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第2章 研究の内容
2.1 離岸流研究について
2.1.1 離岸流に関する既往の研究
 海浜流とは浅海域、中でも砕波帯内およびその付近において、波浪によって発生する流れであり、海浜流循環の模式図を図−2.1.1に示す。海浜流は波の質量輸送、汀線に平行な沿岸流、沖向きの離岸流、砕波帯沖のきのこ雲のような離岸流頭の4つの部分からなり、これらを総称して海浜流系と呼び、この循環を海浜循環流と呼ぶ。
 
図−2.1.1 海浜流の模式図
 
 入射波や海底地形との関連において、定性的に記述されるに留まっていた海浜流の研究は、Longuest-Higgins-Stewart(1964)によってradiation stressの概念が提出されたことにより、定量的な議論が可能な段階に達した。
 Bowen(1968)はそれを用いて砕波帯内の平均水位の上昇(wave set-up)を示した。つまり沖方向のradiation stressの勾配と水面勾配がバランスを取ろうとして、砕波点ではwave set-down、砕波帯内ではwave set-upが発生するという考えである。これらの考えをもとに海浜流の循環が生ずる原因は、汀線付近の波高分布が沿岸方向に一様でないとwave set-upの差による水面勾配が生じ、平均水位が高いところから低いところに向かう流れが発生することによるとされている。このように離岸流はradiation stressを起因力とするwave set-upが要因で発生すると考えられている。Bowen(1969)はstanding edge waveによるradiation stressの海岸線方向の周期的分布を強制力として考える理論(強制外因機構)を発表しており、それに対して日野(1972、1973、1975)は流体力学的不安定現象との見解から何らかの微小撹乱によりwave set-upの一様性が崩れるとの考えに基づき離岸流の発生機構を説明しており(選択的自励機構)、その過程で沿岸流は離岸流の主因ではなく発生間隔に関係する要素であることを示している。両者ともにradiation stressを起因力としているが、離岸流の発生を前者は定常に、後者は非定常として捉えているところに大きな違いがある。また堀川・佐々木ら(1971、1974、1975、1976)は離岸流の発生には三つの領域が存在するとし、Bowen、日野の各理論はその内の二つの領域ではよい評価を与えるとして、他の1つの長周期重力波領域において、長周期重力波によって定常波が励起されるという新しい仮説を提案している。そして、その三つの領域を海底勾配(tanβ)と波形勾配という二つのパラメーターを用いて評される砕波帯相似パラメータIr(surf similarity parameter, Ir = tanβ/(H/LO1/2によって表−2.1.1のように分けている。
 
表−2.1.1 海浜流発生の三つの領域(堀川・佐々木ら)
 
 Harris(1969)によって分類された海浜流のパターンを図−2.1.2に示す。多くの観測結果からそれぞれの生起頻度は(a)の対称セル循環38%、(b)の非対称セル循環52%、(c)の沿岸システムは10%であることを示した。(a)と(b)を合わせると90%となり、離岸流の発生しない(c)の場合は非常に少ない。離岸流流況に関する理論解は循環流セル中心点で対称となるBowen(1969)による解と、離岸流を自由噴射型のモデルと考えるTam(1977)の相似解の2つに大別される。向岸流と離岸流の対称性が維持されていれば前者それらの非対称が著しければ後者であり、(a)の離岸流がBowenによる純循環流型、(b)の離岸流がTamによる自由噴流型の理論に対応していることがわかる。
 
図−2.1.2 海浜流の分類(Harris, 1969)
 
 図−2.1.3は離岸流の発生間隔Yrと砕波帯幅Xb(図−2.1.1)の関係について数々の過去に行われた現地観測において得られたデータを堀川・佐々木ら(1976)がまとめあげたものである。図−2.1.3によるとYrXbの関係はばらつきはあるが、無次元離岸流間隔Yr* = Yr/Xbは1.5〜8.0の範囲内にあり相関が見られる。特にXbが25m以下ではYr* = 2〜3で4以下を示し、この範囲のデータの特徴は砕波波高が小さいほかに海底勾配が急であることをあげている。表−2.1.1における各領域の無次元離岸流間隔の回帰式は次のように与えられる。
 
 
 式(2.1.1)の中のnは岸に平行な節線の数(offshore modal number)といわれるもので、エッジ波の周期、波長によって次式のように与えられる。
 
 
 離岸流の長さXrについては特に定式化されたものはなく、堀川・佐々木らは現地実測を行って図−2.1.3のような結果を得ている。これによると大きなばらつきはあるが無次元離岸流長Xr*はその平均値をあらわしているようである。また、全体の傾向としてはYbが大きいほどXr*が小さい傾向が見られ、Xb→大のときXr*→0(Xr→0)の傾向がみられる(図−2.1.4)。
 
図−2.1.3 離岸流の発生間隔と砕波帯幅の関係
 
図−2.1.4 離岸流の長さと砕波帯幅の関係


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