2.1.2 ノイズ除去
(1)目的と概要
図1に示したマルチビームデータ処理において、ノイズ除去は重要な工程であるが、作業時間を要するものである。この工程を効率化することは工程全体の時間短縮をもたらし、後工程に多くの時間を確保することが可能となるため、データ処理全体の品質の向上に寄与することができる。
ノイズ除去の効率化の手段として自動化がある。自動化の方法として以下のものを示す。
(1)水深値によるフィルター
(2)発振角度によるフィルター
(3)曲面を推定し、それから離れた水深点を除去する方法
(4)曲面を推定し、それに近い既に除去した水深点を復活させる方法
これらのうち本研究では(4)の曲面を推定し、それに近い既に除去した水深点を復活させる方法を開発し、従前のノイズ除去プログラムに新たな機能として追加した。
ノイズの自動除去ではノイズと同時に正しい水深点も除去してしまうことがある。またパラメータを変更し、正しい水深点を全て残そうとした場合、多くのノイズが除去されずに残る。そこでまずノイズと一部の正しい水深点を除去し、その中より正しい水深点を自動抽出し、復活させる方法を採用した。
(2)入出力データ
ピングデータを入力し、ノイズを除去したピングデータを出力する。
(3)計算方法
図9に示すとおり、除去した水深点の復活方法には曲面推定と残差閾値判定の2つの工程がある。水深点復活の前には必ず水深点を除去している。除去するのはノイズまたはノイズと類似する水深点なので、水深点復活における曲面推定では、正しそうな水深点のみを使用し2次曲面を推定する。そのため、より本来の海底地形に近い曲面を推定できる。この本来の海底地形に対し、残差閾値より近い水深点をノイズと見なさずに、正しい水深点として復活させる。水深差の残差閾値は残差ヒストグラムを元にユーザーが設定する。
図9 水深点復活の流れ
曲面推定にはロバスト推定を採用した(*1)。ロバスト推定は重み付け最小二乗法により指定した範囲の2次曲面を求める方法である。各水深点の重みは水深残差の逆数で与えられる。その重みを使用し、重み付け最小二乗法で再度曲面を推定する。
(4)動作状況
実際の調査データを使用し、水深点自動復活の効果確認を行った。使用したピングデータは平成17年に房総半島沖で行われたマルチビーム調査のデータから作成したものである。使用機器はSEABEAM2112で、ビーム幅は2°、ビーム間隔は1°である。水深点の自動復活の効果を確認するために、以下の2つの方法で計算比較した。
・方法1: 水深点の自動除去のみ
・方法2: 水深点の自動除去・復活の組み合わせ
ユーザーが設定するのは、推定曲面の単位サイズであるセルサイズと除去の残差閾値である。2つの方法を比較するためにセルサイズを統一し、方法1の残差閾値と方法2の水深点自動復活に関する残差閾値を表3のとおり統一した。
方法1で水深点除去における残差閾値を40mとして計算した結果を図10に示す。図の左半分が水深点除去前、右半分が結果を簡易3Dで表している。この図から主にスワスの端、表示画面手前から5ピング目付近の異常なピング、表示画面奥の5ピング目付近が多く除去されている。なおこれらの結果にはノイズとともに一部の正常な水深点も含まれている。
表3 比較試験設定値
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セルサイズ(m) |
残差閾値(m) |
方法1 |
850 |
40 |
方法2 |
水深点除去 |
850 |
10 |
水深点復活 |
850 |
40 |
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図10 方法1による水深点除去結果
次に方法2の結果を図11、図12に示す。図11は水深点除去において残差閾値を10mとして多くの水深点を削除した結果である。残差閾値を小さく設定したため、多くの正常な水深点が除去されている。残った水深点は推定した曲面に非常に近く、信頼性が高いもののみである。ここで得られた水深点のみを使用し、水深点を復活させた。残差閾値を40mとし、方法1の残差閾値と統一した。その結果ノイズは復活しなかったが、一部の正常な点も復活しなかった。また残差閾値を50mにすると、正常な点も復活したが、ノイズも復活した。
図11 方法2による水深点除去結果
図12 方法2による水深点復活結果
2つの方法による結果を比較すると、削除された点は両方法で酷似している。その原因は、曲面推定にロバスト推定を使用したためである。ロバスト推定では曲面から離れた水深点の重みを小さくして曲面を推定している。これは水深点除去において、最小二乗法によって推定した曲面から離れた多くの水深点を除去し、残った水深点で再度曲面を推定するのと同等である。したがって、ロバスト推定による水深点除去は、最小二乗法による曲面推定・水深点除去と曲面再推定・水深点復活を組み合わせた方法に相当する。
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