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表紙説明◎名詩の周辺
早に深川を発す―平野金華 作
東京・江東区深川
 作者・平野金華は江戸時代の儒者。名は玄仲(または玄中、玄沖)、通称は源右衛門といいましたが、奥州の人でしたので、奥州の金華山からとって「金華」と号しました。幼少のときに両親を失い、親族に養われています。医学を学ぶため江戸に遊学しましたが、文学への道は断ちがたく、荻生徂徠の門に入り、古文辞学を修めました。
 あるとき作った文が徂徠に認められ「未だかつて進取かくの如き人を見ず」と評されて、その後、日夜努力して七才子の一人に数えられるまでになりました。
 この詩は、早朝に深川を出発して、隅田川を下ったときに作ったもので、隅田川を下る情景が詩情豊かに詠まれています。
 
 
 ところで「深川」とは、隅田川の下流、現在の東京都江東区の西部にあたる地域でその中心にあるのが「富岡八幡宮」です。八幡宮は、寛永四年(一六二七)にこの地に移され、深川は門前町として発展しました。境内には重層準八幡造の本殿、社務所や十指に余る末社があり、深川の民俗資料を展示する資料館もあります。また、この八幡宮の祭礼「深川祭」はもとは江戸三大祭の一つに数えられたほどの大祭で、いまも大きな神輿が繰り出し、大賑わいとなります。
 この地は、明治十一年には深川区となり、昭和二十二年、江東区の一部となりました。詩中「長橋」と表現されているのは「永代橋」のことで、この橋から東、門前仲町の地域は、今でも人情熱い江戸時代の深川の雰囲気を色濃く残しており、下町情緒あふれる一帯です。富岡八幡宮以外にもすぐ近くにある「深川不動堂」は、千葉県の成田山新勝寺の別院で、元禄十六年、旧永代寺に出開帳したのが始まりとなり、この地に建立。ここも江戸時代から多くの参詣人で賑わっています。
 
【富岡八幡宮】地下鉄東西線門前仲町駅下車、東へ徒歩4分。
【深川不動堂】同じく地下鉄東西線門前仲町駅から北東へ徒歩2分。
【隅田川・永代橋】地下鉄東西線・日比谷線茅場町駅から南東へ徒歩10分。門前仲町駅からなら北西へ徒歩8分です。
 
富岡八幡宮境内には、名物の「深川めし」を食べさせる店も江戸情緒たっぷりの店構えで出している
 
深川不動堂の門前仲見世は、「人情深川、ご利益通り」の別名がある
 
吟剣詩舞
こんなこと知ってる?(6)
 四月号から始まった新企画「吟剣詩舞こんなこと知ってる?」の六回目です。読者の皆さまと双方向で意見が交換できるコーナーとして設けておリます。
 吟剣詩舞の歴史、人物、身近な出来事など、読者の皆さまが驚くようなこと、是非、知らせたいことがありましたら財団事務局月刊誌係まで、ご寄稿をお願いいたします(形式は問いません。写真等も歓迎です)。
 今回は読者の方々から戴いたご質問について、本部事務局がお答えいたします。
 
“吟詠コンクールなどで、男性が和服で出演する際の白扇の持ち方などについて知りたいです。特に白扇を差したまま登場し、吟じる前に手にして構えるまでの手順について知りたいです!”
 全国少壮吟詠家審査コンクール決選大会や全国吟詠コンクール決勝大会一般の部などでは、男性のほとんどが和服を着用されるようになりました。そのような中で、自然、このような質問が出てきたのだと思います。
 このたび開催の第二回青年吟剣詩舞道大学(七月二十三日〜二+五日・於、湘南国際村センター)で講師をお願いした石川健次郎先生のご講義「吟剣詩舞の沿革と舞台動作」の中で、白扇の扱い方についてアドバイスをいただきましたのでご紹介いたします。講義では、和服でご出席されていた大学本部世話役(剣詩舞専門委員会委員長)の多田正満理事に実演のご協力をいただきました。
一、白扇の扱い方(石川健次郎先生講義より)
 日本の伝統芸能では、舞台で演奏する人の約束ごととして白扇(地紙が白無地の扇)を持つ習慣があり、大変風格があります。大きさは男性が九寸、女性は七寸位です。扱い方は男性の場合、右手の小指の腹が、扇の要(かなめ)(扇の骨をまとめているくぎ)をおさえるように構え持ち(握り持ちとも)して、下方四十五度位の角度に構えるのが基本の形です。歩行中は白扇を持った手を振らないこと(持って歩くことが心配な人は帯に差して歩き、マイク前に止まってから持てばよい)。また、ハンドマイクや詩文用紙を持つ場合など片手がふさがる場合は、白扇は帯にさしておきます。女性は、吟詠の場合、歩行中も立って吟じる時も、白扇は帯にさしておきます。白扇を帯にさす位置は、男女とも左乳の真下です。白扇は、帯から二〜三センチ位、地紙がのぞくように要の方からさし込んでください。
 
白扇の持ち方
 
二、男性が白扇をさしたまま登場する時の注意点
 男性が白扇を帯にさしたまま登場する際の歩き方や白扇を帯から抜いて構える方法などについては、次のように確認させていただきました。
 歩行中は、指は軽く握り、手はあまり振らないこと(ほかに、手を前に構え、袴(はかま)に軽く添えて歩く方法などがある)。
 この場合、マイク前に止まってから、白扇を帯から抜いて構える方法(吟詠後、再び帯にさすことも含む)については、できれば白扇を構える右手で全部処理出来ればよいのですが、普段、扇の扱いに親しんでいる剣詩舞道家の皆さんと違って、吟詠家の皆さんは、白扇を落とすようなことがあってはいけませんので、一度、左手を介して行なわれるとよいと思います。
 
第二回青年吟剣詩舞道大学で講演される石川健次郎先生と実演についてご協力をいただいた多田正満財団理事


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