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(2)リップチャネルより発生する離岸流の予測
 今回の実測時は非常に波が穏やかな状況であったため、水難事故を引き起こすまでの強い離岸流は発生していなかった。しかし、波高が上昇した場合、または潮位が変化した場合にこの離岸流がどのような挙動を示すのかは水難事故防止の点においても非常に興味深い。そこで波高を60cm、80cm、100cmと海水浴が行われる範囲にて変化させた計算を行った。また周期はWave Hunterの記録よりそれぞれの波高時に観測された周期、4.0s、6.0s、6.0sを用いた。
 図−2.3.37に波高60cm時の計算結果を示す。波高が大きくなったため全体的に流速は速くなったが、この場合も砕波位置が岸沖距離で43m付近とリップチャネルよりも岸側に存在するため、リップチャネル内での流れはほとんど発生しない。
 図−2.3.38、図−2.3.39には波高80cm、100cmのときの計算結果を示している。この場合、砕波点は波高80cmで85m付近、100cmで95m付近と共にリップチャネル部より沖側で砕波している。波高が小さい場合は砕波帯内でのみ流れが発生していたのに対して、波高が大きい場合はリップチャネルの影響により砕波帯をはるかに超えた地点まで離岸流が達しており、流況が大きく変化している。流速自体は波高60cm時から大きく変化していないが、これは計算モデルが鉛直方向に積分しているため、水深の深いリップチャネル部ではそれほど速い流れが存在しなくても流量を満たすことができるためだと考えられる。
 以上の計算より、砕波帯がリップチャネルよりも岸側の場合は流れが存在しても汀線付近のみであり、水深も浅いことから海水浴には問題を与えないと考えられる。しかし、リップチャネル部より沖で砕波すると流れの状況は大きく変わり、より沖側まで流れが到達するようになり、遊泳者にとっては非常に危険な状況となることが分かる。
 
図−2.3.38 計算結果(H=80cm, T=6.0s)
 
図−2.3.39 計算結果(H=100cm, T=6.0s)
 
 次に砕波点が変化する要因として潮位変化を考える。この場合一般的な波の状況である波高60cm、周期4.0sを入射させ、潮位を20cm下げた計算結果を図−2.3.40に示す。ここでの潮位変化は海水浴の可能な日中に変化する可能性のある潮位に設定した。図中の水深は静水面を基準とした水深である。
 計算結果を見ると、水位を下げた場合は砕波点がリップチャネル部より沖側に存在するため、離岸流がより沖へと伸びている。このように波高が変化しなくても潮位変化によって地形性離岸流が助長されることが分かる。
 以上のことから、地形性離岸流の発生には波高・潮位等の変化によって流況が大きく変わる可能性があり、遊泳者およびライフセーバーも適宜流況を確認する必要があると思われる。
 また今回の計算では地形変化は考慮せず、流況の変化にかかわらず地形が一定と仮定して計算を行った。実際は地形がより流れを強める方向に変化する可能性もある。地形の変化については今後継続的に変化を測量して検討する必要がある。
 
図−2.3.40 計算結果(H=60cm, T=40s, Tide=-20cm)


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