今年六月、ハンセン病対策会議出席のためブラジルを訪れました。ブラジルは、いまだに残るハンセン病の高蔓延国であり、第一位のインドに次いで二番目に蔓延率と患者数の多い国で、政府の最近の統計で、約八万人の患者がおり、有病率は一万人の人口に四・五二人ということになっています。特に北部のアマゾン河の流域など医療サービスの供給が難しい地域などに高い有病率が見られます。このように深刻な状況にありながら、過去何年もの間ブラジル政府はハンセン病の制圧に系統だった活動はしてこなかった様子です。昨年新たに選ばれた革新政権のルラ大統領は、社会的正義の追求と経済格差をなくすことに政策の高いプライオリティをおいていますが、その意味でもハンセン病の制圧に大変熱心で、大統領としてほぼ一世紀ぶりにハンセン病施設を訪問して患者を見舞い「私たちはもっと早くにハンセン病の問題を解決できたはずなのに努力を怠ってきた、失われた時間を取り戻さなければならない」と力強い決意を表明されています。今回の訪問で短時間ではありましたが、私もWHOの制圧特別大使として大統領にお目にかかり、直接、政府の更なる努力をお願いいたしました。

　

　

　ブラジルでは、残念ながら政府の対応はこのように今ひとつ頼りにならないものがありますが、特筆したいのは、現役の有名歌手や俳優の人々がボランティアでハンセン病患者の世話や制圧キャンペーンにかかわっていることです。私がお目にかかったブラジルの国民的女優で歌手でもあるエルケ・マラビヨソさんは、十五年前からハンセン病患者を隠れて慰問し世話をしてこられました。彼女の一生も数奇の一生で、そもそもロシアの生まれで、祖母はモンゴル人、祖父はアゼルバイジャン人で、ロシア人のお父さんとドイツ人のお母さんとともに第二次大戦後すぐブラジルへ逃れてきました。このような経験が彼女を社会的に弱い立場にいる人の応援へと向かわせたのでしょう。女優としての活動のかたわらハンセン病の施設を訪問することを日課にしていたそうです。今はハンセン病の人びとだけでなく、刑務所の受刑者や、売春婦からもゴッドマザーとして慕われているそうです。このような人びとやNGOの献身的な努力が、政府の努力の足りないところを補完してきたのです。問題はまだ大きいですが、明るい希望も見えてきているという印象をもってブラジルを後にしました。

　

　

　現在、開発途上国におけるハンセン病回復者自立支援事業における「（財）日本吟剣詩舞振興会」を通じてご寄付いただいた額は、三、七五八、四三九円（七月末日現在）となっております。

　ハンセン病回復者自立支援募金は、本誌最終頁に貼付の「専用振込用紙」をご利用いただき、最寄の郵便局からお振込ください。送金手数料はかかりません。皆さまの温かいご支援をお願いします。

　

　

　

一、和歌・うす霧の　（藤原清輔）

二、秋思　（劉　禹錫）

三、隈川雑詠　その二　（広瀬淡窓）

四、月夜禁垣外を歩す　（柴野栗山）

五、金陵の鳳凰台に登る　（李白）

一、和歌・秋風に　（藤原顕輔）

二、和歌・あききぬと　（藤原　敏行）

三、九月十日　（菅原道真）

四、峨眉山月の歌　（李白）

五、甲斐の客中（荻生徂徠）

六、登高　（杜甫）