与し、議会は通商協定について賛否の票決のみできますが、内容の修正を行うことができません。この権限を“fast track authority”と呼んでいるのは、通商協定の承認を極めてスムーズに実現できると考えられているからです。また、通商協定に関連した環境変化のため失業した労働者の支援拡大、健康保険のための税額控除などを定めています。また、同法は、現行の中南米諸国およびアフリカ諸国との特恵通商協定の延長を定めています。特に、セキュリティ強化に関連して、米国関税庁の権限強化、麻薬や密輸の取り締まり、テロ対抗措置、電子貨物情報の事前報告義務、外国向け郵便物の検閲などを規定しています。
 
3.2 2002年通商法の構成
Division A 通商調整支援(Trade Adjustment Assistance)
Title I―通商調整支援計画
Subtitle A―従業員のための通商調整支援(Sec.111〜Sec.125)
Subtitle B―企業のための通商調整支援(Sec.131)
Subtitle C―農林水産業者のための通商調整支援(Sec. 141〜Sec. 143)
Subtitle D―発効日
Title II―Credit for Health Insurance Costs of Eligible Individuals (Sec.201〜Sec.203)
Title III―Customs Reauthorization (Sec.301 Short Title)
Subtitle A―米国関税庁(US Customs Service)
Chapter 1―Drug Enforcement and Other Noncommercial and Commercial Operations (Sec.311〜Sec.313)
Chapter 2―Child Cyber-smuggling Center of the Customs Service (Sec.321)
Chapter 3―雑則(Sec.331〜Sec.339)
Chapter 4―反テロリズム条項(Antiterrorism Provisions)
Sec. 341 誠実に行動する米国役人の免責
Sec. 342 緊急事態における関税庁の官署、入国港湾、人員の調整
Sec. 343 電子貨物情報の事前報告、その他の税関報告手続の義務
Sec. 343A 安全な輸送システム
Sec. 344 密輸に関わる外国向け郵便物の検閲権限
Sec. 345 ニューヨーク市における税関運営再開に関する予算
Chapter 5―繊維製品積み替えに関する規定(Sec.351〜Sec.353)
Subtitle B―米国通商代表部(Sec. 361 予算)
Subtitle C―米国国際通商委員会(Sec. 371 予算)
Subtitle D―その他の通商に関する規定 (Sec.381〜Sec.383)
Division B Bipartisan Trade Promotion Authority
Title XXI―通商促進権限(Sec.2101〜Sec.2113)
Division C Andean Trade Preference Act
Title XXXI―Andean Trade Preference (Sec.3101〜Sec.3108)
Division D―特恵貿易協定の延期
Title XLI―一般特恵制度の延期(Sec.4101〜Sec.4102)
Division E―雑則
Title L―Miscellaneous Trade Benefits
Subtitle A―羊毛に関する規定(Sec.5101〜Sec.5102)
Subtitle B―その他の規定(Sec.5201〜Sec.5203)
 
3.3 反テロリズム条項
 Sec. 341(誠実に行動する米国役人の免責)は、Revised Statutes15 の2061条に、「米国の役人は、旅客などの検査に際して、誠実に(in good faith)で行動すれば、損害を与えた場合でも、免責される」旨の規定を追加することを定めています。また、本通商法施行後30日以内に、国境にあるすべての税関施設に、「性別、国籍、人種、皮膚の色などに関係なく、すべての旅客を検査する」旨を掲示することを定めています。
 
 Sec. 342(緊急事態における関税庁の官署、入国港湾、人員の調整)は、国家非常事態法(National Emergencies Act)に基づいて国家の非常事態が宣言された場合、あるいは人命及び国益が脅威にさらされる事態が発生した場合、関税庁長官は、税関官署または入国港(POE)の削減、統合または設置場所の変更、また、開庁時間の変更、業務内容の変更、雇用人員の削減、さらに、必要な場合には、税関官署または入国港の臨時閉鎖などを行うことができる旨を規定しています。
 
 Sec. 343 (電子貨物情報の事前報告、その他の税関報告手続の義務)の(a)項は、後述するように、2002年海事保安法第108条(b)項により、一部修正されました。
 ここでは、米国に搬入される貨物または米国から搬出される貨物の情報を電子データ交換システムによって貨物の到着前または出発前に税関に伝送することを義務付けています。通商法施行規則の制定にあたって、輸入者、輸出者、運送人、通関業者、フレイトフォワーダーを含む関連業界から意見を聴取すること、貨物の運送人に種々の要件を課する場合、取引慣行、業務運営、電子情報の収集・伝送に関する技術的キャパシティなどについて、輸送形態間の相違点を考慮することを規定しています。また、通商法施行規則に基づいて収集される情報は、航空、海上及び陸上輸送の安全とセキュリティの確保、および密輸防止の目的にのみ使用するものであり、税関に提出された貨物情報の取扱について、関係者のプライバシーを保護することを規定しています。
 
 Sec. 343条(b)項は、海上輸送貨物のドキュメンテーションに関する規定で、「1930年関税法」(Tariff Act of 1930)Title IVのPartII、第431条の後に「第431A条 海上貨物のドキュメンテーション」を追加する旨の規定です。ここに規定された第431A条は(a)項〜(g)項からなっていますが、そのうちの(d)項(適法に書類が作成されていない貨物の報告)が、2002年海事保安法第108条(a)項によって修正されています。関税法の第431A条は米国の港から船舶運送人によって輸出されるすべての貨物に適用されます。すべての荷送人は、本条の規定に従って貨物に関する書類を作成しなければ、貨物を船舶運送人(およびNVOCC)に引渡すことができません。貨物が海上ターミナルに引渡されてから24時間以内に、遅くても本船出港24時間前までに、荷送人が完全な一組の船積書類を船舶運送人またはエージェントに提出した場合、当該貨物は、適法に書類が作成されたものとみなされます。 ここに言う完全な一組の船積書類は、輸出申告書(Shipper's Export Declaration)が必要な場合、輸出申告書のコピー一部(電子申告の場合はAutomated Export System(AES)にファイルする)、完全な船荷証券(complete bill of lading)および船積指図書(master or equivalent shipping instructions)で、船積指図書には国内取引番号(Internal Transaction Number: ITN)が記載されていなければなりません。輸出申告書が必要でない場合には、輸出申告書不要説明書(Shipper's Export Declaration Exemption Statement)および法令の定めるその他の書類または情報を提供します。
 
 Sec. 343条(c)項は、書類が作成されていない貨物の船積禁止を規定しています。(d)項は、書類が作成されていない貨物が海港のターミナルに48時間以上蔵置されている場合、船舶運送人は当該貨物およびその蔵置場所を税関に報告しなければなりません。(e)項は、上記の(b)項に違反した場合のペナルティの評価を定めています。(f)項は、適法に書類が作成されていない貨物が海港のターミナル・オペレーターに引き渡されてから48時間以上経過するとき、当該貨物は捜査(search)、押収(seizure)および没収(forfeiture)され、また当該貨物の荷送人に対する海港ターミナル・オペレーターおよび船舶運送人の権利を規定しています。
 
15 Revised Statutes: 「リヴァイズド・スタテューツ」または「現行制定法集」は、米国の制定法中の条項に対する修正改廃を統合して、現在効力を有する規定のみを編集した制定法集です。
 
4. 2002年海事保安法
4.1 2002年海事保安法とSOLAS条約
 2002年11月25日、ブッシュ大統領は、2002年海事保安法(The Maritime Transportation Security Act of 2002: MTSA) 16 [以下、海事保安法]に署名しました。一方、2002年12月、国際海事機関(International Maritime Organization: IMO)は「海上における人命の安全に関する国際条約」(the International Convention for the Safety of Life at Sea: SOLAS)の改正版および「国際船舶及び港湾施設セキュリティ・コード」(International Ship and Port Facility (ISPS) Code)を採択しましたが、これらは、海事保安法が米国の船舶と施設のために国内のセキュリティ要件として規定したものと並行しており、2004年7月1日に発効しました。MTSAの海事セキュリティ要件の多くは、IMOが採択した国際セキュリティ要件と一致しますが、開示保安法は国内船舶および施設を含むので、もっと広範囲に及んでいます。
 
16 Maritime Transportation Security Act of 2002 (Public Law 107-295, November 25, 2002).
 
4.2 海事保安法の目的と構成
4.2.1 目的
 2002年米国海事保安法は、テロ対策として、米国の港湾その他の施設のセキュリティ強化を図るため、「1936年商船法」(the Merchant Marine Act, 1936)を改正する法律で、2002年11月25日、第107回国会で成立しました。
4.2.2 構成
The Maritime Transportation Security Act of 2002
Title I- Maritime Transportation Security
Sec.101〜Sec.113
Title II- Maritime Policy Improvement
Sec.201〜Sec.215
Title III- Coast Guard Personnel and Maritime Safety
Sec.301〜Sec.349
Title IV- Omnibus Maritime Improvements
Sec.401〜Sec.445
Title V- Authorization of Appropriations for the Coast Guard
Sec.501〜Sec.503
 
4.3 同法第102条 港湾のセキュリティ(Port Security)
4.3.1 第102条の構成
 本条は、「Title 46 (Port Security)United States Codes」に「第VI章雑則」(Subtitle VI-Miscellaneous)を追加する規定で、以下の条項から構成されています。
Subtitle VI - Miscellaneous
Chapter 701 - Port Security
Sec.70101. Definitions
Sec.70102. United States facility and vessel vulnerability assessments.
Sec.70103. Maritime transportation security plans.
Sec.70104. Transportation security incident response.
Sec.70105. Transportation security cards.
Sec.70106. Maritime safety and security teams.
Sec.70107. Grants.
Sec.70108. Foreign port assessment.
Sec.70109. Notifying foreign authorities.
Sec.70110. Actions when foreign ports not maintaining effective antiterrorism measures.
Sec.70111. Enhanced crewmember identification.
Sec.70112. Maritime security advisory committees.
Sec.70113. Maritime intelligence.
Sec.70114. Automated identification systems.
Sec.70115. Long-range vessel tracking system.
Sec.70116. Secure systems of transportation.
Sec.70117. Civil penalty.


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