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2.1 品質管理手法の高度化と規格作成
 ピングデータの一次処理プログラムとして音速度補正プログラムおよびノイズ除去プログラムを作成した。
 
2.1.1 音速度補正
(1)目的と概要
 マルチビーム音響測深機は、センサーから海底までの音響ビームの往復走時と音速度の積を取ることによって水深を算出する。しかし音速度は水温と塩分により変化するので、正確な水深を知るには音速度を正確に計算し、水深補正をする必要がある。本プログラムは、得られた水深データに詳細な音速度補正を施すことにより、正確な水深を得ることを目的とする。
 音速度補正のための音速度プロファイルは現地においてXCTD(eXpendable Conductivity Temperature Depth)等の機器により取得されている。その結果を現地においてマルチビーム音響測深機に入力し、リアルタイムに簡易な音速度補正をしている。本プログラムは特に以下の3点を考慮し、データ収録時の音速度補正よりもより詳細に音速度を補正できる。
 
・調査船の動揺を考慮した音響ビーム発振角度計算
・音速度プロファイルの補間
・船の形状補正
 
 本研究ではこのうちの調査船の動揺を考慮した音響ビーム発振角度計算を高精度化した。
 調査船の動揺データ(ピッチ、ロール)、受波器に対する音響ビーム発振角度および受波器の取り付け角度を表す受波器形状角を総合することにより、各音響ビームの水平面に対する総合的な発振角度を決定できる。しかしこれまではピッチを総合的な発振角度に含めていなかったので、これを考慮する計算を組み込んだ。
 音響ビームは音速度の変化に伴い、図3のように屈折する。このため音響ビーム屈折に対し総合的な発振角度を使用しない場合、屈折補正が不十分となる。その結果、水深は深く、音響ビームの海底反射位置は調査船位置から遠く表される。この結果、水深点の位置精度が悪化する。
 
図3 音響ビーム屈折の概念
 
(2)入出力データ
 ピングデータを入力し、音速度を補正したピングデータを出力する。またCSV形式の音速度プロファイルデータを入力し、音速度パラメータとすることもできる。
 
(3)計算方法
 音速度補正は図4の手順で実行される。
 
図4 音速度補正計算の流れ
 
 本研究では図4の発振角度計算および水平距離縦横分割ルーチンを組み込んだ。
 
(4)動作状況
 定量的な議論をするために、テストデータを作成し、ピッチを考慮した音速度補正と考慮しない音速度補正を比較した。使用したテストデータの概要を表2に示す。ここで水深を2500mとしたのは、大陸棚限界画定で最低限必要な調査水深が2500mだからである。これに図5に示す音速度プロファイルを適用して、補正した。
 
表2 使用テストデータ概要
水深 2500mで平坦
音速度 1500m/s
ピッチ
ロール
ヒーブ 0m
音速度補正 適用せず
 
図5 音速度プロファイル
 
 プログラムの動作状況を図6に示す。図中の上半分が音速度補正前の1ピングのデータ表示、下半分が音速度補正後のデータ表示である。また青線が海底を表す。さらに中央が直下の水深で両端がスワス端の水深である。この図において音速度補正前のデータが2500mの平坦な海底面であるのに対し、音速度補正後は直下で浅く、スワス端で深くなっている。
 
図6 音速補正プログラム動作状況
 
 本プログラムを用い、音速度補正に5°のピッチを適用した結果と、適用しない結果を比較する。
 まず受波器に対する発振角度と縦距離の関係の比較を図7に示す。ピッチを音速度補正に適用しない場合は縦距離が一定であるのに対し、ピッチを適用した場合、約5mから40m縦距離が小さくなる。これは屈折により、音響ビームの海底への到達点が調査船に近づいたことを示す。またこの値は約10mの単独測位GPSの距離精度よりも大きく、マルチビーム音響測深のシステム誤差を拡大する。また受波器形状角が発振角度±25°付近で変化しているため、受波器に対する発振角度±25°の付近で曲線が不連続になっている。
 
図7 音速補正結果比較
受波器に対する発振角度と縦距離の関係
 
 次に受波器に対する発振角度と水深の関係の比較を図8に示す。ピッチを補正に適用した結果が適用しない結果より、直下付近において約10m浅くなっている。一方スワス端では、その差はほとんどない。これはスワス端では受波器に対する音響ビームの発振角度が5°のピッチと比較して大きく、ピッチの影響が少なくなるためである。
 
図8 音速補正結果比較
受波器に対する発振角度と水深の関係


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