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3.2.2 離岸流の関連した可能性の高い海浜事故データの解析
 前節で参照した(財)日本海洋レジャー安全・振興協会の1986年から2004年の報告書に記載された事故事例を総て読み、「沖に流された、漂流した、離岸流に流された、強い潮に流された」など、離岸流の可能性が高い事例を取捨選択し、簡易事故データベースを作成した。図−3.2.6に離岸流によるものと思われる海浜事故者数と死亡・行方不明者数を示す。
 
図−3.2.6  1990年から2004年までの離岸流れが関連した可能性のある海浜事故の推移
(海浜事故の全事例ではないことに注意)
 
 なお本データは上記報告書に示された各年度の代表的な海浜事故事例の記録から取捨選択したものである。現況では、解析に用いた海浜事故事例は、トータルで238件であり、476人が事故に遭遇し、95人が死亡・行方不明というものである。
 図−3.2.6では、海浜事故一件当たりの事故者数が多い程死亡・行方不明者数が多いという傾向は明瞭でない。そこで、離岸流が関連したと思われる海浜事故毎の事故者数の頻度分布を、図−3.2.7に示す。図から、1事故あたり事故者数1名が半分以上の事例を占めている。したがって、海域利用を行なう場合には最低限2名以上の複数利用者で行動を共にすることが、いかに重要であるかを示すものといえる。1名で事故にあう頻度は高いが、1名で海岸利用を行なえば誰も助けてくれないと言う状況におちいりやすい。マリンレジャーでは、スキューバダイビングだけがバディシステムという複数での利用を前提(推奨)にしているが、その他の海岸利用者にも、できるだけ複数の利用者と行動を共にすることを推奨すべきであろう。
 国内で最大の海浜事故死亡・行方不明者数は、「1955年7月に津市立橋北中学校の女子生徒36人が安濃川河口付近の中河原海岸で同時に死亡した」と言われる(2004年8月27日;毎日新聞記事参照)が、ここで作成したデータベースには含まれていない。
 
図−3.2.7  離岸流の可能性が高い海浜事故の事故者数頻度分布
(注:海浜事故の全事例ではない)
 
3.2.3 離岸流の関連した可能性の高い海浜事故の発生状況
 海岸利用時に発生する海浜事故に離岸流がどの程度関連しているのか調査した研究は少ない。国内では(1)宮崎県消防局が1996年から2000年に出動した150人の救難活動のうち41人(27.3%)が離岸流による事故と推定されて、この内9名が死亡している(矢野・長田、2001)。(2)鳥取海上保安署管内において約7割強との推定値(第八管区海上保安本部海洋情報部データ)、(3)沖縄県石垣島では、ほぼl00%がリーフカレント(離岸流)との推定値(第十一管区海上保安本部海洋情報部データ)、そして、国外では(4)ブラジルでは年間7,500人が溺死し、全年齢層に対しては海浜事故が第3位の死亡原因となり、5歳から14歳の児童に対しては海浜事故が2番目の死亡要因となっている。また、リゾート地であるSanta Catarina海岸で1995年から2003年に調査した結果では海浜事故の82%が離岸流が原因となったものである(Klein et al, 2004)というデータがある。現状では、日本全国でどの程度離岸流に関連して海浜事故が発生しているのか定かでない。そこで、前節で作成した年度毎の離岸流海浜事故データベースに基づいて、概略、日本全国で離岸流に関連した海浜事故がどの程度発生しているのか推定することにした。具体的には、(財)日本マリンレジャー安全振興協会発行の報告書に示されている代表的な海浜事故事例の記録に示される海浜事故者数、および死亡・行方不明者数と、対応する年度の海上保安庁発表の海浜事故者数および死亡・行方不明者数の比率を求め、その比率の逆数を、前期報告書中の離岸流に関連した海浜事故者数および死亡・行方不明者数にかけると言う、やや乱暴ではあるが、当面の第一近時としては仕方ない手法を用いた。
 推定結果は、図−3.2.8に示される。ここに示される離岸流が関係したと推定される海浜事故者数は年平均で百数十人、死亡・行方不明者数は年平均で数十人規模である。現状では、すべての事故あるいは事故事例そのものを筆者が見分しているわけではないので、オーダー的にこの程度のものと解釈すべきであろう。なお、ここで得られる推定死亡・行方不明者数は、自然災害が少ない年の自然災害死者数にほぼ匹敵する程度のものでもある。
 結局、安全な海岸利用を行なうという意味での結論は、「一人で泳がない」、「浜にそって泳ぐ」と言うことに尽きる。
 
図−3.2.8  離岸流に伴う海浜事故者数及び死亡・行方不明者数の推定値


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