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2. 検討結果のまとめ
2.1 患者搬送における問題点
 当初、検討課題としてあげていなかった患者が乗船するまでの過程についての問題提議と意見が参加者のレポートにあった。その内容は船のある港にたどりつくまでの問題、乗船する患者選択の問題、乗船するスタッフ数の問題などであった。
 次に乗下船における検討では、タラップの問題についての意見が数多くあげられた。特に要介護患者の乗下船におけるタラップの狭さについては指摘が集中した。対策としては、車椅子が可能であれば使うが、無理であれば人手を使う、また毛布などを使った簡易担架を使う、という意見があった。
 船内の移動についてもバリアフリーでないことの指摘は多く、対策としては要介護患者の移動距離を減らすような患者収容、スロープを使った簡易バリアフリー化、スタッフのみならず元気な患者の協力の必要性、などの提案があった。患者の収容場所については、要介護患者の場合、階段の急勾配の問題があり、悪天候でなければデッキ、あるいは応接室、という階段の移動を要しない収容場所をあげる意見を複数いただいた。その他、毛布などを使って床で横になったり足を伸ばしたりできるスペースを作るべきである、という意見があった。船内環境については、前述の船内移動の問題の他、患者の排泄についての問題が提議された。患者によっては、トイレヘの移動が困難であるため対応策の提案があった。
 
 乗船時の患者の精神的なケアについては、多数の意見があったが、その中でもスタッフから患者への状況説明の必要性を強調する意見と、可能であれば患者の家族が同行するべき、という意見が多かった。検討会の席上で矢野船長より、非常時であれば家族の乗船についてはできるだけの対応をする、というコメントがあったように、家族を乗船すること自体の問題は大きくないが、実際には家族も被災者であり、家族が患者に同伴できないケースが多いことを前提として考えるべきであろう。
 スタッフの職種別の役割については、様々な意見があったが、いずれもある程度の役割分担を前もって決めておくべきである、という点では一致がみられた。
 
2.2 多数の患者が支援施設で透析を行う事における問題点
 災害時の患者情報伝達に関する意見は多数いただいた。その中心的な問題は「患者情報カード」の扱いに関するものであった。阪神大震災の経験もふまえて、ほとんどの施設で患者情報カードに類するものを作っていたにもかかわらず、新潟中越地震では患者情報カードや手帳類は手帳の更新ができていなかったり、持参していなかったりのため役に立たなかった、という現実が危機感を感じさせるものではなかったかと思う。ただ、患者情報カードは役に立たないから不要である、という意見はなく、いかにして有効性をもたせるか、という方向性での意見が多かった。カードではなく、月1回透析記録のコピーを渡す、という提案もあり、情報カードについては、更新をどのような頻度でどういう形で行うかが課題と考えられる。全国的に統一した内容のカードや情報伝達の仕組みの整備を日本透析医会に期待する意見もみられた。患者からの情報収集については、現在の患者の状況、特に外傷の有無についてのチェックの必要性を強調する意見があった。
 
2.3 船内治療における問題点について
 船内治療については、補液、圧迫止血などによって止血可能な創傷処置、酸素投与までを想定、急変時の対応以外の処置は行わない、という想定をしたが、補液については、ひもに類するものがあれば問題なくできるだろう、という意見が多かった。酸素投与については、ボンベの固定の必要性についての意見の他、経鼻カニューレ、パルスオキシメーターの必要性を訴える意見もあった。
 必要物品については、上記のもののほか、清潔ガーゼ、消毒薬、包帯、テープ、創部保護シート、ディスポのセッシ、血圧計、体重計、聴診器、駆血帯、ディスポシリンジ、注射針、輸液セット、生理食塩水、心電計、血糖測定器、緊急用の薬品(内服、注射薬)などの提案があった。
 急変時の対応については、まず医師の必要性を強調する意見が多かった。船に乗せる患者選択、被災地の状況にもよるが、検討会では、緊急時の対応にクルーを期待しないでもらいたい、とクルー側の意見もあり、医師の乗船は原則的に前提とすべきものであろう。船上での急変時の対応の限界を考え、乗船前の患者状態による選択の重要性を訴える意見もあった。
 
2.4 船内CHF運転の検証について
 船内のCHF運転については、事前に心配された電源、揺れの影響の問題は全くなく、スムーズに運転が行われた。今回の検証航海は患者の搬送の検討が主であり、今後は、治療としての船内CHFの適応などについて検討の余地があると思われる
 
医療スタッフによるグループ別に分かれたミーティング
 
船内での食事(学生ホール)


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