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2.2 観測データの整理・解析
2.2.1 海洋短波レーダーのシステム概要
 海洋短波レーダーは、海表面に照射した電波の後方散乱を利用し、距離、方向、及び散乱表面がアンテナに向かう又は離れるかの視線方向流速を測定する。陸上に設置したレーダー局から、海面に向けて短波信号を照射すると、送信信号波長の1/2の波長を持つ海面の波浪によってブラッグ散乱を受け、強い後方散乱波が生じる。視線方向流速は、後方散乱波を受信することにより、信号スペクトルのブラッグピークを使用して決定される。周波数42MHzの電波の波長は約7m(電波の伝搬速度/周波数)であり、観測対象となる成分波の波長は約3.5mとなる。なお、レーダーで計測される水深は、対象成分波長の1/4πの深さと見積もられ、42MHzでは約30cmの水深である。本研究で使用した短波レーダーの、距離・流向・流速の測定方法は以下のとおりである。
1)距離の測定
 距離の測定は、レーダーからの送信波を掃引させることにより変調し、その受信波を正確に検波し、遅延時間を周波数のズレに変換して、反射点までの距離を算出する。この距離は32のレンジセル(レーダー局を中心に一定間隔の距離範囲)に分類され、周波数42MHzのレーダーでは、500mのレンジセル幅で、適用可能レンジは16kmである。レンジセルの幅は周波数掃引幅と比例関係にあり、大きい掃引幅ほどレンジ解像度(分解能)が上がることになる。一般にこの分解能は、ΔL=C/2B(ΔL: 分解能、C: 電波の伝搬速度、B: 周波数掃引幅)で求められる。
2)流速の測定
 流速の測定は、潮流成分と波浪成分を含んだ各レンジセルの散乱波速度の情報を、ドップラーシフトに置き換える信号スペクトル処理により求められる。このスペクトル処理に使用する時系列の長さは速度分解能を決定し、本システムではドップラー周波数分解能が0.004Hz、速度分解能は1.4cm/sである。
3)流向の測定
 流向の測定は、一体型の三本の受信アンテナで同時受信した信号を使用し、レンジ及び速度をスペクトル解析した、それぞれのポイントの方向計算を行う。計算は「Direction Finding」と称するアルゴリズムにより、レーダーサイトから見た方向を決定している。
 
2.2.2 ラジアルファイルの作成
 ラジアルファイルは、各観測局におけるレンジセルの視線方向流速を、観測時間毎に収録したデータファイルである。ラジアルファイル作成手順を図2.2.2.1、観測データの処理プロセスを図2.2.2.2に示す。観測データは、平均化処理を行いCSS(Cross Spectra Short)ファイルを作成する。このデータに実測のアンテナパターンの補正を行い、ラジアルファイルを作成する。ラジアルファイルは、観測局を基準として方向分割1度又は5度、距離分割500m毎のレンジセル単位で、視線方向線上におけるレーダー観測局に向かう流速(+符号)と遠ざかる流速(−符号)として計算されている。このデータから観測時間毎の平面分布及びレンジセル毎の経時変化を作成し、近接するデータとの整合検討により、平均化過程で除去できない電離層ノイズ等のスプリアスピークの除去を行い、解析用ラジアルファイルを作成する。
 
図2.2.2.1 ラジアルファイルの作成手順
 
図2.2.2.2 観測データの処理プロセス
 
1)CSSファイルの作成
 観測生データは、受信機に接続された3つのアンテナから、時系列の電圧データとして取得している。時系列は128秒間収集され(0.25秒毎に512レーダー掃引)、クロススペクトルとして収録される。クロススペクトルは平均化プログラムにより船や干渉のノイズを取り除き、平均化されたクロススペクトルに変換される。本研究では、当該海域の潮流時間変化が大きいと考えられることから、7分間のデータを平均して5分間隔のCSSファイルを作成した。データ例を図2.2.2.3〜図2.2.2.7に示す。
 図2.2.2.3は、一つのレンジ距離における海面エコー、ノイズ、その他あらゆる信号を含む、観測生データのドップラースペクトルである。スペクトルは512の時系列データから得られ、最初のFFTによって距離の情報が抽出される。それから同じ距離のデータを集めて、2番目のFFTにより3つのアンテナアレメント毎にドップラースペクトルが求められる。グラフはスペクトルに複素共役をかけ、それを信号強度(dB)に変換したデータを表示したものである。
 
図2.2.2.3 観測生データ(Cross Spectra)
「大磯埼」3kmレンジのプロット


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