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第3章 海浜事故の発生状況
3.1 概要
 わが国は、四方を海に囲まれ、約7,000の大小の島々から構成される海洋国家である。また、海岸線の長さは約3万5千kmと長く、多くの国民や海外からの観光客が心身のリフレッシュ目的で、海岸の散策や海洋性レクレーションを楽しんでいる。本稿では、海岸の安全利用について、離岸流と浅海域の水難事故(以降、海浜事故とする)の観点から検討する。
 参照データとしてはやや古いが、(旧)海岸4省庁が平成2年3月にまとめた全国海岸域保全利用計画調査報告書によれば、『日本全国の要保全海岸数8,386海岸のうち、海洋性レクレーション利用のある海岸は2,959海岸である。海水浴場年間入込数は、閉鎖性内湾や内海では1,334万人、一方、外洋に面する日本海では826.5万人、太平洋北部では556.6万人、太平洋南部では1,661万人である』。あるいは、熊谷(1988)によれば、『海洋性レクレーションの活動者数は、海水浴が最も多く年間述べ約1億人が参加し、次いで、釣りの年間延べ人数は昭和53年(1978年)の1,700万人から昭和58年(1983年)には2,500万人と急増し、1,990年時点では釣りの年間延べ人数は3,000万人を超えているものと推定されている。また、(離岸流の影響を受けやすい)サーフィンに関しては、1,988年当時で30〜80万人(総活動数)と言われている』。さらに、(旧)運輸省海洋・海事課調べでは、『昭和54年(1979年)から昭和60年(1985年)にかけての海水浴場入込客数は、それぞれ、1.04億人、0.78億人、1.06億人、0.85億人、0.96億人、1.17億人、1.15億人で、7、8月の夏季平均気温に依存して、増減しているようである。また海水浴場の総数は、1990年時点で1,553箇所で総延長が約743kmである。海水浴場の種類別では、天然海浜の海水浴場が総延長の約9割を占め、人工海浜が約5%、汎人工海浜が約3%の延長で、人工・半人工海浜のうち海岸事業で整備したものは約6割となっている』。
 このような数値は、わが国の海岸利用状況および海浜事故予防を考える場合の基礎となる。
 
3.2 海浜事故データの解析
3.2.1 海浜事故の実態
(1)海浜事故データベースの作成と概況
 本章では、具体的にわが国沿岸で海浜事故がどの程度生じているのか、そして、離岸流に関連した海浜事故があるかどうかについて検討する。なお、本解析に当たっては、(財)日本マリンレジャー安全振興協会の昭和61年(1986年)から平成16年(2004年)の報告書のデータを読みとり解析した。
 図−3.2.1に示すように海浜事故者数は、過去19年間に510人/年〜963人/年の間で変動し、平均的には776.5人/年が事故に遭遇している。なお、同期間中に14,753人の利用者が事故に遭遇し、この内、約41%に当たる6,075名が死亡あるいは行方不明となっている。また、244人/年〜400人/年の間で変動するが、平均的には319.7人の海岸利用者が毎年、死亡あるいは行方不明となっている。
 
図−3.2.1 1986年から2004年までの海浜事故の推移
(海浜事故者総数)
 
 さらに、海浜事故者数が多いほど死亡・行方不明者数も増加すると予想されるので、両者の相関関係を調べ、図−3.2.2に示す。図中、19個のデータに対する両者の相関係数Rは0.67であり、ばらつきは大きいが、海浜事故者数が増えれば死亡・行方不明者数が増加することが分かる。
 
図−3.2.2  1990年から2004年までの海浜事故者数と死亡・行方不明者数の相関関係
 
 次に、海浜事故要因として離岸流が関係しやすい遊泳、サーフィン、その他(磯遊び・散策等)という海域利用時の事故状況を図−3.2.3に示す。遊泳中の海浜事故者数は、208人/年〜380人/年の間で変動し、平均的には285.5人の利用者が毎年事故に遭遇している。また、過去19年間で5,424人の海岸利用者が事故に遭遇し、この内53%に当たる2,875名が死亡あるいは行方不明となった。l04人/年〜207人/年の間で変動するが、平均的には151.3人の遊泳者が毎年、死亡あるいは行方不明となっている。
 サーフィン中の海浜事故総数は、年によって8人〜127人の間で変動し、平均的には55.2人の利用者が毎年事故に遭遇し、過去19年間では1,049人が事故に遭遇している。この内、約12.3%に当たる129名が死亡あるいは行方不明である。また、0人/年〜14人/年の間で変動するが、平均的には6.8人/年のサーファーが死亡あるいは行方不明となっている。なお、平成7年(1995年)と8年(1996年)を境に事故者数が急増している。そこで、より最近の状況に近いと考えられる1996年後以降のデータを見れば、サーフィン中の海浜事故者数は、年によって54〜127人の間で変動し、平均的には88.6人の利用者が毎年事故に遭遇している。また、過去9年間では797人の利用者が事故に遭遇している。この内、約11.7%に当たる93名が死亡あるいは行方不明である。また、年によって6人/年〜14人/年の間で変動するが、平均的には10.3人のサファーが毎年、死亡あるいは行方不明となっている。
 遊泳とサーフィンに比べ、2年分のデータが少ないが、その他の海岸利用(磯遊び・散策等)中の海浜事故者数は、77人/年〜162人/年の間で変動し、平均的にはl15.1人の利用者が毎年事故に遭遇し、過去17年間で1,957人の利用者が事故に遭遇している。この内、約35.6%に当たる696名が死亡あるいは行方不明である。また、年によって22人〜65人の間で変動するが、平均的には40.9人がその他の海岸利用時に、死亡あるいは行方不明となっている。このようなデータを概観すると、遊泳者、その他の海岸利用者(磯遊び・散策など)、サファーの順に事故者数、および死亡・行方不明者数が多い。海岸利用者自体も、この順に多いと考えられるので、妥当な結果であろう。
 
図−3.2.3 海岸利用毎の海浜事故者数
 
 さらに、離岸流が強く関連していそうな海岸利用毎に、死亡・行方不明者数を海浜事故者数で割り定義する海域利用時の死亡・行方不明率を調べた。図−3.2.4にその結果を示す。また、図中にはすべての海岸利用形態を合計したデータも示す。なお、海域利用時の死亡・行方不明率の平均は、遊泳者、その他の海域利用者、サーファーの順に53.0%(1986〜2004年平均)、35.6%(1988〜2004年平均)、11.7%(1996〜2004年平均)である。よって、遊泳者やその他の海岸利用者がいったん海浜事故に遭遇すると、死亡率が2〜3人に一人と非常に高いことが分かる。
 一方、サーフィンに関しては、事故に遭遇してもウェットスーツやサーフボードなどにより長時間浮きやすい状況を確保できるために、死亡・行方不明率が約8.5人に一人程度と低いことが分かる。このことからも、海浜事故死を減らすには、海岸利用者が如何に長時間浮力を確保できるかが重要な事も分かる。なお長期的に見ると、死亡・行方不明率がやや減少傾向にある。
 
図−3.2.4 海岸利用箸の死亡・行方不明率
 
 海浜事故者数に対して最も影響が大きいのは、各年度の海浜利用者数であろう。加えて、海浜利用者数の中で最も利用者の多い海水浴客数は、夏季(7月と8月)の気温が高いほど多くなると予想される。そこで、(旧)運輸省海洋・海事局のデータを元に、海水浴場客数と7月及び8月の平均気温の相関図を作成した(図−3.2.5参照)。
 
図−3.2.5  海水浴乗客数と7月・8月の平均気温
(1979年〜1985年)
 
 なお本データは、昭和54年(1979年)から昭和60年(1985年)までのデータであり、参考資料としてはやや古い。しかし、両者の間には相関係数R=97で示されるように明確な直線関係がある。図中、最小二乗法で求めた関係式は次のようになる。
 
 
 ただし、Y=海水浴場入込客数、X=7月と8月の平均気温である。したがって、基本的には夏季の平均気温が高ければ海水浴場入込客数が多くなるので、暑い夏が予想される場合には、海浜事故に関する注意がより必要である。


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